第82話 「宮廷鍛冶師ですか?」

 ファーブルネス帝国の荒地化問題。

その原因の調査から始まり、遺跡探索。魔獣討伐。ゲオルギウス皇帝陛下の国葬と続き。

第一皇子と第一皇女の失脚で一連の終わりを迎えた日の翌日。

ボク達はグラウバーン領に帰って来た。


 あの日、翌朝にはイワンとヴァネッサの姿はすでになく。

ジーナ様は直ぐに次期皇帝はハリー殿下に決定したと公表。

近い内に即位式を行うそうだ。


 イワンの妻だった二人はイワンと共に修道院送りという話もあったそうだが、事件のへの関与は認められず、御咎めなし。

それどころかハリー殿下の妾となるそうだ。


 実の兄の妻だった人を妾にするというのも随分な話な気がするが、かと言って実家に帰らされてもあの二人に居場所は無いらしく。

妻にはなれなくても、こちらの方が余程いいらしい。


 ハリー殿下の正妻も近い内に決まるだろう。


 欲望のダンジョンで手に入れたクリア報酬だが、上級ダンジョンだけあって皆そこそこいい物が貰えたようだ。


「えー、なにそれなにそれ!」


「ふっふ~ん!ダンジョンのクリア報酬で貰ったのさ!」


「あたしは弓だよ~ん」


「私は盾だ!ハッハッハッー!」


「いいなぁ…アイシス達ばっかり、ズルい!」


 早速、仲間内にアイシスさん達は自慢してる。

まぁ思わず自慢したくなるのも仕方ないくらいに良品ではあると思う。


 アイシスさんの指輪は「ソーサラーリング」。

魔導士が持つ杖の代わりになる指輪で魔法の発動を早めてくれたり魔力を高めてくれる。

一流の魔導士は杖が無くても問題無く魔法を使えるのだが、剣帝であり、魔導士としてはまだまだなアイシスさんには必要なアイテムだろう。


 レティさんの弓は「雷鳴の弓」

その弓で矢を放てば雷属性が付与。

通常の弓矢よりも速く、遠距離まで矢が届く。


 ダイナさんの盾は「四身の盾」

この盾の能力は地味だが実に使い勝手が良い盾で、四つの大きさにサイズ変更が可能な盾だ。

「スモール」の掛け声で小盾サイズに。

「ミドル」の掛け声で中盾サイズに。

「ラージ」の掛け声で大盾サイズに・

「ギガント」の賭け声で人一人が余裕で隠れ切るサイズの超大盾サイズになる。


 ティータさんのリボンは全ステータス値が上昇する能力上昇系のアイテム。

毒耐性と石化攻撃耐性も与えてくれる。

上昇する数値はさほどでもないが、ただ身に着けるだけでいいし、デメリットも無いので使いやすいアイテムだろう。


 ラティスさんのクリア報酬はなんと魔剣だ。

ボクとアイシスさんの魔剣程ではないが中々に強力な魔剣で、水の精霊ネレイドが宿っている。

上級ダンジョンで貰える物の中では最高の一品らしい。

ラティスさんは水属性の魔法適正があるので出来る事が被ってるのが若干残念ではあるが。


 次にアヴェリー殿下。

彼女の場合、物によっては取り上げる必要があったが、そうはならなかった。

むしろ、彼女には是非持っていてもらわないといけない物だった。


 アヴェリー殿下のクリア報酬は首飾り。

「ライオンハート」という名の首飾りの能力は心を強くし、混乱や精神攻撃から守ってくれる。

本来、性格まで矯正する力は無いのだが、アヴェリー殿下には効果覿面。

鎧を着なくても、他人と面と向かって会話出来るようになった。

一人で出歩く事はまだ出来ないが、かなりの違いと言える。

イジめる機会が減ってしまったと、ララさんは嘆いていたが。


 そのララさんのクリア報酬は鞭。

対象を自動追尾する能力がある「クイーンズウイップ」という鞭で、かなりの命中率を誇る。

しかし、新しい鞭を使う機会が無いと、これまた嘆いていた。


 リリさんのクリア報酬は指輪。

「フェアリーアイ」という指輪で、用途に合った妖精を呼び出す事が出来、簡単な雑事や魔法を使って戦闘のサポートをさせたりも出来る。

これでサボれるっとリリさんは喜んでいたが、対価に魔力を必要とするので魔力の少ないリリさんはそうそう気軽に使えない。


