第13話 畑を整備しよう

「へっこら、どっこいせっと」


僕は今、庭先の南側に広がる畑の草むしりをしている。

昨日、茜おばさんに畑を貸してほしいと頼んだら、喜んで貸してくれた。

茜おばさんも仕事で忙しくて畑がそのままの状態になっていたのを気に病んでたようだ。


「それにしても雑草がどうしようもないな」


『マスター、風魔法を習得しますか?一瞬で草刈りできますよ』


「そんな便利な魔法があるなら教えてほしい」


『魔力操作で魔力を集中できるようになりましたか。あ、まだでしたね。では、無理です』


「おい!知ってて言ってるよね。無理なら期待させないでよ」


『土魔法を習得できれば、耕す時に草も抜けますよ。習得……無理でしたね』


「おい!さっきから知ってて言ってるよね。そうだよね。僕の事バカにしてるよね」


『…………』


エイシスは黙り込んでしまった。


仕方なしにへっこら、へっこらと、草を引っこ抜いていると、背後に視線を感じる。

柚木家の西側にある物置の影からこちらを伺っている視線があった。


僕がその視線に目を向けると「ひょい」って隠れてしまった。


「敵は素早いな〜〜」


僕はその視線の正体を知っている。

柚木家の次女の香穂だ。

日曜日なので、家で遊んでいたのだろう。


「それより、これ。今日中に終わるのか?」


取り敢えず、今抜いてるところを中心に買ってき苗と種が植えれる場所だけでいいか。全部の畑の雑草取りは今日だけでは無理だ。


「へっこら、へっこら」 「ぺっこ、ぺっこ」

「どっこい、どっこいっと」  「ちょこ、ちょこと」


さっきから僕の背後で舌ったらずな掛け声が聞こえる。

僕がその掛け声を方を向くと『だーー!』っと畑を駆け抜けてまた、物置の影に隠れて視線だけをこちらに向けている。


いつの間に背後に来てたんだ?

気付かなかったよ。


「香穂、お前は何者だ!」


そう問いかけると、


「ちらない」


そう返事が返ってきた。


まあ、そうだよね〜〜。


まあ、自宅の裏だし危険は無さそうだし。

僕は香穂を好きにさせておく事にした。

今日の陽気はとても良好で頭にくるほど太陽が頑張っている。

おかげで汗が止まらない。


水分取らないと熱中症になりそうだ。作っておいた麦茶を持ってくる。

勿論、畑に石を運んで何やら模様を描いている香穂の分もだ。


「麦茶飲むか?」

「のむ」


陽当たりが良過ぎるので、日陰になっている縁側に腰掛けて麦茶を飲んだ。


縁側には、猫のトラさんが腹を出して眠っている。


くつろぎ過ぎだろう!っと、一応、ツッコんでおく。


香穂は猫のトラさんを見つけ、眼を輝かしている。その眼光の鋭さは欲しいおもちゃを見つけた幼児そのものだ。


一目散にトラさんに向かう香穂。

トラさんは最初は大人しく撫でられていたのだ力加減のわからない幼児相手では武が悪かったのだろう。起きあがって「ニャー」と、一言鳴いて逃げて行ってしまった。


「ねこさん、いなくなちゃっちゃーー」


そう叫びながら今にも泣きそうだ。

不味い、泣かれたら後が大変だ。


「香穂、あの猫はトラさんって名前で、香穂は良い子だからまた直ぐに遊びに来るよ」


「ほんちょ?」


「うん、本当だよ。もっと麦茶飲むか?」


「のむ〜〜」


泣かなくて良かった〜〜


『通報しますね』


(おい!エイシス。香穂は従兄妹だし、それに僕は何もしてないだろう)


『泣きそうな幼女を言葉で巧みに黙らせ、〇〇飲むか?と、卑猥な行為に及ぼうとしました。まさしく通報レベルの案件です』


(麦茶だよ。麦茶!〇〇って何だよ!)


エイシスと脳内会話してると、頭がおかしくなりそうだ。


「なあ、香穂。茜おばさんは何してるんだ?」

「ママはね〜〜せんたくしてる」

「パパは?」

「ゴルフいくっていっちぇた」

「お姉ちゃんは?」

「がっこういっちぇる」


柚木家は、それぞれ用事があるようだ。

それでは、仕方ない。

畑の続きをしながら香穂を見ておくか。


「おじい、どこいく?」


ううん?今、僕のことおじいさんって言った!?


「香穂、僕はおじいちゃんじゃないぞ」

「かみのけしろいからおじいちゃん」


白髪だからそう見えたのか?

ジミにショックなんだけど……


「香穂、お爺ちゃんじゃないぞ。お兄ちゃんだ」

「おにいたん?」

「そうだ。お姉ちゃんと同じ歳なんだから」

「わかった。おにいたん」

「よし、偉いぞ香穂は」


『通報しますね』


(おい!従姉妹の頭撫でてただけだろう)


『幼女を触って、えらいね〜、じゃあ今度はこんなことできるかな?と、言ってたことは、完全にアウトです』


(そんな事言ってないよ。捏造するな!)


あ〜〜っ、もう!!


