第1章 43話 王都への招聘③

「俺達は、スレイヤーギルドから派遣されて来ている。これまでに長年に渡って魔物の存在が確認されていない地域で異変が起きた場合、国の驚異として徹底調査をすることになっている。」


「スレイヤーギルド!?···いや、だから勘違いだと言ってるだろ!」


「目撃者は君か?」


「そうだ!狼と勘違いしたんだ!!」


今度は守衛の男が額に汗を浮かべている。おもしろい。俺は基本的にドSだぞ。


「ほう、おもしろいことを言うなぁ。勘違いとどうしてわかるんだ?ウォーウルフと狼の違いを言ってみてくれないか。」


「あ···それは、普通の狼と同じ大きさで···見た目も変わらなかったから···。」


「ウォーウルフにも個体差はある。そもそもが普通の狼と見分けがつかないのに、なぜ魔物が出たとか、やっぱり普通の狼だったとか言えるんだ?」


「···いや···それは···遠かったから···。」


「遠目に見て狼の群れが見えたと言うのならわからんでもないが···長年に渡って魔物が出たことのない地域に住んでいる君が、なぜ魔物と勘違いをする?何か違いがあったんじゃないのか?」


「うぅ···。」


男の顔には、滝のように汗が流れていた。


「もう···間違いだったって言ってるだろ!帰れよ!!」


「間違いでも狼が十数体出たのなら、冒険者ギルドの領分だ。狼を退治しておく必要があるだろう。」


「い···いや···狼も見間違いかも···。」


「そうはいかない。魔物が出現した可能性が少しでもあるのなら、俺達は徹底調査をしなければならないからな。狼の場合でも冒険者が同じことを言うだろう。」


「····あれは···嘘なんだ!ちょっと遊び半分で冗談を言ったら、大事になっただけだ!!」


あ、墓穴を掘りやがった。


どう見ても村人ではなく、荒事が得意そうな野郎が、「遊びで嘘をつきました。」なんて言っても信じるバカがいるか。


「ふ~ん。嘘ねぇ···それは大変だな。知っていると思うが、魔物に関する虚言は国への反逆罪と見なされて即死罪だぞ。」


「えっ!?···嘘だろ····。」


はい。


嘘です。


そんなわけないじゃん。


「理由を教えてやろう。まず、俺達スレイヤーが、担当地域に魔物の脅威がありながらも、新たな不穏分子の調査のために戦力を割いて動いた。これにより、多くの人間が身の危険に晒されたことになる。通常は、虚言によりギルドの人間が動かざるを得なかった場合、多額の賠償責任が課せられるか、拘束をされて裁判にかけられる。今回の場合は、自分で虚言である事実を述べただけでなく、俺達を門前払いにしようとした。多くの人間を混乱と危険に陥れた事を自覚しているのに、反省の色が全く見えない。再犯の可能性もあるし、スレイヤー条項124の第二法に照らし合わせて、時間をかけずに処理をさせてもらうことになる。」


俺は殺気を放ちながら、蒼龍を抜刀した。


今言ったことはすべてハッタリだ。説得力を持たせて尤もらしく話すことで、相手は恐怖する。スレイヤー条項?はっ、何それ。


「···ひぃぃ···助けてくれっ!」


男が逃げ出そうとしたので、襟首を掴んでそのまま締め落とした。


ケリーとセイルは、目を丸くして事の成り行きを見ていた。


スレイドはめちゃくちゃだと言わんばかりの顔をし、ガイウスは面白そうに口を綻ばせている。


「村長、中を案内してもらっても良いですか?」


「え···でも···。」


「魔物の脅威から人を守るのがスレイヤーの務めです。人間に化けた魔物もいることですし。」


今の言葉に、四方からの監視の気配が色濃く反応した。


「スレイド。気づいていると思うけど、覗き見が好きな魔物が4体いるようだ。処理を頼む。」


「わかりました。」


魔物4体とは、近くで監視をしている人間の事だ。


「僕も加わります。」


ガイウスも働いてくれるようなので、2人に任せることにした。




村の中に入ると、村長は集会場のような建物から視線を動かさなかった。ソート·ジャッジメントでも、そこから微かな悪意の反応がある。


誰かを人質に取られているのかもしれない。


「途中で消えるから、そのまま行ってくれ。」


隣を歩くセイルに、口元を隠して小声で伝えた。こくんと前を向いたまま頷く。この冒険者パーティーは察しが良い。


俺はわざと歩みを遅らせて最後尾に行き、集会場の窓から死角になる位置で身を隠した。


集会場は平屋の建物だ。


窓にはカーテンがあり、中は見えない。


悪意の反応は2つ。


俺は蒼龍とバスタードソードを背中から外して、建物の基礎部分に隠した。


小石を2つ拾い、集会場の玄関扉に投げる。


コンッ、コンッ!


ノックのような音が鳴った。


そちらで気を引いている間に反対側へと周り、扉が開く音がした瞬間に、ニーナの所で購入したセーフティスティックでガラスを突いて割る。


ガッシャーン!


