第727話 援軍・2

 黄金の剣……ボースハイル帝国が誇る五大クランの一つで、帝都を中心に活動している。

 貴族の後継者になれなかった者が多く在籍しているのが特徴だ。

 そのため他人を見下す者が多く、帝国を体現しているクランなんて揶揄やゆされているらしい。

 表立っては言ってはいないみたいだけど。

 ただ幼少の頃より剣術などを習っているからか、腕が立つ者が多いのも事実。弱い奴は弱いみたいだけど、そういう輩は所属しても時間が経つと辞めていくそうだ。


「何で奴らが?」


 とアルゴは眉をひそめたが、


「大方利になると思ったんじゃないか? 大きな貸しが作れると思ってよ」


 とギルフォードは分析していた。

 実際黄金の剣はこれでもないというタイミングで現れて魔物を蹂躙じゅうりん……一部反撃にあっている者もいたが、倒していく。

 その勢いに俺たちの相手にしていた魔物が引き寄せられるように黄金の剣の方に流れていき、剣の錆びとなっていった。

 黄金の剣の勢いは留まることを知らず、やがて魔物が出てきている建物の中へと雪崩れ込んでいった。

 金属音鳴り響き、怒号が聞こえていたが、それも三〇分もすると収まった。

 そして黄金の剣の者たちは勝ち鬨を上げて、全ての魔物を倒しきったと宣言した。


「建物内の確認をしていいか?」


 それに対して軍人の一人が質問をした。

 声を掛けられた黄金の剣のメンバーの中には剣呑な雰囲気を出すものがいたが、リーダー格の人間は気にした様子もなく頷いた。

 たぶんこの人は、これが軍隊の仕事だと理解しているのだろう。

 逆に剣呑な雰囲気を出した奴らは、それを知らず自分たちの仕事にケチを付けられたと思ったのかもしれない。


「俺たちもいいか? 中に知り合いがいてよ」


 それに便乗するようにアルゴも声を発した。


「……勝手にしろ。無駄だろうがな」


 それに対する反応は冷めたもので、特に興味らしいものを示さなかったが、拒否はされなかった。

 アルゴとギルフォード、俺の三人が軍人の後ろについていく。

 全員で行かなかったのは、変に目を付けられるのを避けるためだ。

 特にミアたちは目立つからな。

 それを知ってかヒカリも今回は素直に留守番だ。

 建物の中は酷いもので、思わず吐きそうになった。

 血が飛び散り、原形の崩れた肉塊が転がっている。


「酷いな」

「ああ、けど魔物の死体が一切ないな」


 アルゴとギルフォードの声を聞きながら解析を試みるが、さすがに鑑定は出来ない。

 辛うじて原型を留めている……頭と胴体がくっついている死体のみ鑑定することが出来たが、そのような死体は両手で数えられるぐらいしかなかった。


「ソラ、どう思う?」

「これが魔物の仕業じゃなければ終息したと思えるんだけど……」


 結局誰がこんなことをしたのか、その姿が見えないから確証が得られない。


「けどここも鍛冶工房なんだな」


 見ると鍛冶に必要な道具が散らばっている。


「もともとここは貴族が使っていた屋敷だ。落ちぶれて売り払ったそうだ。かなりあくどいことをしていたらしい。もう三〇年も前の話みたいだけどな」


 俺が周囲を見ていると、軍人の一人が応えるように話し出した。

 とにかくここの家主の貴族は、奴隷を買い漁り、地下室に閉じ込めてかなり凄惨なことをしていたそうだ。


「……その地下室は今どうなったんだ?」

「埋め立てたとか聞いたけどな」


 俺が尋ねると律義に答えてくれた。


「まさかその地下室に騒動を起こした奴が逃げたなんてことないよな?」


 ギルフォードの呟きに、俺たちは動きを止めた。

 それこそそんな危ないことをやっていた奴だ。秘密の隠し通路なんてものがあるかもしれない。

 考えすぎかもしれないが、一度気になると想像は悪い方に膨らんでいく。

 俺と同じように考えているのか、顔色が悪くなった軍人が何人かいた。


「す、すぐに確認してくる!」


 と一人が外に駆けて行く。

 誰に確認するのか……やっぱり領主か?

 だけど調べるにしても時間はかかる。

 仮に逃げた者がいたら間違いなく手遅れになる。

 かといって闇雲に探したところで見つけることは不可能だ。

 だって広いからな。

 なら選ぶ手は一つ。

 俺はステータス画面を呼び出してスキルポイントを確認する。

 ウォーキングのレベルは上がりにくくなっているけど、使用可能なスキルポイントは10ある。

 俺はスキル欄に目を通して必要なスキルを探す。

 目についた中で使えそうなのは二つか?


【発見】【看破】


 発見はダンジョン内でアイテムを見つけるのが主な効果みたいだ。

 これって宝箱も見つけることが出来るのかな?

 MAPと併用出来たらアイテムを取り放題とかなりそうだ。

 アヴィドダンジョンならそれこそ鑑定で鉱石を探しているけど、発見で分かるとか。

 外だと木になっている果実や、薬草の群生地などを見つけることが出来るみたいだ。

 遠いと分からないみたいだけど、スキルレベルが上がったら範囲が広がるようだ。

 看破は隠れたものを探す効果があるみたいで、ダンジョンなら罠とかが分かる。

 あとは魔物の弱点とかも分かるようになるみたいだ。

 必要なスキルポイントはどっちも1だから二つ習得してもいいけど、まずは看破かな?

 秘密の通路とかあるなら、こっちで探る方がいいだろうからな。

 俺はスキルポイントを1消費して、看破のスキルを習得した。

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