第42話 「限界を超えた」

「なるほど…あの奇行はそういう事でしたか」


「奇行…そ、そうです」


 昼にステータスの表示がおかしくなって、数時間後。

今はティータさんと二人きり。準備は終ったので明日には王都に向かって帰る事になる。

そして何とかステータスの表示がおかしくなった事をティータさんに説明して、理解してもらった所だ。


「ステータスにわけのわからない言葉が出たと思ったら準備中になった…前代未聞ですね」


「やっぱり例の無い話なんですか?」


「はい。少なくとも私は…今も準備中のままですか?」


「見てみます」



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アイシス・ニルヴァーナ LV99+ 状態:接続 (ジュン)


性別:女


職(身分):騎士(白天騎士団所属 アデルフォン王国騎士爵令嬢) 賞罰:無


年齢:十七歳


称号:剣帝 魔帝 殲滅者 戦場の女神 癒しの聖女 超越者


アビリティ:剣術LV10 体術LV5 全魔法LV10 アビリティリンク 


能力値:HP9999+ MP9999+ 


    物理攻撃力9999+(350) 


    魔法攻撃力9999+(50)


    物理防御力9999+(200)


    魔法防御力9999+(120)


    力9999+  魔力9999+


    体力9999+ 器用さ9999+


    知力9999+ 精神力9999+


    速さ9999+ 魅力1512


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「ぷっ!?」


「ど、どうしました?」


 なんだこのステータス…LV99になった時点で殆どのステータスが9999…MAXだったけど、+なんて付いてなかった。

魅力以外全部付いてるし…新しい称号も増えてる。


【超越者:人の限界を超えた者に贈られる称号。全ステータス上昇。全ステータス上昇プラス補正。スキル『アイテムボックス』が使用可能】


 何、このとんでも称号。

いや、既にLVMAXの状態で貰っても、あまり意味の無い称号か?


「…何かステータスに変化があったんですね?ステータスボードで見せてもらっても?」


「あ、はい」


 ステータスボードを見せると、ティータさんは唇に指をあてながら考え込む。

ティータさんも美人だから、そういう仕草も映える。

…何か、たま~にティータさんだけじゃなく他の皆にも妙な気持ちになる時があるんだよね。


「何です?」


「あ、いえ…どうですか?」


「そうですね…驚きです。これも前代未聞ですね」


「というと?」


「ジュンさんの…正確にはアイシスのステータスは人の限界を超えています。恐らくこの+という表記。これは実際には9999を超えているという事ではないでしょうか」


 つまり…例えばHPの実際の数値は9999ではなく10000以上という事…か?


「そういう事になるかと。そして何より重要なのはLVもそうなってるという事です」


「LVも?…あ」


「はい。人の限界はLV99。それ以上は上がらないのがこれまでの常識でした。ですがアイシスのステータスの表示ではLV99+…つまり実際にはLV100以上という事でしょうね。そして…恐らくはこれからもLVは上がる」


「それは…」


 絶対に周りに知られる訳には行かない。

知られたらどうなるか…


「ですね。いくつかの称号もそうですが、可能な限りステータスは他人に見せるのは避けるべきです。ですが…厄介なのは他人のステータスを見る事が出来るアビリティやスキルの持ち主ですね」


「えっと…鑑定ですか」


「そうですね、鑑定が最も所持者が多いでしょう。他にもあると思いますけど…調べないとわかりませんね。…ところで、このアイテムボックスとはどんなスキルですか?」


「えっと…」


 【アイテムボックス:異空間にアイテムを収納出来る】


「異空間?異空間とは?」


「さぁ…兎に角使ってみます」


 アイテムボックスを使用すると空中に魔法陣のような文様が出て来た。

触れようとするとすり抜ける。触る事は出来ないみたいだ。


「…もしかして、此処に物を入れるのかな?」


「そうかもしれませんね。やってみましょう」


 検証の結果、予想通りこの文様に物を入れれば何処かに消えた。

初めは万年筆、靴、上着と。徐々に大きくしていき最終的にはベッドまで入った。

取り出す時は出したい物を思い浮かべて出す場所を指定すれば出て来る。

どのくらい入るのはかわからないけど、少なくとも重さは感じない。


「…便利過ぎますね。このスキルがあれば戦争の物資運搬も随分と楽だったのですけど」


「でも…このスキルも秘密にした方が良いです、よね?」


「ええ。その方が良いでしょうね魔法鞄マジックバッグとよく似てますけど、アレは収納限界がありますしベッドなんて大きな物迄は入りませんから」


 そうか、確かに魔法鞄と似てる。

アレは見た目以上に物が入る鞄でしか無い。

鞄の口以上に大きな物は入らないし、入る数には限界がある。

それでも軍や行商人、冒険者には便利な道具だしそこそこ高級品なのだが。


「ところでアイシス…いえ、ジュンさんのステータスはどうなっていますか?」


「あ、はい」


 

