第1章 115話 堕ちた英雄 vs エージェント②

気配を消し、DBC弾の効果に苦悶をするテトリアの背後に回る。


SGー01を破龍に持ちかえ、上段から斬り落とした。


ガッ!


首筋への斬撃が弾かれる。


硬化魔法···動きを読まれたか···。


手首と肘の回転で反対側の首筋に斬撃。


ガッ!


またもや弾かれるが、そこから回転を強めて、肩、大腿、腰への連撃に繋げる。


ガッ!


ガッ!


ガッ!


視界が奪われ、背後からの攻撃を受けているというのに、テトリアはそのすべてを硬化魔法で弾いていった。


「ぐぬぅ···。」


微かに聞こえる苦悶の声。


これは、まさか···。


俺は、ある推測に思い当たった。


後ろへ跳び、十分な間合いを取ってからGLー01を取り出し、引き金を引く。


ポンッ!


ヒュ~···ドォーン!


テトリアが榴弾の直撃を受ける。


爆風で土煙が漂い、視界を遮った。


気配を読み、結論づけた。


うん、これはあかんやつだ。


そう思った矢先に、土煙の中からテトリアが抜け出し、超高速で間合いを詰めてきた。


「君はっ!君と言う奴はっ!!なんて卑劣なんだっ!!!」


ああ···何か、めっちゃ怒ってる。


まあ、そりゃそうか。


テトリアの英雄譚に関しては、軽くだが目を通したことがある。圧倒的な魔力と身体能力で、いつも敵に対して真っ向勝負で挑んでいた。


搦め手ばかりの俺に対して、憤るのは当たり前だろう。


ただ、「世界征服」とか言っている奴に、罵られたくはないのだが···。


テトリアの両刃剣が斜め上方から襲いかかる。俺は破龍を合わせることなく、全力でバックステップした。


ザッ!


ドーンっ!


刃はかわしたが、衝撃波で俺はさらに後方に飛ばされ、テトリアの両刃剣が振り抜いた先の地面は楕円形に陥没をしていた。


そして···


「ぐっ!?」


俺は衝撃波ではなく、剣風により袈裟斬りにされていた。




致命傷ではないが、浅くもない。


肩から脇腹にかけて血が吹き出し、足元を濡らしている。


「僕の硬化魔法は、体全体を覆う。不意打ちなんて姑息な手は通じないよ。」


「···さすが、膨大な魔力を有するだけはあるな。身体能力も、その恩恵か?」


「そうだよ。絶えず身体能力強化魔法を行使しているからね。」


「それなら、俺を取り込む必要なんてないだろ?」


「ベースとなる肉体は、能力値が高ければ高い方が良いのさ。多少、傷つけても回復魔法で修復をすれば、取り込む時に支障は出ないしね。」


「取り込むと言うよりは、体を乗っ取るみたいだが···。」


俺の血で地面が変色していく。


流血はしているが、すぐに失血死をするほどではない。あまり時間はかけられないが···。


「言ったろ?ベースにするだけだから。容姿は魔法で変えられるんだよ。」


テトリアの言葉には、もう苦悶は感じられない。状態異常回復の魔法もお手のものということだろう。


「俺の顔で世界征服をされないだけマシだな。」


「当然だよ。ハーレムの女性達を、君の顔で相手するのは何か違うでしょ?」


態度を見る限り、油断をしていると感じる。体全体を覆う硬化魔法と、身体能力強化魔法に絶対的な自信があるのだろう。


「·····················。」


「ふふ、少し息が乱れているね。さすがの君も、僕は怖いのかな?」


出血したら、そりゃあ息も乱れるわ。


「ああ···怖いな。まともに勝負をしても、歯が立たないようだ。」


「だから、あんな卑怯な真似を?」


「ああ···あれは、神アトレイクの指示に従っただけだ。」


『おいっ!』


もちろん、嘘だ。


「ふ~ん、アトレイクも堕ちたね。まぁ、もともと堕神だしね。」


『待てっ!?私は何も言っとらんだろうが!!』


「そうだな。」


「僕たちにとって、アトレイクこそが悪の元凶だね。」


『ちょっ!?』


会話を引き延ばすことで、次の手段を選択することができた。アトレイクが何か言っているが、当然無視する。


賭けだが、それを試すしかない。


「でも、シュテインも同じ堕神だぞ。また、良いように使われるのじゃないか?」


「さっきも言ったよね?何度も騙されるほど、僕は馬鹿じゃないよ。」


「そうか···じゃあ、今から言う言葉の意味も、しっかりと考えてみてくれないか?」


「言葉の意味?」


「ああ。『寝言は寝て言え!』だ。」


俺は賭けに出た。


「はあ?」


テトリアが気の抜けた声を出す。


右手の破龍から手を離し、神威術で現れたAMRー01を手に取った。


装填は既にされている。


すぐに腰だめで構えた。


「なっ!?」


テトリアから驚愕の声が出た。


搭載された魔道具レーザーサイトから出る赤い斑点が、テトリアの胸部を捉える。


ドッゴーンッ!


引き金を引いた刹那、大気を揺るがす轟音が迸る。


ドガッ!


テトリアの胸部に命中するが、鈍い音を放ちながら、硬化魔法に遮られる。


チャ、ジャキッ!


すぐにボルトアクションのレバーを操作し、次弾を装填。


ドッゴーンッ!


チャ、ジャキッ!


ドッゴーンッ!


