第27話
イザークに連れられ、小さな噴水のある場所へと移動した。
先ほどの庭園程大きくはないが、こじんまりとした庭園と噴水の近くに東屋があった。
そこでイザークの入れてくれたお茶で休憩する。
「ふーっ、やっぱり美味しいわね」
イザークの入れるお茶は今の自分の体調にバッチリで、香りもセンスがいい。
身体が一口でリラックスしていくのが解る。
「あの…」
お茶を楽しんでいると、イザークが躊躇を見せながらリディアに話しかけた。
「?」
リディアが首を傾げイザークを見る。
「その先ほどの件ですが…、私のせいで―――」
「あー、それ問題ないから大丈夫」
「え‥‥」
何を言いたいのかすぐに理解したリディアはサクッと遮る。
「ですが…」
それでも流石に大勢の目の前で誹謗中傷され、それも自分のせいでリディアまでも酷い言われようをしたことに、申し訳なさとやるせない気持ちに言い淀む。
「あー、その」
あまりにも辛気臭く悲痛な表情でいるイザークに流石にこれではお茶を楽しめる雰囲気でもない。
仕方ないと声を掛けると、カップをテーブルに置きイザークに向き直る。
(面倒だけど、仕方ないわね)
はぁ~っと息を吐くと、イザークの眼を真っすぐに見た。
そして指を立てる。
「まず第一に私は傷ついていない」
「え?」
「あーその何ていうか、あーも定番な感じで言われてもね~、傷つきようがないじゃない?」
「‥‥」
唖然として見るイザークに続ける。
「第二に、あなたのせいではなく、アレは私がジーク派だと思っているからでしょ?」
「! ですが…」
「というかね、ジークに悪印象を与えるのに使われたって感じね、従弟出してきたのは私達を乏しめるだけでなく、ジークの印象を悪くさせるために皆が王家の事を口にしても泳がせていたでしょう」
如何にも悪役令嬢らしい誘導に、思わず顔がニヤつきそうになったのを堪えるのが大変だったわと、心で付け足す。
(でも、このゲームの悪役令嬢ってあんなだったっけ?)
もっとこう短絡的で、解りやすって突っ込み入れたくなるような虐め方やガキが書いたような悪役だった気がする。
(萌え要素がない悪役令嬢だったと思うんだけど…うーん)
レティシアは確かに解りやすい悪役ぶりを発揮していたが、私達だけでなくジークに対しても疑惑が上がるように見事に自分の思惑通りギャラリーを誘導して見せた。
(でもまぁ、お陰で楽しませてもらったわ)
イザークには悪いが、寧ろもっと発揮して欲しいと願う。
リディアにとって悪役が見事なほど萌えるというもの。
ゲームも小説でも何でも、主人公だけが良くても意味はない。
どのキャラもよくキャラが立っていて、その中でも悪役が良いのは良作品になりやすいとリディアは常日頃から思っている事である。
(最後まで悪は悪を貫いて欲しいわ~)
うんうんと頭を頷かせる。
その頭の中はそれじゃチョロい攻略が難しくなるという事はすっかりどこぞに行っていた。
「それでも…」
考えに耽る中、耳に悩ましい声が届く。
そこでジークと話していたことを思い出す。
(いけない、思考に耽ってしまっていたわ)
「それでも自分のせいで」と言おうとする言葉を遮るように、また喋り出す。
「えーと、第三に、ジーク派というだけではなく、あーいう輩はね、誰のせいとかじゃなく気に入らなかったら言うものよ、特に相手が弱い立場だったり、抵抗できそうにないような何も言ってこない相手を選んで言うの、自分の方が上だ―という優越感に浸りたいだけだから、同じ土俵に立っちゃだめよ」
「‥‥」
更に唖然とイザークが私を見る。
「ほら、あなたのせいじゃないでしょ?」
「‥‥それでも、この私の紅い眼がある限り、貴方は…」
(あーまた面倒くさいモードに戻ったか)
リディアはチッと心の中で舌打ちする。
さてどうしたものかと思案する。
(こういう時はド定番を責めるのが一番よね、とはいってもなー)
”あなたの瞳は綺麗“的なド定番なセリフはリディアは飽き飽きしていた。
(いやまぁ、シナリオやキャラが良いのならいいのだけどね…)
お花畑系のこれを言えば相手はコロリと落ちます的な感じで使われるのは、かなり引く。
あまりにお手軽に使われるのを見る度にげんなりするそんなセリフを自分の口から言いたくもない。
チラリと見るイザークの苦悩に歪むその紅い瞳とさっきの場面での紅い瞳が重なる。
(そか、笑わせれば何でもいいわよね…)
「あ、イザークお茶に何か入ったみたい、何かしらこれ?」
「え?は、はい‥、失礼します」
イザークがリディアのティーカップを覗き込む。
その覗き込んだ瞳を横から軽く口付ける。
「! り、リディア様?!」
「あっはっは」
眼をクリクリさせて驚く表情に思わず吹き出す。
これではどっちが攻略男子やらと、攻略男子がしそうなことをやって見せたリディアは悪戯に成功した子供の様に笑った。
「揶揄わないでくだ―――」
「棒読みになったけれど、あれは本当に思っている言葉よ」
「! ‥‥この呪われた魔物の眼と言われる紅い眼がですか?」
「それがいいんじゃない」
紅い眼を瞬かせる。
(これが無くなればイザークの魅力半減よね、てか、ファン泣くよ?赤眼は必須!)
