第14話


ランドール・ウルフイットside.


 俺が彼女に心を奪われたのは、ある出来事がきっかけだ。その始まりがホイット子爵家がオーナーをしているティールームである。

 たまたま良い香りに釣られて入店し、飲んだ紅茶が気に入ったので茶葉を王宮にも卸せないか聞いたのだ。そうしたら考えるそぶりもなく断られてしまったのである。

 それが俺には新鮮で気に入ってしまいその後は常連になったのだ。

 そんなある日、学院にホイット子爵家の令嬢が通い出したと知った。だから、興味本位で見に行ったのだ。まあ、子爵家はやり手でかなり稼いでるから、娘の令嬢は派手な格好をしているのだろうと思っていたのだが。だが、違っていた。

 薄化粧で落ち着いた服を着ており、そして何よりも透明感のある美しい令嬢だった。だが、この時の俺は少し興味が出た程度で彼女にどうこう思うこともなかった。


 だが、ある日を境に完全に心を奪われる。それは騎士科の生徒が授業中に大怪我をした日である。その時、彼女だけは手や服などが血で汚れる事も気にせず、懸命に手当をしてくれたのだ。しかも、必死に元気付ける言葉を投げかけてだ。

 あの時、俺を含めて騎士科の連中が彼女の虜になったのはいうまでもない。すると、彼女の優しさを利用して馬鹿な事をしようとする連中も現れたのだ。まあ、大概はわざと本人の近くで怪我をして手当をしてもらいたい程度である。

 そいつらにはしっかり話し合いをして二度とやらないようにさせた。だが、中には彼女を雇った男に襲わせ、そこに颯爽と現れて男を追い払って良い仲になろうとする邪な考えをする奴まで現れだしたのだ。

 もちろん、そいつはすぐ学院を去ってもらった。だが、馬鹿な事を考える奴は沢山現れた。だから、俺は本腰をいれたのだ。まあ、おかげで俺は彼女に恐れられてしまっていたわけだが……

 そんな事を知らない俺は日々、馬鹿な連中を見張っていたが、ある日、一番縁がないと思っていた馬鹿アルバンが彼女と婚約したと言ってきたのだ。

 正直、信じられなかった。アルバンは幼馴染の女と一緒になると思っていたから。だから、すぐに調べた。何かあると。そして、今すぐアルバンを殺したくなった。

 だが、そんな事をしたら彼女が悲しむだろう。なので俺は必死に考え彼女の方からアルバンを捨てる様にもっていく方法を考えたのだ。そして、彼女が生徒会にいるアルバンにクッキーを持って来るタイミングを狙い聞いたのである。


「お前、婚約者のホイット子爵令嬢の事はどう思ってる?」

「地味ですね……。やっぱり女は華やかでないと。なんで僕がフィーネなんかと婚約しなきゃいけなかったんだろう……」


 アルバンは俺が幼馴染に悪く言うのを見越して、彼女を悪く言った。こっちの思い通りにアルバンは言ってくれたわけだが、正直、彼女を傷つける言葉を言ったこいつを殴ってやりたかった。

 もちろん、この案を考えた俺自身も。だが、赤の他人がアルバンのクズさを教えるより、自分で聞いて知ってもらった方が、アルバンへの思いを断ち切れると思ったのだ。

 だから、心を凍らせる思いで聞いた。


「金蔓だからだろ?」

「ふふ、確かに金蔓ですけど僕のじゃなくてうちの親のですよ。全く、うちの親は借金ばかり作って経営能力がないんですよ」

「ダナトフ子爵か。で、どうするんだ?」


 俺がそう聞いた時、王家の影が彼女が生徒会室を離れたと合図してくる。だからその後は適当に話をした。もうやるべきことは済んだから。

 これでアルバンと婚約解消か破棄辺りをするかと思ったのだ。しかし、翌日に影に彼女がショックで寝込んでしまったと報告された。間違いなくあの日の事が原因だと理解し俺は後悔した。

 もっと違うやり方はなかったのかと、そして日々悶々としていると影から彼女が体調も良くなり学院に来ると報告がきたのだ。俺は、なんとか元気になった彼女に一言言いたくて登校日に会いにいった。結局なんとも言えない感じで終わってしまったが。

 考えたら当たり前だ。彼女とは挨拶程度はした事はあるが初めて会話をしたようなものだから。緊張してしまい、正直、半分ぐらい何を言ったか覚えてないのだ。だが、薄ら笑いを浮かべて見てくる影を見てきっと俺は馬鹿な事をしたのだろう。

 だからこそ、次こそはと思っていたら、馬鹿アルバンと幼馴染の女が再び会い出したと報告があったのだ。俺は溜め息を吐くと町に出る。どうそろくな会話はしないだろうが、もしかしたらということもあるからだ。


 そんな時、偶然にも町で彼女に会ってしまったのだ。しかも、彼女との会話から馬鹿アルバンから心が離れていることも知ることができた。

 これで彼女は馬鹿アルバンと縁を切るだろう。そして今度こそ相応しい相手に出会えるだろうと。ほっとしてしまった。俺が決して含まれないのはわかっていても。

 何せ彼女の心をあいつと同じように傷つけてしまったのだから。だから、俺はこのまま裏方に徹しようと思った。

 だからこそ驚いてしまう。生徒会室に彼女が現れたのが。しかも、俺の事を嫌うどころか心強く思っていると……

 それだけでも満足だったのに、彼女は籠を持っていったお礼に栞とブックカバーをくれたのだ。俺は舞い上がってしまった。すぐに焦ってしまったが。急に俺に対して失礼だから捨てて欲しいと言ってきたから。

 もちろんそんな事はしない。一生、大事にすると誓いたかった。

 しかも、勢いあまって告白までしてしまったのだ。

 これには自分でも驚いてしまったが後悔はなかった。断られても満足だったから。

 案の定、嫌われたのだろう。彼女は用事ができたと足早に生徒会室から出て行ってしまった。

 だが、俺は満足していた。絶対に伝えられないと思っていた事を伝えれたのだから。その後はあくまで生徒会長の立場として、彼女を馬車まで送っていった。

 もちろん道中は話しかけないよう努め、馬車に到着するとすぐに去ろうと思ったのだ。だが、彼女の表情を見た時、気づいたのだ。

 俺はとんでもない勘違いをしていると。彼女の表情は兄上の婚約者が兄上だけに向ける表情と同じだったのだ。だから、俺は彼女の髪に口づけをした後にもう一度、宣言する様に言った。

 

「あのクズからお前を必ず救う。だから、待ってろ」


 すると彼女は頬を赤く染めながら頷いてくれたのだ。


「……はい」


 幸せだった。彼女……ホイット子爵令嬢と両思いになる事ができた事が……


 なのに馬鹿アルバンと幼馴染の女を拘束した日に彼女は攫われてしまった。さいわい影がしっかりと犯人を見ていたので現在、俺は騎士団を引き連れ後を追っている。


「命にかけても救い出す……」


 そう呟くと彼女が連れて行かれた方向を睨むのだった。

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