エピソード78 ドタバタ生誕祭

 花火の音で目覚めたオレは窓を開けて外を見渡した。

 この平民通り東通りもいつもより人が集まっており、様々な店が賑わっていた。

 今日から一ヶ月間どんな事を経験できるのかオレはワクワクして、いつもよりオシャレに襟付きで胸元に少しだけフリルが付いた白の長袖シャツにネイビーの色のマントを羽織り、黒色のズボンを履いた。

 

 扉をノックする音が聞こえ返事をするとモーガンも白を基調とした品のある服装をしていた。


「やっぱりクライヴもオシャレしてるね。みんな考える事は同じだよね。いったん一階の階段前でみんなを待って、それからどこに行くかみんなで予定を決めようか?」


 モーガンはそう言って、オレと一緒に階段の所でみんなを待っていた。

 その待ち時間に、生誕祭は国内中の貴族や平民が来るのでいつもより活気があり、その分治安が悪くなりやすい事を聞いた。

 どうしても衛兵さんや騎士団の方は他国の使者の護衛に着く事があるため致し方ない事らしい。

 ちなみに他国の使者は大きい国で西の聖グランパレス皇国から来ることがあるそうだ。

 後は様々な諸国の使者が集まり、とにかく貴族達は連日お城や自分達の屋敷でのパーティーで大忙しらしい。

 

「とりあえず、オレは普段は売ってないような珍しい物が見たいかな?」


 オレがそう言うとモーガンは自分の顎に指を触れて少し考えてからオレにオススメを教えてくれた。


「じゃあ公園だね。あそこは露天も沢山並ぶから、珍しい物も見つかるかもしれないけど、騙される事も多いからね」


 オレはモーガンの話を聞くだけで楽しみが倍増して、笑顔が止まらなく年相応の反応をしてしており、モーガンはそんなオレに驚いていた……


「へぇぇ、クライヴもそんな顔をするんだね」


(えっ? いつもはもっとおじさん風に見られてたって事?)


「ごめん! みんなお待たせ。リアナと一緒に服を選んでいたんだけど、色々と迷って遅くなっちゃった」


 フィーネは、大きなリボンを頭に結び、肩がチラリと見えるフリル付きの黒シャツにフリフリの黒のスカート、そして小さなリボン付き白色のサイハイソックの気合の入ったロリータファッションだ。


(間違いなく一部の層が悪さをしないように守らねば!)


 リアナは襟付きの青シャツに白のズボンといった爽やかな品のある男役の人のような服装だ。


 ショーンは…………いつもの服装だった。


「では、初生誕祭のクライヴとフィーネの為にみんなで案内しようよ。何かこんなのが見たいっていうのはあるかな?」


 モーガン達はオレとフィーネの為にツアーガイドをしてくれるようだ。


「アタシ、可愛い雑貨と服が見たい」


 フィーネは即座に要望を伝えた。


「オレは……変わった物が見たいかな、魔道具でも服でも食べ物でも何でもいいから」


「モーガン? 提案なんだけど、フィーネの買い物に付き合っていたらクライヴも興味を惹く物も見つかるのではないだろうか? ぼく個人の意見ではあるが……」


 リアナはモーガンにそう伝えた後に被せる様にショーンもリアナの意見に賛成した。


「ワシもそれがええと思うんじゃ」


「よし! 大通りは混雑していると思うから、まずは学生通り西通りの雑貨屋と服やから見てみようか?」


 そうして、オレはいつもの日常とは違うお祭り騒ぎの王都の様子に興味を惹かれながら、目的地へと向かった。


「凄い人だなぁ。いつもは学生が多いけど、今日は色んな人達がいるんだなぁ」


 家族連れ、何処かの貴族の使用人、他国の人々等の色々な人達がこの生誕祭を楽しんでいた。

 