赤眼はリディアも好物だ。
「私の…この紅い眼が…ですか?」
「もう一度口づければ納得できるかしら?」
「!」
カーッと頬を赤らませるイザーク。
(この表情は萌える!!)
キランと目を輝かせるリディア。
「‥お、お戯れは…」
「なら、解ってもらえたのね」
「はい」
「なら、お茶をもう一杯入れて頂こうかしら?」
「もちろん、よろこんで」
穏やかな笑みを浮かべるイザーク。
やっと笑みが戻ったことにホッとし、改めて新しく入れてもらったお茶を口にしながら、さっきの場面を思い返す。
そこでそういや一押しのオズワルドに会えたことを思い出す。
(オズ様、流石素敵だったなぁ~…)
しばらくリアルオズを脳裏に焼き付くようにしっかりと思い浮かべ酔い痴れる。
前世の自分の部屋だったらクッションを抱いてゴロゴロ悶えまくってたはずだが、流石にここでは出来ないので、ぐっと気持ちを抑える。
(だけど、問題はここからね)
オズワルドに会ったという事は、序章は終わりだ。
ここから本編に突入ということになる。
その本編の内容をほぼ覚えていない状態でフラグを立てずに大団円を完成させなきゃならない。
(とりあえず、少しは情報得たのよね)
ちらりと横に佇むイザークを見る。
先ほど幾らか情報を得た、そこから何か思い出せないかとイザークのストーリーを思い出してみる。
(そう言えば、イザークは黒魔術がチートだっけ?あとは…)
脳裏に一枚のスチルを思い出す。
イザークが誰かに操られて黒魔術を発動させるというものだ。
(そか、イザークを騙す魔物でややこしくなるんだっけ、ああ、ちょっと思い出してきたぞ)
そのスチルから最後のシーンを思い出す。
(魔族に洗脳されたイザークに根気よく向き合って最後の最後で洗脳を解いて~でも解いたのが少し遅くて~何かぶわーっと魔物出て二人で止めて終わるんだよなー)
洗脳解くとか面倒だなーと、リディアは頬杖を突きお茶をすする。
「あ…」
「?」
(洗脳を解かなくてもよくない?)
――――― 洗脳に掛からなければ解かなくてもいい?
それだと面倒な解くための努力もいらない。
それにフラグも立たない。
「ねえ」
「なんでしょう?」
「魔物が出入りするような入り口とかってある?」
「!…魔界に通じる場所という事でしょうか?」
突然魔物の出入り口など物騒な事を言い出すリディアに、イザークは驚き聞き返す。
それに対して小さな頭を頷かせる。
「‥‥」
しばらく考え込むと、何か思い出したのか頭を上げた。
「そう言えば、聖女の物語で”地下から湧き出た魔物達“というフレーズがあった気がします」
「地下…そうよ、地下よ!」
「?」
不意に声を上げたリディアに怪訝そうな面持ちで見る。
(地下だわ、絶対)
リディアの脳裏に浮かぶ地下の場面。
そこで長ったらしいセリフを高速でスキップしまくった記憶がある。
(絶対あれはイザークを洗脳するための会話よね…てことは)
「イザーク」
「はい」
「これは命令よ」
「?」
「決して地下には近づかない事、絶対地下には行ってはダメよ」
「? はい…」
「これは命令だからね」
「畏まりました」
頭を下げるイザークにうんと頷く。
(これで、イザーク攻略は終了ね!やっぱチョロいわ!)
ニンマリと笑みを作り、心で高笑いを決めるリディアがそこに居た。
(でもそういや、イザークって何系男子何だろう?)
ふと思うが、ヤバそうなヤンデレとドSはもう出ているから問題ないかと思い出すのを止める。
(さぁ、本編ね、どーんと来いなのですよっ!)
リディアはイザーク攻略で調子に乗っていた。
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