33、母の告白

食事を終わり、一息つくとやっと気持ちがおさまった。

セフィーリアはリリスの髪をとき、横で飾りに髪を編みながら、何か言いたげな顔で手を止めリリスを時折じっと見つめる。


悪いことなんだろうと思う。


言い出せない母の気持ちは、リリスは何となくわかった。

それが、魔導師を倒した何かのことだろう事も、ガーラントの言葉をさえぎったときから。


「母上様、リリスに何かお話しがあるのではないでしょうか。」


「……いや、急ぐことではない。昨日の今日じゃ、またのちほど話そう……」


「……はい……」


髪を留める母にうつろに返答しながら、リリスの胸には不安が大きく広がる。

意識のない状態で、どうやってあの強力な魔導師を倒したのか。

考えれば考えるほど強烈になぜか、自分の物ではない赤い髪がフラッシュのように思い浮かぶ。


それはひどく遠いことのような……そして柔らかな女の包み込む手。


ああ、なんだろう。

何かを思い出さねばならない気がする。


思わず、両手で顔をおおった。


「リーリよ、いかがした?」


セフィーリアが驚いて、彼の肩を抱いた。


「母上様、私は……一体何なのでしょうか。

私は、ここへ来ても良かったのでしょうか?

何か、わからないことが恐いのです。

私は自分の何かを知っておかなければ、大変な間違いを起こしそうな……」


不安が声を震わせる。


ヨーコが飛んできて肩にまり、力づけるように鳴いた。

セフィーリアは視線を落とし、そして息を飲むと向かいの椅子に腰掛ける。

知らないことが、どれだけの不安を呼び起こすのか、知ったあとにどれだけ苦しむのか、それを比べる天秤が無い物かと首を振った。


「……リーリよ、わかった。我が胸にあることを話そう。」


ドアの外で、部屋に入ろうとしたガーラントの手が止まる。

あたりに人がいないことを見て、静かにドアの前に立ち耳を立てた。






「リーリよ、これから話すこと、お前はなんの話しじゃと思うておる?」


逆に返され、思っていることを正直に話した。


「きっと、敵の魔導師を倒したことに関係することと思います。」


「そうか、お前はほんにカンのいい子であった。それは小さな頃から。

これはもっと早く話すべきだったのかも知れぬ、いや、話すべきではないのかも知れぬ。


……だが……お前は知りたいと言った。


しかし、それを本当はいつ話すべきなのか、母は精霊ゆえに時期の判断が付きかねる。」


苦笑して、息をつく。

ベッドに留まっていたヨーコ鳥が、セフィーリアの肩に留まった。


「お前は、リリサレーンをフレアからどう聞いておるのか?」


その名に、ドキッと身体が跳ねた。


「は、はい、とても美しく優しい方で、皆に愛された巫子様であったと。

しかしその力は大変強く、だから魔物に利用されてしまったのだろうとフレア様はいつも悲しんでいらっしゃいました。」


「そうか……フレアはれ込んでいたからな。

リリサは王族の出だけあって、いつも女王の風格ふうかくであった。

それはそれは、いつもフレアを振り回しておったぞ。気の強い女でのう。」


リリスがしきりにうなずく。

リリサレーンのことは、知りたいとずっと思っていたのだ。

同じ髪の色をしているだけで、生まれた時からひどい目にってきたけれど。


「あれは正義感が強く、巫子としての力にも長けていた。

何でも首をつっこんで、わざわいあれば解決に奔走ほんそうし魔を払う。それがたよりにされて人間どもにも愛されたのだ。」


リリスの頭の中に、その様がありありと浮かぶ。

そしてふと、あの気を失っていたときの夢がうつろに思い出された。



あの赤い髪の女性は……なんと言った?

いや、あれは夢だ。

なんだか変な夢。



2人の間に静粛せいしゅくおとずれる。

リリスがうつむき、そして息を飲む。

その先にどんな言葉が来るのか、今リリサレーンの話しをする母にリリスは覚悟を決めた。


「それで、その……私と何か関係があるのでしょうか?」


「ある。」


即答したセフィーリアも、覚悟を決めた。



「先日の魔導師を倒したのは、お前の中にあるリリサレーン。

お前の口が、そう名を語った。」


「わ、私が?私が何と語ったので?」


リリスが目を見開き、にぎりしめる手を震わせる。


「お前が気を失い、そして再び目を開いた時に言ったのだ。我が名はリリサレーンと。」



「は……」



息を飲み、リリスが手で顔を覆った。





うそ!



うそ、うそだ、うそ!!違う!




衝撃が、リリスを襲い大きく心を揺さぶった。

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