🦁LIONの許婚

ルミン

第1話 ナント‼ アンタが許婚

麗らかな春の日

冷たい風が暖かく変わる三月

私は育ての母、智和(ちわ)に連れられ

中学の制服を着たまま連れ立って

歩く。

さっき卒業式を終えたばかりだ。



こんな気持良い日に緊張しながら

連れられて来られた

家の門構えを見て目をまるくする。


悠里の背中には、ゴミ置き場に

捨てられていた黒いデカいリュック

が張り付いていた。

この中には悠里の嫁入り道具が

入っている。



「悠里、ココがお前の婚家だよ。」


珍しく藍色の訪問着を来た母が言う。

母親は派手な人で、着物を着たのを

見たのは初めてだった。

智和は赤い唇をツヤツヤさせ

ニンマリと、笑った。

まるで獲物を捕まえた魔女の様な

嫌らしい、いや 小憎たらしい笑だ。


この加納家は、母には

確かに黄金を貯えた金庫の様に

見えているのかも知れない。


だから私は単なる、お金を

引き出すキャッシュCDで


出迎えてくれた家政婦さん二人は

やはりピンクの薄い着物をビシッと

着こなしていた。


「三上様、お嬢様ようこそ

おいでなされました。」



頭を深々と下げた後、それ以上は

何も言わず立っていた。

悠里には、まるで智和と悠里と

ビシッと一線を引くように見えた。



厳しい当主なんだろう

母の手の内は読まれているのか?

悠里は少し不安になった。

.。oO追い返されたら、どうしょう。


彼女達は愛想もなく、悠里を見た。

智和は悠里の貧相な胸を見ながら



「もっと肉付かなかったのかい!

こんなんじゃオトコは

喜ばないかぁ~!


フン

まあ、顔は可愛いからいいか‼」

と、智和は、悠里の襟元を整え

パッパと、ホコリを祓った。




黙ったまま家政婦さん二人は何も

言わず相変わらず厳しい顔付きで

立つたままだ。

まるで私達を一歩も入れない

ようにガンと立ち塞がる。


家政婦さんらしき人は痩せ型だが

二人とも、結構鍛えた体をしていた。

髪をきちんと結あげ、厳しい眼差し

を悠里にも向けていた。


そんな雰囲気を感じた母は


「私はあんまり歓迎されて

いないから、此処で帰るよ。


〃加納様ー〃、

約束通り娘を連れて来ましーたよー。」



智和は大声で、そう叫ぶと悠里を

残し「えっ、エエッ」

どうなってるのか意味が分からない

悠里を残しフフンフンフンと鼻歌を歌いながらサッサと、来た道を帰って行った。


中学を卒業した後、

加納の家に来る事は小さい

頃から決められていた。


「良いかい、良く聞け、お前は

拾い子だ、私達が育てて、

あげてるのだから

お前は恩返しをしなくちゃならない。

中学を出たら加納様の家に

奉公に上がるんだよ。


そこの跡取り桜佑(おうすけ)様の

嫁様になるんだ。

お前はもう許婚の許しを得ているの

だから、何があっても我慢するんだ‼」


小さい頃から毎日の様に

言われてきた。

今更・・・ビビる事も無い。

悠里はとうに覚悟をして来たはず

怖気付いてどうする。


三上の家を出られただけ、

加納様には感謝しかない。


「行きましょうか!

お嬢様」


悠里の顔をみてそう言った。

2人の冷たい目は変わらずだったが

扱いは丁寧だ!