ガラスが粉々に割れ、床に散らばると同時に室内に侵入していた。


30畳に満たない部屋。


数人の子供達と男が2人いる。


手前の男の眉間を狙ってセーフティスティックを投げつけ、玄関側にいた男に駆け寄って鳩尾に蹴りを入れた。


ドンッ!


ドアに体を打ちつけられて崩れ落ちる。


部屋の中央にいた男はセーフティスティックをかわしたようで、近くの子供を掴もうとしている。


もう一度セーフティスティックを投げつけ、同時に走り寄る。気づいた男がそれを避けるために子供から離れたところを、顎への掌底一発で沈めた。


少し怯えた感じの子供達ではあったが、「お家に帰ろう。」と言って笑いかけると、表情を変えてくれた。


安心をしたのか、笑ったり、泣いたりと様々だったが、トラウマにさえならなければ良い。


子供を盾に脅すような奴等は、絶対に許すわけにはいかなかった。




子供達を村長に引き渡し、スレイドの方も片付いたことを知ると、集会場に捕縛した6人を転がして尋問をした。


当然、素直に喋る奴なんかはいない。


「しょうがないなぁ。あんまり使いたくはなかったけど、この瓶の中身を飲んでもらおうか。」


ポケットから取り出した小瓶を振る。男達に怯えが走った。


「な···何だよ···それは···。」


「俺の故郷では、デスソースと呼んでいる。」


「デ··デスソース····毒かよっ!?」


「さあな。あんまり楽には死ねないかもな。」


俺はニタァと笑った。




「それじゃあ、あいつらの仲間がまだいるってこと?」


「ああ。残りは3人だそうだ。」


真相は良くあるような話だった。


この村から数キロ先で、金鉱が見つかった。発見したのは若い村人で、悪友である守衛の男に話をして、自分達のものにしようと企んだらしい。


通常、金鉱などが見つかると、土地の権利を有する者が採掘の権利を得る。発見場所は、村人が共同で所有する特産品であるキノコの採取場だった。


男達は金鉱のことをこの村に気づかれないように、魔物が発生したと若い村人に虚偽の証言をさせた。しかし、魔物の襲撃を恐れるあまり、特産品の運搬が滞ってしまい、今後の生活への不安から1人の村人が冒険者ギルドに依頼を出したことで歯車が狂い出した。


男達は冒険者が村を訪れて調査をしないように、村の子供達を人質に取って村人を脅したのだった。


それが今回のあらましである。


男達は拘束され、地元の保安係に引き渡されることになった。残りの3人についても、ガイウスとセイルが溜り場に踏み込んで捕縛をしているはずだ。


俺とスレイドは王都に行かなければならないので、後の処理をケリー達に任せて馬を走らせた。


「タイガさん、またお会いしたいです。」


「まったね~。」


「楽しかったですよ。また今度酒でも飲みましょう。」


三者三様の挨拶で見送られたが、そうそう会うこともないだろう。


気持ちの良い3人だったので別れを惜しみつつ、王都に向かうことにした。


今回の一件で、半日以上時間を取られてしまったので先を急ぐ。今日中には王都に着いておかないと、野宿をするはめになるからだ。




夕方遅くに王都に到着した。


湿って足場が悪い場所を通過したことや、冒険者と同行したことで、当初の予定よりも少し遅れての到着ではあったが、王城に出向くのは明日でも大丈夫だった。


王都は初めて訪れたが、かなりの大都市だ。外周に張り巡らされた城壁が圧巻で、王都内に入るためには、その数ヵ所に設けられた検問を通過する必要がある。


検問所近くの厩舎に馬を預けに行くが、順番待ちで長蛇の列ができていた。


「俺達はあちらのようですね。」


スレイドに言われてその方角を見ると、王城の来賓用の窓口があった。貴族らしき馬車が数台あるだけで、それほどこみあってはいない。


「ご本人確認ができました。それでは、奥で湯浴みと診断を受けられてから、入都してください。」


奥に進むと、シャワー室があった。


体を清潔にし、治療院から出向してきている医師の診察を受ける。


疫病防止のためのようだ。


こういった対策がされているところを見ると、しっかりとした国政がされていると感じさせられる。


一通りの手続きを済ませて城壁を潜ると、活気に溢れた街並みへと続いていた。


人が多い。


この世界で見た他の街とは比較にならないくらいの喧騒だ。


「すごい人だな。」


「ギルマス補佐は王都が初めてでしたね。ここは外側の街で、30万人が暮らす一般街です。商業も盛んなので、住民以外にも人の出入りが多く、昼間の人口は倍になると言われています。」


都の中心に向けて大通りがあり、忙しそうに動き回る商人が目立った。昨日の交易都市よりも、身なりの良い人間が多い。


今日1日くらいは、ゆっくりと街を見て回るか。


そんなことを考えながら足を進めた。










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