ラスボス直前でLV1に!?~LV1勇者 VS LV1魔王~

雪野湯

第1話 LV1に!?

「勇者! ついに明日は決戦だな! 俺は猛烈に武者震いをしてるぞ」

「ようやく、ここまで来たんだ。僕たちの戦いももうすぐ終わる」

「そうね、長い旅だった……でも、その旅も明日でおしまい」

「勇者様が居れば、私たちは勝ったも同然ですよ~」



 ずっと一緒に旅をしてきた、男戦士と男盗賊。女魔導士と女法術士が次々と明日の決戦に向けて、熱籠る声を掛けてくる。

 しかし、俺は……。


「あ、はい」


 と、答えるのがやっとだった。

 だって……現在、レベル1なんですもの~、わ~はっはっは……って、笑えねぇ!!



 なんでこんなことになってしまったのかというと、一日前に戻る。



 俺たちは二日後の決戦のための準備をしていた。

 準備といっても、その多くが二日後の大戦争のための将軍たちの準備。


 俺たち勇者一行は兵士たちの先頭に立ち、中央突破で魔王城に突入する手筈。

 単純明快な作戦のため、俺は決戦の日まで手持ち無沙汰だった。


 俺は各陣営を見回りつつ、彼らを鼓舞する。

 その途中、戦場から離れた森から奇妙な気配を感じ、覗いてみることにした。


 森には洞窟があって、そこから怪しげな気配を漂ってくる。

 

「う~ん、中から人の気配が……一人か。こんなところで何を? 腹でも下して用でも足してるのか?」

 洞窟を覗き込む。奥は光が差さず、真っ暗。


「ということなら、光の魔法で……おや?」

 光の魔法が発動しない。

 洞窟の何かが魔力の発動を阻害しているようだ。


「ますます不思議な洞窟。二日後は決戦だし、魔族の仕掛けた罠とかだったら大変だ。念のため覗いてみるか」

 

 洞窟内は真っ暗で視界が利かないが、俺は勇者。

 心の目というやつで、なんとなく周囲の状況はわかる。



 しばらく歩くと、人の気配がはっきりとして来た。

 目に映るのは暗闇だが、闇に浮かぶ気配が人の形を感じさせる。


「おい、そこで何をしている?」

「なっ!? これは驚いた。たいまつの光も魔法の光も奪ってしまう闇の洞窟に、私以外の誰かが入ってくるとは」

「闇の洞窟?」

「それは私が勝手に名付けたものだ。決戦前に、突如怪しげな気配をこの森から感じてな。それでこの洞窟を見つけたというわけだ」


「はは、そうか。俺も同じだ。しかし、決戦前というと、お前もこの戦いに?」

「お前だと?」


「ん、どうした?」

「いや、お互い姿が見えぬから仕方ないか。ああ、そうだ。私もこの戦いに参加する」

「そうか、決戦の日は共に頑張ろうな」

「フッ、そうだな」


「それで、この闇の洞窟の正体はわかったのか?」

「いや、さっぱりだ。だが、怪しげな宝箱らしきものを見つけた。私の目の前にあるのだが、闇で見えぬか?」

「う~ん、わからないな。ちょっと失礼」


 俺は彼のそばにより、両手であちこちを弄る。


「え~っと。お、あった」

「鍵は掛かっていないようなので、開けてみようかと思ったのだが、蓋が重くて開かないのだ」

「蓋が重い? ふふ、この程度なら俺に任せとけ。よいしょっ……あれ? 馬鹿な、力が入らない」

 蓋は少し浮くが、それ以上は力が入らなくて開かない。



「不思議だろう。どうやらこの洞窟、力の発現を妨害する何かが働いているようだ」

「そういえば、光の魔法を邪魔されたな。なら、どうする?」

「私だけでも蓋が少し浮いた。だから、貴様と私の力を合わせてやってみよう」

「なるほど。それじゃ、せ~の」


 見知らぬ男と力を合わせて宝箱の蓋を開ける。

 蓋は見事開くが、その途端、宝箱の中から眩い光が飛び出し、俺たちを白く染めた。


「なんだ!?」

「これはっ、一体!?」


 光はすぐに止み、洞窟は闇に戻る。



「何だったんだ、今のは?」

「さてな……うん、これは?」

「どうした?」


「体の中に充足していた力を感じない。貴様はどうだ?」

「どうだって……あれ、俺もだ」

「理屈はわからぬが、これは生き物の力を奪う存在のようだ」

「それって、俺たちの力が食料ってことか?」


「おそらくな。こいつはある一定のレベルの力を持つ者を引き寄せて、その力を喰らう。そのような存在なのかもしれん」

「そ、それじゃあ、力を食われた俺たちは弱くなったってことか!?」

「ああ。現在、最弱のLV1といったところか」

「まさか、ずっとこのまま!?」


「落ち着け。感覚からして一時的なものだと思う」

「一時的? どの程度?」

「それはさすがに……数時間か、それとも数年か」


「数年って……決戦間近なんだぞ! どうするんだよ!?」

「どうもできん。決戦までに力が戻ることを祈るしかない」

「そんな……」


 困ったぞ。もし、決戦の日までに力が戻らなかったら俺は……死ぬ!

 いや、それだけじゃない! 魔王に負ければ、俺たち人間は! それに!


 俺は目の前にいるはずの男に顔を向ける。

(いま、勇者の俺が力を失くしたと知ったら、味方は動揺し、敵は喜ぶ。ここは誰にも知られるわけにはいかない)


 幸い、洞窟は闇に閉ざされ、相手には俺の姿が見えていない。

 つまり、勇者だということに気づかれていないということだ。



「え~っと、そうだ。俺は用事を思い出した。色々困ることはあるけど、帰ることにするよ」

「そ、そうか。私もちょうど用事を思い出してな。じゃあ、お互い早く力が戻ることを祈ろう」

「そうだな。あ、お先にどうぞ。俺はちょっと休憩していく。力を取られて、なんか疲れたんで」

「え? ああ、そうか。では、先に失礼する」



 ということがあって、俺は決戦前にLV1に戻ってしまったのだった……。

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