エピソード37 クラスで自己紹介
入学式を終えた一年生達は担任と副担任の教師とともに校舎見学に向かった。
担任のダン先生は四十代のボサボサ頭のもやしみたいな男の先生で、平民育ちだが高等部での学力の高さから、学院に雇われて現在に至るらしい。
副担任のヘレン先生は五十代のおばちゃんパーマの健康面で大丈夫? と思う程の丸々としたご当地のゆるキャラ的な身体の持ち主で男爵家の四女らしい。
要らない情報だが二人とも未婚者だ……
「それじゃあ……皆さん……これからよろしくね。頼りない担任だけど…………よろしくね」
本当に頼りない感じだ、それと比べてヘレン先生はおばちゃん気質でとても頼りになる。
「はい! みなさん今日から一年生です。ここ王立学院は全てに平等な学院ですので、平民や貴族等関係ありませんよ」
「そ、それじゃ……校舎を……案内す、するね…」
オレ達は、頼りないダン先生の後をついて行った……
「一階が、さっきの、た、多目的ホールと、そ、そのとな」
「はい! ダン先生代わりますよ。
先程の多目的ホールが校舎の端とありましたね。その隣には購買部がありカウンターでテイクアウトできるパンを販売してます。
また、横の扉から中に入るとテーブル席があるのでここで昼食を取る学生が多いかと思います。
購買部の次には職員室になり私達教師が授業の準備をする所です。
そして次にトイレがあります。一階にしかトイレはないので、男子トイレ、女子トイレともにかなり広い作りになってます。
最後に二階に続く階段です。階段のすぐ近くがあなた達の一年生の教室になります。
次が、図書室があります。ここはマクウィリアズ王国に関する様々な書物があります。貸出不可なので、この部屋で読んで下さいね。
最後の二階の端には二年生の教室があります。
今日は特に授業はありません。このまま教室に入り自己紹介で終わりです。
以上でいいですよね! ダン先生!」
「は、はい!」
担任と副担、逆の方が良くね?
「なぁモーガン」
「やっぱりクライヴも」
「なになに、二人も思ってた」
「ぼくも同感だよ」
「「「「ダン先生がんばれ」」」」
オレ達は小声で応援した。
そして、教室で自己紹介タイムが始まった。順番は名前順らしい。
まず、イエーンというポッチャリ男子が自己紹介をした。彼は男爵家の六男で、食べる事が大好きらしい。初等部の費用は親が出してくれたが、それ以降は援助を与えないと言われて、慌てて将来生きていく為の知識を身につけたいと思ったらしい。
次にカーンと言うザコ顔だがプライドが高そうな物言いだった。どうやら大通りの商店の息子で、なんたら伯爵家御用達のためだろう。
続いてオレの番だ。
「えーっと、クライヴって言います。シェリダン領からやってきた平民です。さっき号泣していたのが祖父です」
クスクスっとクラスに笑いが起こる。
よし掴みはオッケーだ。
「勉強や友達作り等楽しんだ学院生活を送りたいです。みんな気軽にクライヴって呼んでね」
ヨシ! 最後に笑顔で喋ったのでフレンドリーな自己紹介が出来たはずだ。これでクラスメイトから声をかかってくるだろう。
真横の先のモーガンがニヤニヤ笑っている。
「クライヴは自分のことが分かってないね。後で大変だよ」
小声でなに言ってんだよ。
すると端の方の女子達からヒソヒソ声が聞こえてきた。
「えっなにあの二人レベル高過ぎ」
「クライヴ君の笑顔反則よ」
「もう一人の男子も中性的な感じで可愛いし」
あっ、そう言う事ね。
黒髪だけで珍しいのに、この髪型と母親譲りの顔で、王都にいる雰囲気イケメンには負けてないはずだ。
「なぁモーガン。お前も自分の事がわかってな…………いやわかってるよな自分の魅せ方を」
「ハハッ、何それクライヴの中でボクって一体どんな人間に見えてるの? まあ無意識にやらかすのはフィーネだと思うよ。さっきの女子達のおかげでピリピリしてるからね」
そうモーガンの前の席で、オレの斜め前でもあるフィーネが一瞬女子の方を見て気分を落ち着かせるように深呼吸をしていた。
そして次はオレの後ろの人の番だ。
入学式で右隣に座っていた茶色のベリーショートの方言の訛りが凄い少年だった。
「ワシの名前はショーン。
大切なものを守れるくらい強ぅなりたいけぇ冒険者になりたいんじゃ!
