3件目 いじめっ子たち

 よし……、「このアカウントでは、皆様から寄せられた、スカッとする話を発信していきます。スカッとする話をお持ちの方は、メッセージでご連絡ください。#ザマァミロ」、と。


 うん、外から聞こえるサイレンの音がうるさくて、何度かコピペをミスったけど、これなら大丈夫だ。


 今日こそは、新鮮でフォロワーのみんなが、「いいね」をたくさんくれるような体験談が、来ますように。


 最近来た無難な体験談を発信してみたけど、やっぱり、当たり障りのない内容だと、「いいね」はそんなにもらえないんだよね……。



  しかも、角度が良かったらしくて、

  頭の半分くらいが

  凹んでくれたんです!



 ……いや、何を考えてるんだろう。

 いくらインパクトのある話でも、犯罪まがいの話を発信するわけにはいかないのに。


 でも、パワハラ上司に痛い目を見て欲しい人はいっぱいいるみたいだし、ちょっとだけ編集すれば……あ、また新しいメッセージだ。


 内容は……。


「はじめまして、アザミです」


 ……また、アザミさんか。

 でも、またIDが違うから、前々回とも前回とも違うアザミさんなんだろうな。


「学校の帰りにあった、スカッとする話でもいいですか?」


 うん、学校の帰りって言ってるから、確実に別人だね。ちょっとビックリしたけど、これなら大丈夫かな。


「はい、ぜひ聞かせてください」


「ありがとうございます! 実は、私いじめられてたんです」


 学校でのいじめ系か……。それだと、多少過激な体験談でも許してくれる人が多いから、「いいね」をたくさんもらえるかもしれない。


「私、地味で運動神経も悪くて、あんまり人付き合いが得意じゃないから、クラスの中心グループに目をつけられてて。それで、毎日授業中にからかわれたり、もちものを隠されたり、悪口を言われてたんです」


 スクールカースト、ってやつかな?

 私はそういうのに無縁だったからピンとこないけど、大変なんだろうな。


「それで、学校から帰るとき、主犯格のヤツら三人と駅のホームで鉢合わせちゃって。そいつら、私に気づいたら、ヒソヒソと悪口を言いはじめたんですよ」


「それは、災難でしたね」


「はい。いつもは何も言い返せなかったんですけど、今回はこのまま言われっぱなしじゃいけない、って思ったんです」


 これはあれかな、勇気を持って言い返してみたら、相手が驚いて何も言えなくなったってやつ。まあ、地味だけど人気のある系統の話ではあるから、次の話はこれで決まりかな……。




「だから、電車が来るタイミングで、全員線路に突き飛ばしてやったんです」



 ……ん?


「一回で三人とも突き飛ばすことができたんですよ。人間って、追い詰められるとすごい力が出るんですね」



「それで、線路に落ちたそいつらが、キョトンとしてるうちに電車が来て」



「当然、ブレーキが間に合うはずもなく、全員ミンチでした。それはもう、誰が誰か分からないくらいに、ぐちゃぐちゃに」



「でも、いつもつるんでたんですから、一つに混ざり合えてあいつらも本望だったはずです」



「あ、そう考えると、あんまりスカッとはしないかもしれませんね。すみません」



「でも、嫌なやつがいなくなった話なんで、許してもらえると嬉しいです」



 スマホの画面がすごい速さで、メッセージで埋まっていく。



「そうそう、そのときの写真があるんです」



 やめて、見たくない。


 そう思ったのに、髪、肉、内臓、骨、セーラー服、学ランがぐちゃぐちゃに混ざったものが、画面いっぱいに表示される。


「私の体験談を使うときは、ぜひ使ってくださいね!」


「分かりましたそうします」


 画像を手で隠しながらメッセージを返信したから、変換が上手くいかなかった。


「はい、ぜひそうしてください! なにか聞いておきたいこととか、ありませんか?」


「いえ何もありません」


「本当に大丈夫ですか? 多分、もうすぐ警察が来るんで、聞きたいことがあるなら今のうちですよ」


 ……え、警察?


「さすがに、防犯カメラにも写ってるし、目撃者もいたのですぐに帰ったらだめみたいなんです」


 じゃあ、この話は、今どこかでリアルタイムに起きてる話……なの?



「ああ、でも、最終的に罪には問われないと思いますよ」



「だって、悪いのはあいつらだったんですから!」



「すみません、もう時間みたいなんで、ここまでで。私の体験談を載せてくれるの、楽しみにしてますね!」



 

 そのメッセージを最後に、スマホの画面から動きはなくなった。

 そういえばさっき、サイレンの音が何度も聞こえてたけど……、まさかすぐ近くで起きた話じゃないよね……?

 えーと、そうだ、最寄り駅の運行状況を見てみよう。えーと……。



 人身事故発生のため、上下線共に運行を見合わせております。



 ……偶然、だよね?

 

 まさか、平然と人を線路に突き飛ばしたり、その様子を嬉しそうに語ったり、その写真を送りつけてくるような人が、すぐ近くにいるわけないよね……?

 とりあえず、いつもみたいにメッセージを削除して、放置するしかないんだろうけど……、警察がここにもきたりするのかな……?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る