無視だ、無視に限る。


「さあ、草むしりをするぞーー!」

「ちゅるぞ!」


香穂も僕の真似をして片手を空に伸ばした。


それから、一緒に草むしりをしたのだが、香穂は石を運んできては綺麗になった畑に撒いていた。


行動が謎だ……



◇◇◇



「えへん。今度は種を蒔きます」

「まきまちゅ」


草むしりが思ったより大変だったので、少し時間がかかってしまった。

柚木家の北側まで広がっておる広い畑のほんの一部、僕が住んでいる旧母屋側に近い場所でテニスコート半分くらいの面積だけだった。


エイシス曰く、石灰を入れて10日くらい土を寝かせた方が良いと言われたのだが、僕は早く種を蒔きたくてうずうずしてたので、『仕方ありませんね。後で対処しましょう』と、何か考えがあるようだった。


一列毎にトマト、ナス、ピーマン、シシトウの種を蒔いていく。

香穂もお手伝いしてくれたのだが、何故か小石を拾っては一緒に埋めていた。


石、好きなの?


ジョウロで水を蒔いて、一通りの作業を完成させたのだが、途中で香穂が眠くなってきたみたいなのでおんぶして柚木家に送り届けている。

その時、茜おばさんからお昼用におにぎりとおかずを頂いてたりしている。


縁側に腰掛けておにぎりを食べてると、どこから嗅ぎつけたのか猫のトラさんがやってきた。

煮干しと鰹節があったので、トラさん用の受け皿に出しておくと、パクパクと食べ始めた。


猫缶とかの方が良いかな。

今度、買ってきておくか……


そんな事を考えながらおにぎりとおかずを頂き、縁側にゴロンっと横になる。

汗は引いているので、ちょうど良い感じだ。

香穂じゃないけど、少し眠くなってきた。

このまま、少しだけ昼寝して午後からは、草むしりの場所を広げないと……


エイシスに邪魔される事なく、30分ぐらい昼寝してしまった。

起きたのはトラさんが僕のお腹に乗ってきたからだ。


可愛いけど重い……


風が少し吹いてきた。

涼しい……


エイシスが風魔法とか土魔法とか言ってたけど、使えたら便利だよな。

魔力操作が上手く行けば使えるみたいだけど、どうすれば良いのだろう?


『そうですね。では、鑑定、ストレージ、言語翻訳の異世界転移3点セットを修得しますか?』


「どうせ魔力操作が上手にできないと無理なんだろう?」


『いいえ、この異世界転移3点セットは魔力操作は関係ありません。今のマスターなら大丈夫でしょう』


修得できるのならありがたいが、何故、今頃?


『それは、マスターの人格、性格、思考を分析して習得しても問題ないと結論付けたからです』


「ようは、エイシスに試されてたって事?」


『正解です。賢者の石はとても貴重なものです。この世界のあり方を塗り替えてしまえる力どころか、数多に存在する世界をも掌握できてしまうほどの力を持っています。マスターの人格が悪よりならば世界がいくつか滅ぶでしょう。それを回避するために慎重になっていました』


エイシスが随分、ぶっちゃけて話してくれたけど、世界を滅ぼすなんてそんな面倒な事するわけないだろう!


『マスターは以前、幼馴染に振られて学校でいじめを受け、引きこもり生活をしてましたね。いわゆる、寝取られ引きこもり野郎だったわけです』


おい!そこはデリケートな部分だからオブラートに包めよ。


『おほん!その時の感情を分析した結果、悪魔的な思考に支配される確率は46%でした。当時【賢者の石】の力があれば、人の悪意に呑まれて自分を見失い復讐心に身を任せて対象者だけではなく、世界そのものが危機となっていたでしょう』


確かに、あの時は自分の無力さに嫌気がさしていた。

僕をはめた彼女やイケメン先輩を今でも許せない。

でも、理解したことがある。

うちの家族の面々がただ家に住んでた他人だと気づいた事だ。


これから先、このような事象が起きた場合のシュミレーションをした結果、今のマスターは73%賢者の石の力を使い世界を滅ぼしてしまうという結果が出ています。このシュミレーションは、マスターの成長とともに変化していくでしょう。その際、80%以上の確率で最悪の結果を引き起こすようなら、私はマスターを殺します』


エイシスから、真面目な話を聞かされた。

慎重になっている点は理解できる。


「つまり、エイシスは、僕が暴走した場合のストッパーって事なの?」

『大賢者たる者、あまねく世界で生命活動する者達の頂点なのです。そんな高次元の存在であるマスターが私利私欲の為に暴走、若しくは他の生命体を理不尽に迫害してしまえば大賢者としての名前に傷が付きます。よって、私ことエイシスは、そんな暴挙に出た場合のマスターを粛清する義務があります』


エイシスは、大賢者のスキルのひとつ【叡智システム】だ。

優先すべきは大賢者たる資質であって僕ではない。


今の僕は他人には興味がない。

誰が生きようが死のうが僕には関係ない。

他人の人生に介入するつもりはないし、したくもない。


そんな僕がこれから先、どうなるか正直わからない。

彼女に裏切られる前の僕のように大切な人ができて、甘くてちょろい性格になる事は無理だろうけど、今の自分よりも他人に興味を持てる自分になるかもしれない。


一度失った命をエイシスが助けてくれたから、今の自分があるわけだし世界に迷惑をかけるような事はしないよ。

というか、そんな事したら目立つしね。

無理、無理、人に注目されて生きていくなんて考えただけで冷や汗が出てくるよ。


『本当、マスターは残念ですね。ですが、私としては好ましいです』


えっ、エイシスが僕を誉めた!?


『違うんだからね。そんな事、思ってないんだからネ』


「とってつけたようなツンデレは、やめろ!」


まあ、この先、どうなっていくか自分でもよくわからないが、暴走したらエイシスが止めてくれるというなら安心だ。


「頼むよ。相棒」


『任されました』


相変わらず猫のトラさんは僕のお腹の上で気持ちよさそうに寝ている。

こんな平和な時間が続くのなら、この世界も悪くないかもしれない。

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