第48話 ダンジョン実習


ここは東日本探索者養成高等学校。


これから、生徒達のダンジョン実習がはじまろうとしている。


八王子ゲートの前にある広場に割と大きめなリュックを背負って整列し、普段では持ち歩かない本物の剣や槍、そして弓などをそれぞれが緊張した面持ちで持っていた。


生徒達を引率するのは、数名の教師と依頼を受けた探索者達だ。


「探索者学校の皆さん。私はクラン『希望の光』に所属するAランクパーティー『暗夜行路』のリーダーで尾花謙作という。

みなさんもご存知の通り、日本のダンジョン探索は世界に比べて遅れている。

確かに、ダンジョンについての研究成果を上げているが、探索進度はアメリカ、ロシア、中国などに比べると遅いと言わざるをえない。


ダンジョンに度々潜って感じたことは、体力的に高年齢の人達では難しいということだ。

だから、君達のような若い人達の力が必要だ。


今、早急に法改正が進み現行の18歳から15歳に引き下げられようとしている。

早ければ、今年の秋から15歳でも探索者免許を取得できるようになるはずだ。


それは、クラン『希望の光』のクランマスターである西条慎也さんの功績だと我々は思っている。

みんなも知ってる通り、彼は政治家としても優秀だ。

探索者関係の法整備に多大な貢献をしている。


君達も目的があってこの学校に来たのだろう。

私は、若い君達の中から、ダンジョンの最下層に到達し、このダンジョンという不可思議な空間を解明してくれる者が現れると切に希望する』


尾花謙作の話が終わり、みな期待に胸がひろがっいた。


そんな中で、邪な考えを抱いていた人物がいた。


その男の名前は時金光輝、佐々木真里の彼氏で御門賢一郎をハメた男だ。


「長い話だな。挨拶だけで済ませろよ」


今回のダンジョン探索は男女混成の6人パーティーで臨む。


時金光輝のパーティーメンバーには、学校でも一際目立つ黒髪ロングの美少女、東関牡丹という女性がいた。


(俺はついてるぜ。真里と違ってあの女は一流の女だ。この実習中にできるだけ距離を縮めていずれ俺の女にしてやる。

それに最近の真里は束縛がキツくてうんざりしてたところだ。

中学では美少女だと思っていたが、広い世界には真里など足元に及ばない良い女がたくさんいる。

まあ、気軽にヤラしてくれるのは助かってるが、そろそろ切り時かな)


パーティーが決まったのは昨日だ。

本科的なパーティーとしての活動は今回の実習後になる。


その為、連携などの訓練もしておらず、学校側としても今はそこまで求めていない。

今回のパーティーは、学校指導で統率と点呼の容易さから組まれた仮初のパーティーだ。


実習後は、気の合った仲間同士で組むのが普通で、今回のように男女混成にならないケースも多々存在する。


だから、時金光輝はこの機会をチャンスと考え実習後も東関牡丹とパーティーを組みたいと考えていた。


(あとは、ノルウェーからの留学生、アンネ・ソールバルグと浜川すみれは外せないな)


彼が名をあげた女性は学校でも有名な美少女達である。


(まあ、こいつらは追々俺のハーレムパーティーの一員にしてやる。まずは東関からだ)


ダンジョンという危険な場所に臨む前に、そんな邪な考えを時金光輝は抱くのであった。





今回のダンジョン実習の依頼を受けたクラン『希望の光』は、法改正前に事故が起きても困るという事で、ダンジョン発生当時から活動している堅実で有名なパーティーである『暗夜行路』に白羽の矢が立った。