「は、はいっ‼」

ビックリしてひっくり返る声で

へんじをした。

三上の家の扱いとは違い

ビックリ。


長い黒光りした築150年建ってる

と言う中廊下を歩く。



両側に広がる田の字の部屋の襖が

スパーンと、開けられ広い庭が見える。



右には大きな桜の木が何本も連なり

足元にはチューリップの赤白黄色

フリージアや、スイートピー

洋風の花が咲いていて

きちんと手入れがしてある。



三上本家も広い庭があったが

比べられないくらいのデカさ


「広ーい」

つい口からこぼれてしまった。


花の香りが悠里に、流れてくる。

花屋さんで嗅ぐような匂い。


左は日本庭園が広がり芝生や松の木

雑誌で見るような日本庭園だ。


「悠里様、悠里さま‼」

家政婦さんの声掛けで我に返る。


「す、すみません‼

あんまり見事なお庭なので

見とれてしまいました。」

悠里は15歳らしいあどけなさを

みせた。


家政婦さんはキョトンとして

意外な顔をしていた。


「広う・・・ございます・・。」


と、初めてニッコリと、笑った

気がする。


悠里は、パッと顔をあげ

家政婦さんを見たら

又元の静かな顔になっていた。



「一瞬技ですか?スゲー」


と、呟く悠里の前を二人揃って

家政婦さんはクスクス

肩を上下させながら、歩いていく。



悠里の制服を風がフワッと、かきあ

げる、三月は時々強い風も吹いてくる。



歩きながら自分の生い立ちを

考える。

悠里は、大きな 産婦人科病院の

前に捨てられていたらしい。



その籠の中に苺柄の便箋に

悠里、11月1日生まれと、


書いてあったとか

悠里が拾われたのは11月二日

ちょうど子供の養子縁組に来た今の

両親が拾ったと聞いた。


どうしても女の子が必要で、自分達

の為に・・・・



そしてそのまま籍を入れて

私は、三上悠里と、なったんだ。



幼い頃から加納様の家へ嫁入りすると聞かされ、その準備は怠るなと、

言われ続け三上本家へと、花嫁修行と言う名の手伝いに

行かされた。


三上の味を覚えろと、叩き込まれ

三上の女子として恥ずかしく無い様にと、お茶、お花、踊りを

習った訳では無い

三上の行事の時、毎回連れ出され

花嫁修業と、いう名の奉公をさせられた。

お稽古の準備やお世話をしながら

自然に覚えた。


料理はそこら辺のシェフより

上手いかもしれない。

三上の家は元貴族で、板前さんや

料理に合わせた職人さんが

やって来た。

その手伝いを10年も続けてきた。

四季折々の料理は楽チンに

作れてしまう。


ある日学校の調理実習でハンバーグ

を作った。

キャベツの千切りも先生が目を丸く

する程、上達していた。

小学五年生だった。


お淑やかで勉強好きな悠里ちゃん

のイメージがガラリと、変わり

それ迄敬遠していた子も

話かけて来るようになった。


お嬢様かもしれないが

お嬢様では無い、昔の丁稚奉公と、

変わらない扱いを受けて来た。


掃除、洗濯、料理

勉強、部活する暇があれば三上本家

へと駆り出される。

楽しみなんか何も無かった。

それもこの加納家への嫁入りの為と、言い聞かせ頑張った。

三上の家ほど酷い所は無いから

早く逃げ出したかった。



「こちらでお待ちください。

旦那様と若様がこられます。」



襖が空けられるとデカい

テ━━━━ブルが、ドッカーンと、

出迎えてくれた。


悠里の座る席に1枚、

悠里の真向かいにピンクのモッコリ

とした座布団が、3っ並んででいた。


悠里はリュックを自分の後ろに回し

座布団の上に座った。


ガラガラガラと、開いたドアから

厳格そうな、厳しい顔に深い皺の

加納一大、俗に言う加納様が出現


.。oO(加納一大だ‼うわぁ頑固そー)

見てすぐ分かった。


の横には紫の着物を着たポッチャリ系の80位のお祖母様、雪乃さん


そして

一歩遅れてマッシュウルフの

背の高い一見、見てくれの良い

ブラウンの髪色をした

スーツ姿の男性が入って

来た。


悠里は三人の顔を見ると

座布団を横にスライスさせて


「三上悠里と、申します。

お見知り置きくださいませ。」

と、若々しい香りのする畳に

手を添えて一礼した。


「ウムお前が悠里か‼」

偉そーにジジイは

見下した顔で見てくる


「はい。」


「まあまあ、悠里さん

はじめまして、一大の妻の雪乃です。

そして孫の桜佑ですよ。」


ふくよかな、優しそうなお祖母様とは対照的に加納様は苦虫を噛み潰したような顔をしていて、痩せ型の

ガッチリした体型でドッカリと、

腰をおとした

まさに昭和初期のガンコジジイ。


悠里は頭をあげ桜佑を見た。


桜佑も、あんまり嬉しく無いような

ムスッとした顔をして横を向いて

座っていた。



彼と爺様にはあんまり

歓迎されていないのはまだ15歳の

悠里にもよく分かった。


ただお祖母様の雪乃さんの笑顔に

救われ、ホッとする気持も起きていた。


「三上の娘なのに貧相じゃのう。

飯は食っておるのか?

そんな体じゃ良い跡継ぎは

産めぬぞ!ハハハハハ」


「今の若い人は痩せてますのよ

ねえ悠里ちゃん。

口が悪いのは治らないのよ

気にしないでね。」


「あ、はい。」


「悠里、お前は家に住んで

白百合学園へ入るように手はずしてある。学費もウチでだす。

3年は預かろう、しかしだ

桜佑と、上手く行かないなら

この縁談は破談、桜佑にはワシが

選んだ嫁を娶らせる。

良いな!」


「お、おじいちゃん」

咄嗟に悠里は叫んでいた。


「お、おじいちゃん(╬`⊙д๏)💢」

まともに爺ちゃんと呼ばれ一大の

プライドはカチン‼


「あ、あ、すみません

お爺様」

悠里は”しまった”平民のおじいちゃん

扱いをしてしまったと、

心臓バクバク‼


プッお祖母様は吹き出した

下を向いて手で口を抑えクフフ。


「私、難籐高校を受験して

Sクラスに合格しています。

お願いです、難籐高校に行かせて

くださいませ。

勿論授業料はかかりません。」


「ウッ難籐だと‼」

爺さんはビックリしていた。


「マアッ‼

凄いわね!桜佑も難籐高校を

首席で卒業したのよ!

