第51話

「いったぁぁーっっ」


 穴に落ち地面叩きつけられたリディアは体を摩りながら体を起こす。

 辺りを見渡すと、見慣れないジャングルの中にポツンと座り込んでいた。


「ここは?」


(こんなシーンあったかしら?)


 頭を捻るもジャングルシーンなんか思い出せない。

 座ってても埒があかないと思い立ち上がる。


「怪我はなさそうね…」


 ぱんぱんと体に付いた土を払う。

 そして上を見る。

 穴に落ちたという事はここは地下なはずなのに青空が広がっている。


「空もおかしいけど、もうすぐ夕方よね?」


 午後の授業を終え、図書室に行く途中でゴタゴタに巻き込まれたのだ。

 今は夕方前のはずなのに陽が高い。


(さてどうしたものかしら…早く帰らないとイザークが危ないわ…)


―――ガサッ


「誰?!」

「女?」


 ひょこっと草むらから顔を出したのは荷物を肩に担いだ緑色の髪の男だった。


「あなたは?」

「それよりもこっちだ!」

「え?!」


 男に手を引っ張られそのまま走ると、岩陰へと隠れる。

 すると後を追う様にもう一人紅い眼をした少年がやってきた。

 辺りを見回し誰もいないのを確認するとその場を去っていく。


「ふぅ~~、行ったか…」

「あの少年は‥?」

「見たろ?あの紅い眼、魔物だ」

「はぁ…」

「あるお方を探している最中に出くわしちまってな、逃げている最中だったんだ」


 やれやれと汗をぬぐう男はこちらを見た。


「俺ディーノ、あちこち旅をしながら商人をやってる、あんたは?」

「私はリディア…、なんていうか穴に落っこちちゃってここに…」

「穴?そりゃとんだ災難だったな」

「ばーか」

「うわっっ」


 岩の真上からぬっとさっきの少年が現れる。


「くそっ黒魔法かっっ」


 ディーノがチッと舌を打つ。

 そのままリディアの手を掴み逃げようとしたら目の前に少年が現れる。


「逃げても無駄だよ、もう術の中だ」

「っ、…これまでか…くそっっ…」


ドサッ――――


 肩を落とし持っていた荷物を地面に置く。


「あーそのー、あなた名前は?」

「おいっ」


 暢気に名前を聞くリディアに焦って振り返る。


「俺の名はリュカ、お前…お前どっかで見たような‥‥」

「え…?」


(私を見たことがある?)


 思い出そうと頭を擡げるリュカを見る。


「そのー、なんでリュカはここに居るの?何か用事でも?」

「ちょ、あんた…」

「俺は地上にいる人間の子として産まれた魔の者を探している、知っているか?」


(それって…イザーク?!もしかして‥‥)


 リディアが首を横に振る。


「知らぬか… 俺はその者を探しに魔界よりやってきたが上の扉が開かず、他の道がないか探していたらこちらに繋がった扉を見つけたんだ、その扉は開くことができたからここにいる」

「‥‥魔界?」


(やはり…)


―― イザークルートで会わしてはいけない問題の男がこいつか?!


「そうだ!お前、地上に行く道を知らぬか!?」


 リュカがリディアに詰め寄る。


「おいっっ近づくな」

「大丈夫よ」

「え…?」


 ディーノが怪訝に見る。


(リュカはイザークを探すために地上に登る道を探しているという事か…)


 だが、絶対イザークと会わせてはいけない。

 そうなれば大団円が遠くなる。


(どうにかこいつを魔界に戻さなければ…)


「上に行く道は知らないわ…」

「そうか…」


 ガクッと肩を落とすリュカ。


「ねぇ、そのこちらに続く扉があった場所に案内してくれない?」

「なぜ?」

「そこには上の扉があったのでしょう?」

「ああ、だが、あれは開かない、いろいろ試してみたが駄目だった」

「私だと開けることが出来るかもしれないわ」

「本当か?!」

「はぁ?!何言ってんだお嬢さん!」


 ディーノが素っ頓狂な声をあげる。


「嘘なのか?」


 ムッとした顔でリディアを睨むリュカ。


「ああ、そのなんだ、リュカ…、その扉はきっと古代遺跡の一つで、聖女でしか開け閉めできない術が掛かってあるはずだ」


(聖女がカギの役割か…これは使えるわ)