リーダーである尾花謙作は、今年で36歳になり、体力的に最前線はキツくなっている自分を自覚していた。


そんな折、クランマスターである西条慎也さんからこの依頼を受けて欲しいと打診があった。


慎也さんとは、ダンジョン発生当時からの付き合いだ。

何度も慎也さんのパーティーと一緒にダンジョンに潜っている。

そんな彼ももう43歳。

最近では、ダンジョンに潜ることはせずに、国会議員としての活動に主力を注いでいる。


彼は、恐れているのだ。

ダンジョンの魔物達がいずれ地上に現れると。

だから、法改正を進め若年層がダンジョンに入れるように推し進めている。


少しでも被害が出ないようにと……


だが、未成年であり若い彼等は精神的にまだまだ未熟だ。

危険を伴いダンジョン探索で命を落とさないように教育が必要だと言い続けてきた。


その結果、国も他国にならい探索者学校で教育するというシステムができたのであった。


探索者学校ができてまだ7年。

まだまだ世間から受け入れられているとは言えない。


だが、知識があると無いでは有事の時に差がでる。彼が恐れている地上への魔物の侵攻の時にだ。


都内都下に建設された東日本探索者養成高等学校。

近くには、八王子ゲートが存在する。

そのゲート前広場で、整列している探索者の雛達を一段高い場所から見回した。


(みんな、気合いが入っているな)


そして、みんなの前で挨拶を始めたのであった。





「尾花さん、ちょっといいですか?」


挨拶が終わった後、安全確認の為、先行してもらったパーティー『断魔の集い』の斥候である岸部聡太から耳打ちされた。


「何かあったのか?」


「ダンジョン内は特に変わったところは無かったです。ですが、狭間の様子がおかしいのです」


ゲートに入ると奇妙な空間の洞窟、いわゆる狭間と呼ばれている場所を潜らないとならない。


この八王子ゲートの狭間の長さは12、6メートル。

この空間は、あらゆる現代機械を壊してしまう元凶であり、また魔物の地上侵攻を食い止めている防衛空間でもある、と探索者の間では知られている。


「狭間がおかしいって?」


「はい、正確な長さはわかりませんが狭間の長さが約10メートルになってます」


「それは、本当か!」


「ええ、八王子ゲートは何度も潜ってます。狭間は12、6メートル。探索者であれば知ってて当たり前の情報です。ですが先程入って歩幅測定で測ったので正確な数値はわかりませんが約10メートル前後になってました」


「直ぐに探索者ギルド本部に連絡を入れる。岸部君は、他のゲートが異常ないか、支部に確認してくれ」


本部に連絡を入れて、教育達のところに向かった。


「尾花さん何がありましたか?」


そう聞いて来た教員は、元探索者で一緒に潜ったこともある顔見知りの男性だ。


「狭間の様子がおかしいらしい。私もこれから潜って確認するが、今回のダンジョン実習は中止した方が良いかも知れない」


「そうですか、狭間が……わかりました。他の教員と相談して尾花さんが戻ってから決断するようにします。それまで生徒達は、休ませておきます」


理解が早くて助かる。

さすが、元探索者だ。

これが、ダンジョンに潜ったことのない人間なら一悶着あったはずだ。


しかし、これは……


狭間の消失。

アメリカのゲート研究者の1人であるフェイス・アンダーソンが発表した研究内容だ。

年々狭間、アストラル界の距離が数ミリ単位だが短くなっていると言っていた。


また、フランスの研究者はアストラル界(狭間)の消失が仮に起きたとしたら、その時ゲートも消えるだろう、と唱えた。

概ね、フランスの研究者を推す意見が多く、今でもその論争は続いている。


一部の探索者は、狭間が消失しゲートがそのまま残れば現代兵器を使えて攻略が楽になるのでは?と楽観的なことを言っていたが、問題はそこではない。


フェイス・アンダーソンが懸念していたのは、魔物の地上侵攻だ。


もし魔物が地上に出てくることになったら人類の殆どが死に絶えてしまうだろう。

それは魔物による直接の被害だけではなく、日常生活欠かせないインフラの崩壊、二次被害の方が多くの人達の生命を奪うと警鐘を鳴らしていた。


(もし、それが現実になるなら被害は底が知れない)


焦る気持ちを抑えつつ、尾花はパーティーメンバーと一緒にゲートを潜ったのであった。



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