第44話 求めるもの
「あーー疲れた」
勉強会というお泊まり会から解放された俺は、大きな伸びをしてそのまま縁側に寝転んだ。
結局、みんなは俺の家に泊まることになり、女子達は勉強よりは話に夢中になり、俺と深海君は、ラノベやオタク談議をしていた。
みんなと仲良くなったのは良いことだけど、どこか冷めた自分がいる。
また裏切られるんじゃないかと……
『マスター、精神値が上がってもダメダメですね』
(前はこんな風に考えなかったけど、この思考って性格なの?それともまだ引きずってるってこと?)
『風邪とか怪我と違って心の傷は治りにくいですよ。きっかけがあればある時ふと心が軽くなったりもします。向き合うのもひとつの方法ですが悪化する危険性もあります』
(治りづらいってのはよくわかるよ。下手すると一生治らないのでは?って思うし。そんなこと気にしないで普通に生きたい)
『普通の定義は曖昧ですが、まあ、焦っても仕方ありません。治らないとは言ってないのですから。今は心の休み時間だと思ってのんびりする事ですね』
「ニャー」
いつの間にか猫のトラさんがそばで寝転んでた。
「トラさん、久しぶり。何だかトラさん見てると癒されるわ」
「ニャーニャー『こっち見んなっ!何か食い物くれ』」
これってトラさんの声だよね!
知りたくなかったよ、トラさんの心の声。
この時ばかりは言語翻訳が恨めしい。
そんなことを考えていると家の隅っこから縁側を見ている小さな影に気づいた。
その影はゆっくりとこちらに近づいてくる。
そして、意を決したのか駆け足でトラさん目掛けて突っ込んで来た。
一方、トラさんは一瞬ビクッとしてそのままどこかに行ってしまった。
「うわー猫しゃん、いっちゃっちゃー」
今にも泣きそうになってベソをかく、チーちゃんの妹の香穂。
「香穂、まだまだ修行が足りないぞ」
「ちゅぎょうってなーに?」
「修行とは目的の為に頑張ることだ。まずは猫のことをよく知らないとトラさんとは仲良しになれないぞ」
「かほ、ちゅぎょうする!」
「では、まずお昼寝だ」
縁側に座布団を持ってきて、そこに横になった。
「これで猫さんと仲良くなれる?」
「直ぐには無理だ。だが、こうしていれば香穂が追いかけなくとも猫の方からやってくるんだ。先は長いが香穂に耐えられるかな?」
「かほ、平気だもん。ちゅぎょうがんばる」
縁側で香穂と一緒に横になっていると《あら、気持ち良さそうね》と、ペロが亜空間から出てきて一緒になって横?になった。
「あ、ねこさんじゃなくて白いヘビさんがやってきた」
香穂は、ペロを怖がらずに眺めている。
「香穂、この蛇さんはペロって名前だ。でもいきなり触ったらダメなんだ。香穂だって寝てる時に急に起こされたらイヤだろう?」
「わかっちゃ、見てるだけにしゅる」
(ペロ、悪いがその女の子を少しだけペロペロしてくれないか?)
