12、星占い

一息ついて、魔導師の長ゲールが身を乗り出す。

その、どこか計算高い老人の顔は、薄気味悪く感じた。


「さて、そこでだ。

今は隣国トランといさかいが起きつつある。

いざ戦いとなったとき、我らは民を守るために矢面やおもてに立たねばならぬ。

風よ、お前は一番若い。そして最も身が軽かろう。

しかもそれほど精霊達に守られている。お主は危険の地で危機もいとわぬ強さがあるだろう、当てにするぞ。」


「はい。未熟ながら、戦いとなりましたとき私は真っ先に最前線へとおもむきましょう。

アトラーナのために。」


ひざまずき、ちかいを立てるリリスに、ルークが眉をひそめる。

これはあんに、いさかいが起きたとき、真っ先に戦地の最前線へ行けと言われているのだ。

そして、それに当たり前のように誓いを立てねばならない状況にリリスはいる。


なんと……卑怯ひきょうな…………


ゲールはルークの師でもある。

だが、どうにもここまでまだ子供のリリスを追い込むことにはせない物があった。


「しかし」


強い言葉を上げ、リリスが立ち上がった。


「私は戦いとなる前に、戦いを避けることに力を尽くすことをおちかいいたします。

王子はきっと戦いをお望みにはならないでしょう。

この命をかけて、私はアトラーナの平安と繁栄のために尽くします。」


魔導師達が、思わぬ言葉に顔を引いた。


言葉もなく、互いに顔を合わせる。

ゲールに視線が集中し、苦々しい顔でにらまれている。

リリスはふと目を閉じて、言葉を探して唇をかんだ。


もう、これ以上ここにいてはいけないと、誰かが耳元でささやいた気がする。

身体中がなまりを浴びたような倦怠感に襲われ、足下が揺らいだ。


「それでは、私はこれにて失礼いたします。」


「うむ」


一つ頭を下げ、くるりときびすを返す。



「風よ、今はお前にとって試練か?それとも好機か?」


ゲールが最後に問う。

リリスは立ち止まり、そして笑みを浮かべて振り返った。


「それは、これからの私次第。私がここにいる、それだけで試練。

しかし、私が魔導師としてこちらの方々に認めて頂くには、これこそ好機でございましょう。

では」


「なんと……豪気ごうきな……」


驚く魔導師達をよそにルークがサッとドアを開け、一礼して部屋を出る彼の肩をポンと叩いた。


「また後で会おう。」


「はい、失礼いたします。」


ドアを向くリリスの顔は疲れ切った様子で、身体が少し震えている。

気丈な子だ。

階段を下りて行く彼を見送りドアを閉めたルークは、ゲールを向いて首を振った。


「彼はまだ子供ではありませんか、何故ここまで追い詰めようとするのかわかりません。」


いつもは穏やかな魔導師達が、ため息をつきうなだれる。

ゲールが疲れたように椅子にかけ、そして頭を抱えた。


「お前も遠見なればわかっておろう。あの子はリリサレーンの生まれ変わり、厄災やくさいの再来やもしれぬ。」


「まさか、私には何も感じませんでしたが。」


「予見ではない。占いで何度やっても出るのだ。」


「星占ですか?で、なんと?」


「赤い髪の者、火の翼を持って国をおおいつくすだろうと。

良いことの意味か悪いことかと考えると、それが良いことの訳がない。

あれは精霊王たるドラゴンはじめ、精霊達に愛されている。それだけきつける力を持っていると言うことだ。

恐ろしい、早々に始末した方が良い。」


リリサレーンの、厄災やくさいの再来。


彼女の生まれ変わり自体がすでに厄災なのか。

魔物と呼ばれ育ったと言ったリリスの顔が思い浮かぶ。

ルークは複雑な気持ちで、ため息をついた。

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