「アタシ、ちょっとここの雑貨屋さん入ってもいいかな?」


 フィーネが突然足を止めて、オレ達に確認をした。オレ達が王都に来た時に家具等を購入した大きな雑貨屋だ。


「へぇー半額セール?」

 

 オレは前世の閉店売り尽くしセールを思い出した。


「生誕祭は色々な店がセールをしているよ。半額の店は少なくて、殆どが二割や三割引きだよ」


(なるほどそれでいつもより人が多いのか、使用人さん達も貴族が朝からお城でのパーティーとか増えるから、いつもより休みが増えているのかなぁ)


 オレ達は雑貨屋に入ると、以前来た時に比べると店内は人でとても混雑していた。店内は広く客が多くてもゆっくりと商品を見るはずだが、明らかにキャパオーバーだった。

 店員さんの人数や疲労度も含めて…………


 オレ達は人の波に流される様に店内を進み、オレはモーガンと珍しい物を探し、フィーネはリアナとアクセサリー類を見ていた。ショーンは…………退屈そうに欠伸をしてオレ達の様子を見ていた。


 オレは特に目を惹くような物は見当たらず、フィーネとリアナに合流した。


「クライヴ、アタシにはどっちが似合うと思う?」


 フィーネはブレスレットで悩んでいてオレの意見を聞きたいらしい。

 チェーンタイプで月と星のモチーフ付きか、それともハートとクローバーのバングルか……


(でたー! どっちが良い選択肢! フィーネの心の中ではある程度決まっていて、その選択肢を外すと機嫌が悪くなるやつだ! ただ、自分の中で決まりかけている方のブレスレットにオレが賛同してくれると喜ぶし決心がつくんだろ…………外したら大変だな……)


 オレは慎重にフィーネの表情の変化を見つつ真剣に悩んで選んだ。


「チェーンタイプは何だか、華奢な感じで守りたくなるような印象があるかな。月と星のモチーフは神秘的な感じがするし、フィーネのイメージにも合うよね」


 少しフィーネは顔を赤らめて嬉しそうな反応を見せた。


「えっ……そ、そうかな? アタシって、ク、クライヴには守りたくなる存在なんだぁ……にへへ…………アタシって神秘的なイメージなんだぁ」


(フィーネさんがあちらの世界に少しトリップしているが反応から見て、こちらが正解か!) 


「ハートとクローバーのバングルは、反対に元気で可愛い女の子って感じだよね」


 先程のトリップの影響がまだ継続中で、フィーネの表情は赤い状態だ。


「アンタには元気で可愛い印象なのね」


(やはり、最初に選んだ方が気に入ってるな! フフフッ甘い甘いぞフィーネ! もう既に選びたい方の謎は解明した! 二つ目の時にはオレの事をアンタと呼んだ、それはフィーネの機嫌が悪い時に呼ばれる事が殆どだ!)


「オレなら最初の月と星のチェーンのブレスレットかな?」


 まるで名探偵のようにフィーネの表情の変化を逃さず、そして会話の中からフィーネの選ぶ物を紐解き推理をして正解を導いた…………と思ったはずだった。


「アタシはこっちのハートとクローバーの方が良いと思ってるのよ! アンタに聞いたのが間違いね。リアナはどっちが似合うと思う?」


 オレは選択肢を外したようだ…………

 そしてリアナはそんなオレを見て申し訳なさそうにハートとクローバーのバングルを選んでいた………………


(リアナの反応からして、絶対こっち側の人間月と星のを選ぶだっただろう! 

 この裏切り者)


 そしてオレ達は雑貨屋で買い物を済まして、同じ通りにある服屋に向かった。

 もちろんオレはここでもフィーネの二択問題が三問出題されたが、オレは見事に全てを外してしまいフィーネの機嫌を損ねてしまった。


 結局ランチの時間までフィーネはオレに対して不機嫌だった…………………………


(ごめんなさいオレ迷探偵でした……フィーネさん無理です……激ムズです…………)

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