 そしてボクがもらった「魔法剣士のローブ」だが、軽量化の魔法以外にも後二つ程魔法付与が出来そうだ。

武器や防具に魔法を付与して能力を向上させる技術は専門の修練をした鍛冶師で無ければ出来ない。


 ただ、これだけの良品に魔法付与するとなると、やはり腕のいい鍛冶師に頼みたい。

残念ながらグラウハウトの鍛冶師では難しい。

ではどうするかと悩んでいたらラティスさんに心当たりがあるそうだ。


「宮廷鍛冶師ですか?」


「ええ。ドワーフの鍛冶師で長年アデルフォン王国に仕えてるの。鍛冶師として最高峰の腕前を持つ者に与えられる『マエストロ』の称号を持つ、アデルフォン王国最高の鍛冶師よ」


「そんな方が居たんですか。知りませんでした」


「彼は気難しい性格で、気乗りする仕事しかしないから。七天騎士団の装備品の製作や整備等は本来宮廷鍛冶師なんだけど、今は彼のお弟子さんがやっているの」


「気難しい…ですか。技術職の方に多いですよね」


「そうね。それで、どうする?白天騎士団の団長である私の紹介であれば、話くらいは聞いてもらえると思うわよ?」


「そうですね…御願いします。その方の御名前は何と?」


「ジドさんよ。ドワーフらしく大変な酒好きだkら、手土産にお酒を用意しておくといいと思うわよ」


そういうわけで王城へ。

戦勝記念の式典が終わってそこそこ経っているので、王城も王都も流石にお祭り騒ぎは治まっている。


「で。何故皆さん付いて来てるんです?ノルンはいいとして」


「ジュンの行く所が私の行く所!」


「アイシスだけいい思いさせるのは面白くないしねー」


「団長もね」


「私はアイシスの監視です」


「はぁ。まぁいいんですけど。一番わからないのは…セーラさん?」


「あら、いいじゃない。言ったでしょ?出来るだけジュン君と一緒に居るように父様に言われてるって。それに私はジドさんに会った事があるもの。私からも口添え出来ると思うわよ?」


 そうなのか。

まぁ、気難しい人だって話だし口添えしてくれるというなら御願いするかな。


「それに…また面倒くさい人に絡まれたらイヤでしょ?例えばアレとか」


「アレ?…ああ」


「ん?……ジュンか。何しに来た?」


 ナッシュか。

宮廷騎士だから王城にいるのは当然か。


「こんにちは、ナッシュさん。今日は、宮廷鍛冶師に仕事を依頼したくて」


「宮廷鍛冶師?もしかしてジド殿か?ハッ!どんな仕事を依頼するか知らないけどな、あの人がお前なんかの依頼を受けるか。無駄だから、さっさと帰れ」


「ナッシュさんはジドさんをよく知っているのですか?」


「お前よりはな。以前、俺が仕事を依頼しても断られた。俺がダメだったのに、お前が受けて貰えるわけがないよなぁ」


「いつも煩い男だね、君は」


「あ!?…あっ、け、剣帝殿…」


「私もいますよ」


「セ、セーラ様…」


「貴方は宮廷騎士ですね?宮廷騎士ともあろう者が男爵様相手に何です、その態度は。騎士であれば礼節を持って接しなさい。例え友人であっても」


「は、白天騎士団団長、ラティス・バーラント殿……し、失礼します!」


 友人じゃないですけどね、ナッシュとは。只の同級生です。

会う度に絡んで来るけど。


「ねぇねぇ、今のカークランド辺境伯家の次男君だよね」


「ジュン君とは仲悪いの?」


「そうですね。良好とは言えません」


「はは~ん…それでアイシスはカークランド辺境伯様の御誘いを断ったんだ」


「ん?……ああ、あれね。うん、そういう事」


 そんな事あったのか。

さしずめ、ナッシュとアイシスさんの婚約を狙っての事か。


「しかし、辺境伯家の子息で、宮廷騎士であるナッシュの依頼も断ってるのか。家格や身分で相手を選ばない人みたいですね」


「そうね。陛下の依頼でも中々受けない、本当に頑固で気難しい人だから…こっちよ」


 へ、陛下の依頼でも受けないの?

ボクの依頼なんて受けて貰えないんじゃ…期待はしないでおくかな。

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