凄いワ悠里ちゃん。」


お祖母様の話を聞いて桜佑を初めて

尊敬の眼差しでみた。


桜佑も悠里をジッと見ていた、



お互いがお互いの顔をじっくり

見たのはこれが初めてだった。


「あ、あのう

お幾つですか?」




悠里が桜佑に尋ねると

桜佑の眉と、ジジィの眉がピクリ

と、うごいた。


「あらあら、桜佑はね、

にじゅ《はしたない‼》」


お祖母様のご返事に

ジジィが打ち消す様に怒鳴った。

悠里はビックリポン

「え、と、歳聞いただけデスケド‼」


「女から殿御に年齢を聞くなんざ

はしたなかろう。」


‼え‼そうなのか?

知らなかったー


「82じゃあ‼」


え?ソッチ‼

悠里は苦笑い、ア、ハハハハ…

桜佑を見ると桜佑も

シラーっとしてたいして、

気にしない様子。

(なれてるのか?)


お祖母様はニコニコして悠里をみていた。

(あー慣れてるんだ‼)

おジジイは案外天然?


お祖母様は悠里の言う事をキャッチ

したようにニコニコしながら

頷いていた。


「全く‼

三上本家はどんな躾をしてきたんだ‼

文句言ってくれるワ‼」


「まあまあ、あなた

大人気ない、悠里ちゃんは未だ15歳

なのよ、その辺の子と比べて

ご覧なさい

良く躾られていますよ‼ニッコリ」



「あ・・・のぉ~

加納様は私を気にいられてませんか?

でしたら、お話はお断り

されましたら如何でしょうか?」


悠里はジジィの態度が有り得なく

つい口走ってしまった。


三上を追い出され、連れて来られた

加納家を追い出されたら

悠里は高校にも行けない。

分かっていたが自分を

卑下されたようで

言わずにはいれなかった。


悠里は何も悪い事などしていない。

もし悪い事をしたとするなら

生まれて来た事かもしれない。



「話を断れじゃと💢やれるもんなら

とうの昔やっとるワムカッ


儂は、

お前の両親が気に入らんのじゃ

何考えているか分からん


特にお前の母親、智和が気に入らん

昔は高級バーに務めておってな

同僚からも嫌われていてな、儂にも

色々、色仕掛けをして

来たもんじゃ」



「あ、あなた娘さんの前で

そんな事・・・

悠里、ごめんなさいね。

悪気はないのよ。」

お祖母様はアタフタと、しているのに

ジジイはフンって感じて

ふんぞり返っている‼


まあそれくらいやって退ける

継母の事など承知している。


な━━━る程

あの母親ならやりかねない。

加納一大に嫌われる話を聞いて

悠里も納得した。



三上達成を狙っていたら

1段上の加納様に乗り換え用として

失敗したのか━━━━‼

母のやりそうな事だ!!


「お祖母様は平気なのですか?

そんな母を持つ

私がココに来ても?」


率直な疑問を投げてみた。


「ホホホ悠里ちゃん、昔の話よ、

それにこの人が浮気しないって

保証されたようなものだし

まあ、嬉しかったわ。

あなたのお母様はそれは綺麗でね!

赤い薔薇の花のようだったのよ。


それに、この人の曾祖父の遺言に、

玄孫には貴族の血が入った娘を

娶る様に‼って書いてあったのよ。

そしたら三上の分家に悠里ちゃんが

生まれてね、あなたの顔を見た

曾祖父が、決めたのよ!


曾祖父は長生きだったから

無くなる日迄元気だったのよ。」


ああ昔聞いた聞いた気がする

三上の本家は羽振りがいいが

分家は今の父親が事業を失敗して

傾いたはずが何故か

持ち直したと、言うことを聞いた

加納家の援助があってこそだろう。

ここの曽祖父は羽振りが良かった

と聞いている。


「あハハハハハ

いますよね!

そういう人、うらやましいです

おじい様も似てらっしゃるんですね。

お元気ですし


”憎まれ者世にはばかる”テキナ‼

お爺様何よりです。」


すると爆発しそうな爺様を見て

桜佑が間を割って口を出して来た。


「ん、んんッ、会長

俺と悠里で話をさせてください

当人同士で話をしたいんです。」


桜祐はチラっと悠里を見た。


悠里も桜祐を見て

((フンッ!!


悠里も結構気が強い。

胸が貧相だの、子供が産めるか

だの、躾がどーの、こーの

初対面にしては言い過ぎだと

思わないのか?

それにコイツ桜佑は悠里の想像

していた様な人格じゃ無い!!


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