勉強はやったことねぇーけぇ全く分からんが、親の脛かじってここにおるんじゃし、将来必要な知識を身につけんといけんと思って入学したんじゃ。みんなよろしく」
訛りが強いなぁ。でも熱い奴なんだろうなぁ……
次は、クラリネと言う学級委員長のようなメガネで真面目な感じの平民の女の子だ。
親がこの辺りにある雑貨屋らしく、計算等の必要な知識と人脈作りに入学したらしい。
そして、ついにフィーネの番だ。あいつさっき端っこにいた女子達にイラついていたからな……何言うんだろ……
他所行きフィーネさんモードで笑顔で話し出した。イェーン、カーンは魅了させていた。
「アタシは、フィーネって言います。遠い国から来ましたのでマクウィリアズ王国の歴史や読み書き等学びに来ました……でもアタシの意思ではありませんでした。
旅の途中で出会ったクライヴ君と仲良くなって、クライヴ君から学院の事を教えてもらい興味を持ちました。そしてクライヴ君に誘われて入学してきました。みなさんよろしくお願いします」
なにフィーネ、その優越感に浸ってる感じの表情は。さっきのイェーンとカーンからのオレへの視線が痛いんですけど……しかも端っこの女子達もコソコソとあの二人付き合ってるの的な話が聞こえてるんですけど……
確かに、確かにオレはフィーネの言った通りの事をしたが、今わざわざ言わなくていいし勘違いされる言い方もどうかと思うよ……
いつから友情を超えた! まだ十歳だぞオレ達!
そして本日のクラス中の主役のお出ましだ。
席を立て前に一瞬だけオレの方を見てニヤッとした。
「言った通りにフィーネが女子達に牽制をかけたね」
「ボクはモーガンって言います。ボクは友達が少ないので、色々な事を学ぶだけじゃなく友達作りも頑張りたいです。入学前に学生寮に入寮してからクライヴ君やフィーネさん、リアナさんと友達になれました。だからクラスのみんなと仲良くなりたいです。よろしくお願いします」
モーガンめ! キラキラ眩しい程の笑顔と少しずつ憂いを帯びた表情と仕草で庇護欲を掻き立てやがった。
男子も女子も騙されてるぞ!
端っこの女子達はおかしくなっていた。
「モーガン君が可愛すぎて尊い……」
「クライヴ君が攻めでモーガン君が受けで!」
「私、親に頼んでお小遣い増やしてもらう。それでモーガン君の欲しい物を買ってあげる」
モーガンに毒され、端っこがカオスとなった……
イェーンとカーンの二人は…………ダメだな完全に。
顔を赤くしてソワソワしやがったよ……オレも最初は騙されていたから気持ちはわからんでも無いよ。
しかしモーガンは男だよ。男色に目覚めるにはまだ早いだろ。
次はリアナの番だ。
「ぼくの名前はリアナ。一応貴族だが騎士を志しており、その事を親に伝えたら勘当されて王立学院に入学してきました。ぼくも友達と苦楽を共にして楽しく充実した学院生活を送りたいと思っているのでよろしくお願いします」
いつ見てもリアナは凛としているなあ。
「リアナお姉様と呼ばせて下さい!」
「リアナ様は攻めでモーガン君は受けで!」
「リアナ様好きです! 私とお付き合いしてくれませんか!」
もうカオスを通り越して阿鼻叫喚となっている。
イェーンとカーンは胸をチラチラ見て、顔を赤くしている。
フッ、ウブな奴らめ。
最後の端っこ三人衆の平民の女子達は幼馴染らしい………………だから思考回路が………………
今日は自己紹介だけだったので、オレ達は教室をを出た。特に端っこの女子達に気をつけながら……
時間はまだ午前中で思ったより早く終わったので、校舎から出るまで歩きながら、今日の予定を確認した。
「オレ今日大通りと西通りに買い物に行く予定だったけど、思ったより早く終わったからこれからどうする?」
「えっアタシ買い物付き合おうか? そ、そのアンタ一人じゃ、荷物が持てないかもしれないし」
「フィーネ大丈夫だ。そんなに重たくない物を買いに行くから」
オレは即答で断るとフィーネが睨んできた。
「そうだねえボクも特に予定はないなあ。でもこのまま寮に帰るのも勿体無いよね」
「少しいいかい? みんなで冒険者協会に行くのはどうだろうか? その勘違いしないでくれ、ぼくは依頼だけ見に行こうとみんなを誘ったんだ。決して依頼を受けるつもりはないよ」
モーガンがオレに聞いていた。
「クライヴ、リアナと行き先は一緒だしボクとフィーネは予定もないから、みんな冒険者協会に行くのはどうかな?」
オレは納得して、この後みんなで冒険者協会に行き依頼だけ見に行く事にした。
(帰りに買い物しても間に合うからね)
「ちょっと、まってくれんかぁ!」
オレ達の話を聞いていたのか突然ショーンに呼び止められた。
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