いざ、同窓会! ②
彼は自分のリュックから一冊の文庫本を引っぱり出して、真樹に見せた。
『僕の式神は
「それ……、あたしが書いてるシリーズの記念すべき一作目……だよね」
真樹はデビューしてから五冊の著書を出している。初期の二作は単発作品だけれど、半年前に初版が出たこの本から始まった「狐姫」シリーズが、彼女の代表作になっている。近々TVアニメ化されるらしい、とネットで
「そ。シリーズ全作持ってるぜ。その前の二冊もな」
「へえ……」
真樹はリアクションに困る。
(嬉しいけど、「どういう風の吹き回し?」とも思うし……。だって――)
彼は中学の頃、真樹がノートに書いていた小説の下書きを横から盗み読み、「ダセぇ」とか何とかこきおろしていたのに。
「……なに、その
「そりゃあ、嬉しいよ。嬉しいけどさぁ。中学の時、あたしの小説を『ダっセぇ!』って
「……えっ? 俺そんなこと言ったっけ?」
「言ったじゃん。覚えてないの?」
わざとなのか素なのか、すっとぼける岡原に、真樹は眉を八の字にして言った。
彼は数秒間考え込んでから、やっと返事をした。困ったように、首を
「……悪りぃ。マジで覚えてねえや」
どうやら、さっきのとぼけた顔は素だったらしい。真樹は脱力し、怒る気力も
「覚えてないならいい。あたしの方こそ、イヤミったらしく言ってゴメン」
中学時代には小説を
「――あ、そうだ。あたしね、岡原からもらったボタン、今でも捨てずに大事に取ってあるんだよ」
「……へえ。俺はあんなモン、とっくに捨てられてると思ってたけど」
何せ、真樹に渡した時の理由が理由だったので、怒るか気を悪くしただろうと岡原は思っていたようだ。
けれど、真樹はゆるゆると首を振った。
「捨てられないよ。たとえ、アンタにとってあれが〝チョコのお返し〟でしかなかったとしても」
「そんなワケねえだろ」
「……え?」
(それって、どっちの意味で解釈したらいいの?)
〝チョコのお返し〟ですらないという意味だろうか? それとも――。
(あれはウソで、ホントは別の意味があったとか?)
「……ねえ岡原。それってどういう意味?」
真樹がそう訊ねた時――。
『
ピンポンパンポン♪ というおなじみの音の後、若いけれど野太い男性の声で集合の放送が流れた。
「――悪りぃ、真樹。そのハナシ、同窓会が終わった後でもいいか?」
「えっ? うん、いいけど」
「お前の質問の答え、多分俺が今日伝えたいこととおんなじだと思うからさ」
「え……。分かった」
真樹は戸惑いながらも頷く。――これは、もしかして!?
「――真樹っ、体育館行くよ~!」
「将吾、行こうぜ~!」
二人の友達グループが、それぞれ呼びに来た。真樹と岡原を二人きりにするために、知らないうちに離れていたらしい。
「……真樹、じゃあまた後で」
「あ、うん」
二人は一旦そこで別れ、友人グループと一緒に体育館へ向かった。
「――ねえねえ、真樹! 相変わらず、岡原といい感じだったね」
「ええっ!? そうかなぁ?」
美雪にはやし立てられ、真樹は首を捻る。
彼と交わした会話といえば、中学時代とあまり変わらないケンカのようなやり取りや、真樹の本のことや、あとはほとんど世間話くらいのものだったと思うのだけれど……。
(あと、あたしのリップを褒めてもらったり……とか)
そこ
「そうだよー。だってアンタ達、中学時代からあんな感じだったじゃん? でもさぁ、なんかあれが見てて微笑ましかったんだよね」
「…………」
(あたし達って、周りからはそう見えてたんだ……)
絶句した真樹は、今更ながら気づいた。
「で? もうアイツに告ったの? それとも告られた?」
「……まだどっちもナシ。でも、同窓会が終わった後にまた話すことになってるから」
その時に、もしかしたら何らかの進展があるかも。――真樹はそう続けた。
「へえ~、そっかぁ。っていうかさ、
美雪の言葉に、真樹以外の四人が一斉にうんうん、と頷く。
「えっ? どういうこと?」
真樹一人だけが、
「んーとね、思春期の男の子にはよくあることなんだな。好きな女の子についついちょっかい出したくなるっていうのはさ。――ま、お子ちゃまの真樹には分かんなかっただろうけどね―」
「お……っ、お子ちゃま!?」
真樹の声が跳ね上がった。
「だって、岡原が初恋だったんでしょ?」
「う……っ、うん、そうだけど……」
痛いところを衝かれ、真樹はたじろぐ。
「そして今でも、未練たらしく想い続けてるけど」
ということは、真樹は今も〝お子ちゃま〟のままということだろうか?
「そんなに
「あ……、そうなんだ」
美雪は真樹が知る限り、高校の頃から彼氏が何人もコロコロ変わっていた。もしかしたら、他にもいたかもしれない。
それくらい
「だからさ、岡原の本心に気づいてなかったのも、すごいアンタらしいなぁって思ったワケよ」
「はあ。……ってことは、ちょっと待って! 岡原のあたしに対する態度って、『好き』て気持ちの裏返しだったってこと!?」
「うん、さっきからそう言ってる。っていうかアンタ、今ごろ気づいたの?」
美雪が呆れてツッコんでくる。「
「……だってさぁ、あの頃のあたしはそんなこと知らなかったんだもん! なんで素直に態度で表してくれなかったんだろ?」
「そこがオトコ心の複雑なとこなんだよね。五年もかかっちゃったけどさ、今日岡原の正直な気持ち聞けるんだから」
「……だね」
又聞きだけれど、真樹は岡原の本心(らしきもの)を聞くことができた。
今日、この同窓会が終わったら、長く燻ぶっていた初恋にもようやく決着がつく。
やっと、前に進める。
「――ほら、早く行こっ!」
「うん!」
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