 心の中でニヤッと笑うリディア。


「だが、こちらの扉は開いた」

「かなり古くなっていたのか‥、それともこちらはきっと地上と繋がってないから元から術を掛けてないか掛けていても弱いものだった可能性がある」

「そうなの?物知りね」

「まぁ…その、旅をしてりゃ博識にもなるってもんよ、ははっ」

「なるほど…」

「…地上と繋がってない…だと…」


 ガクッと肩を落とすリュカ。


「あー、そう気を落とすな、な」

「うるさいっっ、だったらお前らなど用はないわっっ」

「まずいっ」


 顔を上げたリュカの紅い目が光る。


「ちょっと待って!大丈夫、開けられるかもしれないわ!!」

「お、おいっ」

「本当か?!」

「嘘がバレたら後がヤバイぞ?!自分が死ぬだけじゃなくお前の一族全員呪われるぞっっ」


 二人がリディアに詰め寄る。


「あー、そのだから、本当に大丈夫よ」

「どうやって扉開ける気だよ?!」

「その、私、聖女候補だから」

「?!」


 リディアが自分の首元にある徴を指さす。


「おおっ」

「なっマジかよっっ」


 二人が目を見開く。


「ね、だから可能性あるじゃない?」

「確かに…」

「本当か?!」


 リュカの目が輝く。


「だから、その扉の場所に連れて行ってくれないかしら?」

「解った!こっちだ!」


 ルンルンと前を歩くリュカについて行く。

 その後をディーノと二人ついて歩く。

 そんなディーノの腕をつつく。

 振り向いたディーノに耳を貸せという様にちょいちょいと指を振る。


「!」


 耳打ちの内容に目を見開く。

 しばらく口をパクパクさせるも、諦めたのか頷く。


「もうすぐだ、あのカーブを曲がった先にある」

「っ」


 リュカの言葉にバッと離れる。


「お、おう」


 その言葉通り、カーブを曲がると大きな洞窟が現れた。


「でっけぇ洞窟だな…、てか扉ってどこに??」


 ディーノがキョロキョロと見渡す。


「どこを見ているコレだ」

「はぁ?!これが?!」


 洞窟の横にでっかい岩がでんとある。


『おいおいっこんなの閉じるの無理だぜっっ』

『ぅ…』


 リディアも岩だと見上げるまで気づかないその扉を見上げ唖然とする。

 イザークと会わせたくないリディアはディーノと協力して、またその扉の中にリュカを閉じ込めようという話だったのだ。


「どうした?さっさと行くぞ」


 リュカが洞窟に入る。


『どうするよっおいっ』

『うーっ、こんなの普通に動かすなんて無理… もしかして呪文とかで動かしているのかしら?』

『呪文?そういやカミル様に聞いたことが―――』


 リディアにその聞いたことがあるその呪文を耳打ちする。


「おい!早く来い!」

「ああ、今行く!」


 ディーノがリディアを見る。


(とにかくやってみるしかないわね…)


 それに頷くと、リディアは岩に触れた。

 そして今聞いた呪文を唱えた。


「??!」


ゴゴゴゴゴゴゴオオオオッッ


「嘘だろ…」


 その音に気付いたリュカが凄い勢いで戻ってくる。


「おっとっっそうはさせねぇ」


 ディーノがいつの間にか持っていた魔法石を投げるとリュカの目の前で爆発する。


「〇▽×っっ―――!!」


 爆発音と地が響く音にリュカの叫び声が掻き消される。

 そして音が止むと同時にぴったりとその洞窟が岩で塞がれた。


「ほんとに閉じやがった…」

「ええ、びっくり…」


 ポッカ――ンと口を開けその大きな岩の扉を見上げる。


「とにかく… でかしたっっ!!嬢ちゃん!!」

「わっっ」


 大きな体で抱き着くディーノに焦るリディア。


「いやぁ、どうなるかと思ったが、これで一安心だ!ありがとなっリディア!いや聖女様か」

「いや、聖女は勘弁して、リディアでいい」

「解った」


 そんなリディアに対して急に真顔になる。


「それで、ついでにもう一個頼まれちゃぁくれないか?」

「え?」

「そのなんだ、リディアも地上に戻りたいんだろう?」

「ええ、まぁ…」

「俺は地上に戻れる方法を知っている」

「本当に?!」


 しっかりと頷く。


「どうやって?もうこの洞窟の上の扉は使えないわ」

「ああもちろん、別の方法だ」

「どんな方法?」

「ここは交渉なんだが」

「なるほど、あなたの望みを適えたらその方法を教えてくれると?」

「そういうことだ」


 ニヤッとディーノが商人らしい笑みを浮かべる。


「で、あなたの頼みってのは一体何?」

「おっ、商談成立だなっ」

「仕方がないでしょう?そうしないと帰れないんだから」

「話が早くて助かる」

「で、何なの?」


 ディーノを見上げると、後ろ髪を軽く掻きむしりながらのへらーっと頼みを口にした。


「そのなんだ、――神様を探してほしいんだ」

「はぁ!?」


 今度はリディアが素っ頓狂な声を上げる番だった。


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