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ジュン・グラウバーン LV99+ 状態:接続 (アイシス)


性別:男


職(身分):魔法剣士(アデルフォン王国辺境伯嫡男) 賞罰:無


年齢:十四歳


称号:魔帝 剣帝 迷宮踏破者(初級)超越者


アビリティ:全魔法LV10 剣術LV10 ステータスリンク 体術LV3 鑑定LV2 


能力値:HP9999+ MP9999+ 


    物理攻撃力9999+(0) 


    魔法攻撃力9999+(0)


    物理防御力9999+(10)


    魔法防御力9999+(10)


    力9999+  魔力9999+


    体力9999+ 器用さ9999+


    知力9999+ 精神力9999+


    速さ9999+ 魅力1512


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 うん…能力値が同じなのはわかってたけど、アイシスさんのステータスと同じような事になってるな。超越者の称号もあるし。他にも称号とアビリティが増えてる。

それに…職が魔導士から魔法剣士に変わってる。

これにはあまり大きな意味はないけど。


「どうですか?」


「あ、はい…LVや能力値なんかはほぼ同じです。でも称号やアビリティが増えてますね…『迷宮踏破者(初級)』という称号とアビリティに『鑑定LV2』が有ります」


「それは…試練のダンジョンでもクリアしたのかしら?」


「ああ…そうみたいですね」


 どういう経緯かわからないけど、試練のダンジョンに行ってクリアしたんだろう。

で、報酬として称号とアビリティを貰った、と。

それにしてもさっき話に出た『鑑定』を所持してるとは。


「あの子もあの子なりにジュンさんの力になろうとしたんでしょうね。合流するのは現実的じゃなくなった以上、この状況を利用してジュンさんを強くするべく、訓練に励みアビリティや称号を獲得しようとした」


「アイシスさん…」


 残念ながら『鑑定』を使う機会は無かったけど…有難い話だ。

素直に嬉しいと思う。


「それで結局…こうなった原因は何だと思いますか?」


「え?それは前にも言ったように『アビリティリンク』と『ステータスリンク』の相乗効果によって精神が入れ替わったって…」


「いえ、そうではなく。LVや能力値が限界を超えた理由です」


「それは…」


「勿論、直接の原因は入れ替わりになるのでしょう。でもアイシスのLVは暫くは99のままだったのですよね?それが久しぶりに見たらおかしな事になってた。その理由に心当たりは?」


「…多分、ですけど。ボクのLVも99になったから、じゃないでしょうか」


 この入れ替わりの状況をまとめると、お互いが得た経験値を共有し、お互いの能力も共有出来る、となる。


 そして二人共にLV99になってからも経験値を入手し続け…その結果。


「限界を超えた、と」


「そうなるかと」


「…精神が入れ替わるというマイナス面にさえ眼を瞑れば、誰でも利用したくなる効果ですね。でもそうなると…元に戻った時、ステータスがどうなるのか、が不安になってきますね」


「あ…」


「このステータスは入れ替わっているからこそのステータスなのは間違いありませんから。元に戻った時、どうなるのか…入れ替わり前のステータスに戻ったとしても不思議じゃありませんね」


 そういう事もある、か。

なにせ何もかもが前代未聞。どうなるのか予想は出来るけど…確証はない。


「…これ以上は考えても仕方ありませんね。二週間後には王都で合流出来るんですから、その時を楽しみに思っていましょう」


「そうですね…」


 不安になっても仕方ない、それなら楽しみに思って待っていた方が良い、という事か。

確かにその通りだ。


「私はあの子が何かやらかしてジュンさんにとんでもない負債を背負わせてないか、不安ですけど」


「ハハハ、まさかぁ」


 父上は居ないけどセバスチャンが居るし。そうそうおかしな事にはならないはず。

メリーアンは少し不安だけど。ノルンも…ちょっと不安だけど。

多分、大丈夫でしょ。


 ……多分。

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