第90話 「黄天騎士団…」

「――以上です。グリマで起きていた流行病は終息。問題は解決出来たと思われます」


「うむ。御苦労だった。では次の議題だ」


「では次に現在、領内で起きてる問題について報告します」


 今日はグラウバーン家の家臣を集めての三ヵ月に一度の定例会議。

まだ成人してないが、嫡男であるボクは偶に参加するようにと言われてから出来る限り参加している。


 アイシスさんは参加してないが、白天騎士団も逗留しているので団長のラティスさんと副団長のルクレツィアさんが参加している。


「ドノーの代官から報告がありました。近くの森にオークの群れが棲み付き、現在巣を作っている最中との事。冒険者に依頼を出しているが、冒険者に対応出来ないようであれば騎士団の出撃許可、並びに応援を要請しております」


「オーク如きに騎士団を出せと?駐留してる一般兵で十分であろう!」


「まぁ待て。規模はどの程度だ?」


「最低でも二百体規模。ハイオークの存在も確認しているそうです」


「そこそこ大きいな。よし、騎士団を派遣する。二個中隊で十分だろう。選抜は任せるぞ、マーマデューク団長」


「ハッ、了解しました」


 オークか。

オークは繁殖力が高いから、放置すればあっと言う間に増える。

ハイオークも居て二百体規模なら一ヵ月で千体規模になるかも。


「本日の議題は以上です」


「そうか。俺からは特に…ああ、いや。セバスチャン、三年前の帝国軍の奇襲を手引きした犯人はまだ見つからないのか?」


「申し訳ありません。まだ特定には至っておりません」


「…お前が三年もの間特定できずにいるとはな」


 三年前の…帝国が行った宣戦布告無の奇襲か。

王国各地で行われ、グラウバーン家も狙われた一件。


「帝国軍に接触した人物は皆、事情を知らない一般人でした。金で雇われただけのスラム住人だったり、お使いを頼まれた程度の認識だった子供だったりと。黒幕に関する情報は何も持っておらず…人を雇うのにも複数の人物を介しており、特定が困難です」


「…チッ。用心深い事だ。帝国側から辿れないのか?」


「奇襲に関わった帝国側の人間は殆ど死亡しているそうです。生き残りはいても何も知らない様子」


「もう帝国との戦争は終わったのです。放っておいても構わないのでは?」


「そんな訳に行くか。そいつが何者か知らんが、王国の人間なのは間違いない。ならばそいつは裏切り者だ。裏切り者は粛清せねばならん」


「っ…失言でした。申し訳ありません」


「うむ。…この件に関しては被害にあった貴族家も捜査してるであろうが…他家と連絡は取っているのか?」


「はい。まだどの貴族家も有力な情報は何も得ておりません」


「そうか…黄天騎士団に協力を要請するか」


「黄天騎士団…」


 黄天騎士団…アデルフォン王国の全貴族に対して捜査権を持つ、王国内の規律と秩序を守る騎士団。ある意味で最も貴族家から恐れられる騎士団。


「何、グラウバーン家は昔から清廉潔白。探られて痛い腹も無い。何も問題は無い」


「そうですな」


「ジュン様も依然、領民から慕われていますし、何も問題はないですな」


「ハハハ…」


 若干の不安材料はありますけどね。

ボクの身体でアイシスさんが娼館通いをしてた事がバレたら…ちょっとマズい事に。


「そう言えば、ジュン様。今年の武芸大会に剣で出場なさるとか?」


「…え?あ、ああ。うん」


「観客は驚くでしょうね。まさか魔帝が剣術も得意で、武芸大会に出て来るなどと」


「応援は家臣団が総力を挙げて行います。お任せください!」


「聞いた話だがカークランドの次男も武芸大会に出るらしい。もし当たったらボコボコにしてやれ」


「なんと!あのカークランド辺境伯家の!」


「ならば応援合戦でも負けるわけにはいきませんな!」


「横断幕や旗を新調せねばなりませんな!」


「アヴェリー殿下も武芸大会の観戦は許可されていますから、白天騎士団も全力で応援します」


 …そこまで本気でやらなくてもいいんだけど。

家臣団もカークランド辺境伯家を嫌ってるのが多いから、何かやらかしそうで不安。


 そこで会議は終わり。

裏切り者に関しては黄天騎士団に協力を要請する事になった。


「まぁ要請せずとも動いてると思うけど。ヨシュアなら」


「そうなんですか?」


「三年前の奇襲は王城にもあったのだもの。黄天騎士団も襲われているし。あのヨシュアが調べない筈が無いわ」


「ですが、それでも犯人の特定に至ってないという事は、黄天騎士団でも見つけられないという事です」


 と、ラティスさんとルクレツィアさんは言う。

もしかしたら迷宮入りってヤツになるのかな。


「グラウバーン公爵家から要請があれば…黄天騎士団も此処に来るかしらね」


「一度は来るでしょう。グラウバーン家が集めた情報を聞きに」


「そうですか。黄天騎士団が来ますか」


 いや、アレがバレたって、別に犯罪では無いのだが。

ボクの評判が下がって、周りの眼が厳しくなるだけだと思うが。

でも、なるべく会わないようにしよう。


 と、思っていたのだが。

そういう訳にも行かなかった。


「黄天騎士団団長ヨシュア・ロイエンタールだ。よろしく、魔帝殿」


「はい…ジュン・グラウバーン男爵です」


 予想通り、黄天騎士団は直ぐに来た。

ロイエンタール団長も来るのは予想してたけど…ボクに話があると、名指しで指名して来るとは思わなかった。


 疑問に思った父上とラティスさんが同席してくれてるのが幸いか。


 ヨシュア・ロイエンタール団長…アッシュグレーの短髪、鋭い眼光。厳格そうな風貌を持つ。

黄色の騎士服に身を包み、ボクの眼の前に座っている。


「そう緊張しなくていい。君は被害者なのだからな」


「…被害者?」


「君は二年ほど前に、帝国に誘拐されかけた事件の事だ。その時の誘拐犯が亡命してグラウバーン家に仕えている事は聞いている。その者達と、君から当時の話が聞きたい」


「ミゲル達はノルンに呼びに行かせてる。もう来るだろう」


 …その話ですか。

困ったな…ノルンとアイシスさんから出来るだけ詳しく聞いてはいるが、アイシスさんの記憶がイマイチ曖昧で完全に把握してるとは言い難い。

おかしな齟齬が出なければいいけど。


「ですが、何故その事件を今?例の裏切り者と何か関係が?」


「あるかもしれないし、ないかもしれない。それを判断する為の聴取だ。協力してもらいたい」


「わかりました」


 …黄天騎士団の団長なら、ボクのステータスを見破って来るかと思ったけど、今の所その様子は無い。警戒のし過ぎだろうか?


「旦那様、ミゲル様達を御連れしました」


「入れ」


「し、失礼します…」


「ひえっ…なんかヤバそうな空気…」


 事件の事をあらかた話し終えた頃に、ノルンに連れられて若干怯えた様子のミゲルさん達が来た。


 さて、彼らに何が聞きたいのやら。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る