《いいけど、今日はお刺身が食べたいわ。赤いやつ、マグロだっけ?あれお願いね》
(わかったよ。夕方、買いに行ってくるから)
財布に優しくないペロだった。
そのかわり、ペロにペロペロされた香穂は満足したようで喜んでいた。
◇
夕方、買い物に出かけてペロにお刺身を買ってきた。
ペロが美味しそうに刺身を食べてる姿を眺めているとエイシスに問われた。
『ペロをあの小娘の前に出して良かったのですか?』
(庭に池を造ったらいずれみんなにバレるだろうし、ペットとしてみんなに紹介しよかと考えてるんだ。まずは様子見で香穂の反応を見ただけだから)
『そうですね。確かにペロはいつ現れるかわかりませんから困ったものです』
《呼んだ?》
(呼んでないから、食べてていいよ)
《わかったわ》
異世界から帰って来てから、こっちの生活が忙しくてストレージや師匠からもらった魔法鞄の中身の整理ができてない。
それに自分自身の能力の検証もまだだ。
「ねえ、エイシス。魔法の練習がしたいんだけど、どこか良い場所ないかな?」
『ミストラルなら無人島とかダンジョンの中がうってつけなのですが、この世界は監視衛星のような物もありますし、またゲート先のダンジョンで今のマスターが魔法を使うのは少し難しいですね』
「ダンジョンもダメなのか?」
『ええ、採取くらいなら問題ありませんが、魔法を使えばマスターの魔力の元を管理者が把握する可能性があります』
「ダンジョンに管理者なんているんだ?」
『詳細は禁忌事項で話せませんが、マスターの存在がわかれば必ず敵対行動にでるでしょう。今のマスターなら瞬殺されます』
「何それ、怖っ!絶対行きたくないな、ダンジョン」
『ええ、素材の採取なら問題ありませんが絶対ではありません』
この世界では無理ってことか……
『もし、魔法を使いたいのであれば次元魔法を組み込みましょうか?』
「次元魔法って?」
『ペロが棲家にしている亜空間を創れる魔法です。本来なら賢者の石の解放率が60%以上にならないと組み込めないのですが、そこで脳天気に刺身を食べているペロのおかげでマスターには神力が宿りました。
今のマスターの神力は30程しかありませんのでおよそ学校の体育館ていどの亜空間しか創れませんが、魔法の練習はできますよ』
何それ!凄いじゃん。
「是非とも組み込んでほしい。その次元魔法を」
『わかりました。言質はとりましたからね』
えっ!?不穏な言葉が聞こえたんだが……
『では、組み込みます。お覚悟を』
「えっ、ちょっと待ってーーあああああ!!!」
痛い、痛い、痛い!
身体の神経全てが悲鳴をあげてる。
「あーーー!痛い!エイシス、痛いなんて聞いてな……い」
あまりの痛さで俺は気を失ってしまった。
『やはり、まだ身体が未熟でしたか。神経も焼き切れている箇所もありますし、このまま生命活動を維持しつつ、可能な限り身体を強化しましょう。
それでも、◯◯と敵対するには難しいでしょうが……
また、ミストラルに行き可能な限りレベルを上げるようにしませんと。
あの世界に転移するには、まだ時間が必要でしたが、マスターが次元魔法を習得した今ならいつでも可能になりましたし。
マスター、一緒に頑張りましょうね……』
◆
ここはミストラル世界。
大精霊ウンディーネが復活した時に天の柱のごとく眩く光る光景を屋敷で見ていた少女がいた。
その少女は魔法省の官職に就く父親の長女であるが、ある病に侵されていた。
それは、魔力過多症。
魔力が大き過ぎるが故に、自身の魔力で身体を破壊してしまう病で10歳迄は生きられないと言われている。
この病の特徴は、自身の魔力で身体が焼け爛れしまい至る所から出血し出す恐ろしい病だ。
そんな病を背負ってしまった少女、ユリア・ストロークは来月に10歳の誕生日を迎える。
そんな彼女が天に昇る光の柱を見たのは、幸か不幸かまだわからない。
だが、彼女はある決意を固めていた。
お母様は、私の病気を治す為に奇跡の実を求めて、護衛達と一緒に大森林に向かった。でも、途中で魔獣に襲われて亡くなってしまった。
お父様は、お母様が亡くなったのは私のせいとばかりに、私に会いに来なくなった。
第二夫人の義母は、私を穢れた娘と罵り、その子である長男のマイクは最初は私を虐めて楽しんでいたけど、私の病気が酷くなると汚いと言って避けるようになった。
メイド達も用が済めばさっさと部屋を出て行ってしまう。
私は、この家に必要ない人間だ。
だから、身体が動く今しかチャンスはない。
「優しかったお母様のところに行くのは今しかないの」
大森林から立ち昇る光を見て、私は行動に出た。
醜い姿を隠す為に、顔を隠せる厚手のローブを羽織り、じっとみんなが寝静まるまでそっと息を潜めていた。
「お母様があの光の柱を目印においでと、私を呼んでいるんだわ」
そうして、夜は更けていくのであった。
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