チャ、ジャキッ!


ドッゴーンッ!


続けざまに連射し、3発目が硬化魔法を打ち破った。


チャ、ジャキッ!


ドッゴーンッ!


4発目が胸部を撃ち抜き、その衝撃でテトリアの体が後方に吹っ飛ぶ。


血煙が非現実的な空間を演出し、あまりの破壊力にテトリアの体は空中で四散していた。




10メートル以上先まで飛ばされたテトリアだったものを確認した。


稀代の英雄とは言え、硬化魔法が打ち破られれば生身だ。過剰な火力には成す術もない。


俺はAMRー01をGLー01に持ち替え、榴弾で屍と化したテトリアを一掃した。


爆音の後、静寂が辺りを覆う。


「神アトレイク。」


『気を抜いてはならんぞ。奴は思念体だ。肉体が滅びようと、終わりではない。』


「マジか···思念体には、物理攻撃は有効なの···。」


急に寒気がした。


地面の染みから、白い靄のようなものが発生する。


実体がない思念体を相手にするなど、想定にないぞ···。


ミッション·イン◯ッシブルかよっ!?




おいおい···あれはヤバいだろ。


俺の頭の中で警鐘が鳴り響いていた。


すぐに踵を返し、全力で走り出す。


魔族や魔物ならともかく、実体のない敵など、対処法がわからない。


「神アトレイク!あれを倒す方法を教えてくれっ!!」


こういう時こそ、神頼みしかない。


『····················。』


しかし、反応がなかった。


「おいっ!?」


『···私は、間違っていたのか?』


「はい?」


『テトリアが言っていたように、私が悪の元凶だったと、そなたも思うのか?』


···面倒くさい。


神がナーバスになるなよ···。


「テトリアはシュテインに洗脳されていた。成熟しきれない内面を抱え、もっともらしい理由付けに勝手な解釈をした。ただそれだけだろっ!」


こんな時に、細かい思考をするなよ。


「···本当に、そうだろうか?」


一緒に闘ったという絆のようなものでもあるのだろうか。やたらとテトリアの言葉を気にしている。


「アホかっ!俺もテトリアの片割れだろうがっ!!だったら、その理に耳を傾けろやっ!!!」


『!』


「あ!?」


『そうかっ!そうだったな!!うむ、そなたもテトリアから派生した身。そうか、そうだな。』


どれだけ人間くさい神だよ。


「それでっ!何か打開策は無いのか!?」


『無くはないが···賭けだな。』


ようやく生産的な話になった。


後方からは、嫌な気配が追い縋っている。


「賭けでかまわない。どうすれば良い?」


『鎧を纏え。』


「わかった!"なんでやねんっ!!」


理由を聞く間も惜しい。


俺は、すぐに神アトレイクの言葉に従う。


発光と同時に、漆黒の鎧が俺の全身を包み、途端に視野が狭くなった。


『よしっ!"フォーム·チェンジ、ホーリーソードっ!!"』


「は?」


フルプレートの鎧が、その形状を変え、漆黒の剣が俺の手に握られていた。


『私の全身全霊をかけて、テトリアの思念体を淘汰する。この剣で、あやつを斬り裂くのだ。』


···ヒーロー物か!?


まあ、良い。


ツッコミを入れている暇はない。


「わかった。」


俺は左に旋回し、すぐ後ろにまで迫った白い靄を正面にとらえた。


縦に両断するかのように、漆黒の剣を振るう。


空気を裂いた時と同じように、手ごたえは何もない。しかし、テトリアの思念体に剣が触れたと同時に、カッと眩い光が周囲を包み、そのまま俺は意識を手放すこととなった。




『タイガよ。私はしばらく···そなたから離れようと思う。今のままでは、第2のテトリアにしてしまいかねんからな。』


意識のない中で、神アトレイクの声を聞いた気がした。


「···しばらくってことは、また現れるのか?」


『···テトリアがいなくなれば、シュテインも決め手を欠くはずだ。今しばらくは、表立った行動は控えるだろう。その間は、自分がやりたいように生きれば良い···と言うか、そんなに私が嫌なのか?』


「逐一、側に居られるとプライバシーがな···。」


『ろくに異性も口説けないくせに、プライバシーも何もないとは思うがな···。』


「1人になったら、やってみるさ。俺も、テトリアみたいにはなりたくないからな。」


『まあ···せいぜいがんばるが良い。』


「ああ、そうするよ···。」


夢か現実かはわからないが、そんなやりとりがあった気がする。


そして、次に気がついた時···これが実際にあったことだと、認識することとなった。




テトリアと闘った場所で目を覚ました。


自分以外は誰もおらず、神アトレイクに呼び掛けたが返答はない。


テトリアに受けた傷は塞がっており、薄い皮で癒着している。どれだけの時間が過ぎたのかはわからないが、それほど長い時間ではない気もした。


シニタに戻ろうと思い、転移を試してみたが···。


「転移···使えない···。」


因みに、神威術そのものが使えなくなっていた。収納していた蒼龍や銃器も顕現化せず、闘いの中で地面に落とした破龍だけが手もとに残っていた。


「マジか···。」


テトリアの鎧が変化したピアスもなくなっており、神アトレイクが言葉通りに離れていったことを自覚する。


「てか、ここどこだよ···。」


その後、周囲を探索してわかった。


見知らね土地であると。


異世界に転移してきた時ほどではないが、俺は途方にくれることになった。
















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