第6話 白い粉

「美味しい?」テーブルの上に肘を付き、手を組んだ上に顎を乗せて、昌子は首を傾げて微笑んでいる。


「う、うん、凄く美味しい……」秀幸は恥ずかしさを誤魔化すようにカレーを大量に口の中に放り込んだ。「ゴホッ!!ゴホッ!」喉に詰まりそうになり、慌てて水を飲み込んだ。


「大丈夫!?」昌子は慌てて秀幸の背中をさする。甘い髪の香りがして、鼻の穴が大きく開く。


「あ、ありがとう……、大丈夫だから……」秀幸は昌子から目を背けた。彼女と会ったのは数年ぶりであった。あの頃は、自分はまだ小学生で、彼女は中学生だったと思う。夏休みを利用して、尼崎に遊びに来ていた。二人で大阪に映画を観に行ったり、ツインタワーを見学したりした。秀幸にとっては、今までで一番楽しい夏休みであった。


 ふと、秀幸の頭の中に一抹の考えが過る。


「ねえ、昌子ちゃん……、昌子ちゃんて、俺の親父の姪っ子なんだよね?」秀幸のスプーンが止まる。


「そうよ、おじ様は私のお父さんの弟よ」昌子は今さら何を聞いてくるのかという顔をした。


「それじゃあ、昌子ちゃんも……」


 ズドーン!!ズドーン!


 唐突に地響きがして家が揺れる。


「きゃあ!!」昌子が振動で倒れそうになった。それを秀幸は咄嗟に支える。その瞬間、二人の顔の距離が近くになり今にも唇が重なりそうな雰囲気であった。二人は慌てて顔を反らして顔を赤くした。


「か、怪獣かしら……!?」昌子は誤魔化すように、立ち上がると外に飛び出した。


「昌子ちゃん!!」秀幸もあとを追うように家を出る。


 ギャオー!!


 尼崎の町が燃えている。

 

 怪獣は口から火を吹き、建物を破壊してゆく。


「酷い!許せない!!」昌子は手のひらを開くと、その手にバトンが現れた。「私がお仕置きしてあげる!!」その途端、彼女の体は光に包まれて巨大化していく。


「あ、あれは、この前の……!」秀幸の目が見開く、そこには先日、尼崎城の危機を救った光の巨人が姿を表した。「や、やっぱり昌子ちゃんも……」秀幸はポケットの中から変身スティックを取り出す。


「おーい!豪!!」嵐山が秀幸の姿を見つけて近寄ってくる。


「あ、嵐山……」気がついて振り返る。


「でた!新しいミラクルヒーロー!!でも、めっちゃ胸がデカイ!腰もくびれて、お尻も色っぽい!ありゃ、……ミラクルレディだな!!」嵐山は、前のめりになって鼻血でも出しそうな勢いであった。


「お、おい!イヤらしい目で見るなよ!」変身した姿といえ、昌子をそんな目で見られる事が耐えられなかった。


「ところで、お前は変身しないのかよ?お前だってミラクル星人なんだろ!!」嵐山の言うことはもっともであった。


「俺だって変身しようとしたさ!……でも、このスティック反応しないんだ!!電池も交換したのに!!」秀幸が差し出したスティックには単3電池二本がセットされていた。


 前回、秀幸は変身しようとしたが、いくらスティックのボタンを押しても、彼がミラクル・セブンに変身する事はなかった。しかし、偶然に現れたミラクル・レディが怪獣を倒した事により、なんとか町は救われたのであった。後で、調べるとスティックの使用期限は10数年前に失効されている事が判って、昼間にコンビニで新しい電池を買ったのであった。


「お前……、これ、前の電池、液漏れしてただろ」スティックから電池を取り出した嵐山は呆れた顔をして、指差した。そこには白い粉が大量に付着していた。



 

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