帰ってきたミラクルワン

上条 樹

第1話 ミラクル・セブン

 アブールとの和平が続き、尼崎の街も平和な日々が続いている。もう、秀幸の父がミラクルワンになって戦う事もなくなった。


「おい、秀幸。ここに座りなさい」学校から帰ってきた秀幸に父が声をかけてきた。リビングのソファーに母と二人、神妙な顔をして座っている。


「なに?」秀幸は鞄を肩から下ろしてフローリングの上に置いた。


「お前に渡したいものがある……」父は秀幸に向かって木箱を丁寧に差し出した。


「これは?」目の前のローテーブルの上に置かれた箱を訝しげに見る。


「俺の親父……、お前のじいちゃんが使っていた『ミラクル・スティック』だ。俺達ミラクル星人は、大人になったら代々アイテムを引き継ぎ、巨人に変身出来るようになるんだ。お前も明日で18歳だ。もう、大人だろう」言うと木箱の蓋を開けた。そこには、スティック型の玩具のような物体が紫色の屈して材に守られるように納められている。


「お、俺が変身……」自然とスティックにてが伸びる。


「あっ、ちょっと待て!いいか、そのスティックのボタンを押すとお前は変身する。だが、それは俺達一族の秘密だ。決して地球人に正体を知られてはいけない。だから、安易に変身はしてはいけない。変身するのは、人の力ではどうしようもない時だけだ。解ったな?」父は真っ直ぐな目で秀幸を見ている。


「あ、ああ、解った……」秀幸はスティックを手に取るとそれを眺めながらゴクリとツバを飲み込んだ。


「お前は、新たな戦士。ミラクル・セブンと名乗るんだ!」


「セ、セブン……?まさか、他にも巨人がいるの?」秀幸の目が見開く。


「いや、なんとなく格好いいかと思って……」父は目をそらすと宙を泳がせた。


「それじゃあ、旅行行けるわね」隣にいた母が嬉しそうに声をあげる。


「そうだね、母さん」急に父の顔が緩む。


「旅行?」寝耳に水、何の事か理解出来ない。


「いやぁ、最近平和だから、母さんと二人でハワイに旅行に行こうって話になってな。今まで、アブールと地球の和平に反対する勢力が攻めてきたら心配だったんで、旅行とか出来なかったから、お前が変身出来るようになったから、任せようって話になったんだ」先ほどの神妙な顔が嘘のように笑っている。


「ハ、ハワイって……、俺は!?」秀幸は自分の顔を指差す。


「お前は学校があるだろ?それに尼崎の平和はお前に任せるから、これからはヨロシクな」父は秀幸の肩をポンと叩く。


「そ、そんなぁ!俺もハワイに行きたいよ!!」秀幸は立ち上がると抗議を体が全体で表した。


「無理を言うな。もし尼崎が危なくなったら誰が闘うんだ?」いやいや、それはアンタの仕事だろと、秀幸は思った。


「ちゃんとお土産は買ってくるからね」母はニコリと微笑んだ。


「もしかしたら、お土産で弟か妹が出来るかも知れないぞ」父は少しイヤらしい顔をして母の顔を覗き込んだ。


「やだー、お父さんたら」母が顔を真っ赤染めてして、父の肩を叩いた。


「駄目だこりゃ……」秀幸は脱力してソファーに崩れ落ちた。

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