第4話 勇者、見誤る
今後、身内は絶対に呼ばないっ!
と、部下の確約を得て、魔王城までやってきた。
そして、大広間。
何故か照明が落ち、真っ暗。
すると、突然音楽が流れ始めた。
チャ~ラ♪ チャ~ラ♪ チャ~ラ♪ チャッチャッチャン♪
次にスポットライトが部下を照らし、彼はパプリカを丸かじりする。
「ムシャ、わふぁひのひほくが、ゴホゴホッ」
「おい、食べ物を喉に通してからしゃべろ。喉に詰まって死ぬぞ」
「むしゃむしゃ、ごくん。え~、私の記憶が確かならば、勇者は料理が得意だったはず」
「たしかに得意だけどさ。お前、何をやってんの?」
「いや~、直接この番組を見たことないから、パプリカを食べるタイミングがわかんなかったよ」
「番組? よくわからんが、そういうことを尋ねたわけじゃない。全てに対して何をやってんだ、と聞いてんだ」
「あ、そゆこと。今回のトラップは料理対決にしたんだ。勝負に勝てば、魔王様の部屋に続く扉が開きま~す」
「また、くだらないトラップを……言っとくが、得意と言っても家庭料理レベルだぞ。プロの料理人相手だと、とてもじゃないが太刀打ちできないからな」
「そこは大丈夫だよ。では、対戦相手の発表で~す! 対戦者はお祭り大好き
「よ、よよよ、よろしくおねがいしますぅぅぅ~」
右端にスポットライトが当たり、光に浮かび上がった権蔵さんは体全身をプルプルさせて、魂が抜けていくような声を漏らしている。
「おいおいおい、大丈夫か? 今にもお迎えが来そうだけど」
「てやんでぇ、こちとら現役で85年やってきたんだ! まだまだ、若ぇ奴には負けやせんわっ」
「きゅ、急に元気になったな……まぁ、見た目よりも元気そうで安心したよ。それで部下、俺たちに何を作らせようってんだ?」
「料理対決のお題は、お菓子! 照明さん、広間に明かりをお願いしま~す」
部下の声に応え、真っ暗だった広間に光が戻る。
広間には所狭しと様々な食材と調理器具が並べられていた。
さらに、彼は言葉を続ける。
「続いては、今回の審査員の紹介で~す」
彼が手を差し伸べた場所には審査員の席が用意してあり、そこには三人の小さな子どもたちがいた。
「一人目は、村の女の子。ナナちゃんです」
「あまいおかしがだいすきです。よろしくおねがいします」
「二人目は、村の男の子。ノワ君です」
「まぁ、ひまだから、つきやってやるよ」
「三人目は、我らが主。魔王様です」
「うむ、よろしく頼むのじゃ」
「ちょっとまてぇぇぇぇ!!」
「あれ、どしたの~、勇者?」
「どうしたもこうしたも、魔王って。魔王って言った?」
「言ったよ。それが?」
「それが? じゃねぇよ。ここ居るんなら、扉を開く必要もっ」
「勇者、空気を読んで」
「読むも何もっ」
「空気、読んで……」
「うぐっ、わかった」
部下の言い知れぬ迫力に押し負けてしまった。
俺はちらりと審査員席の魔王を見る。
見た目は十歳くらいの女の子。
「まさか、魔王があんなチミッ子だったとは、まだ子どもじゃないか」
「チミッ子じゃと!? こう見えても貴様より遥かに年上じゃぞ! ワシは実に不愉快じゃ。勇者にマイナス10ポイント!」
「はぁ、マイナス!? 何じゃそらっ!? 部下、こんなのありか?」
「コンテストは審査員のご機嫌を窺うことも大切だからねぇ。というわけで、勇者は大きなハンデを背負ってのスタートです。では、調理を開始してください」
「ええ~、有無を言わせずとはまさにこのことだな……」
仕方なく俺は、トラップ解除のために食材コーナーへ向かう……魔王はすぐそこにいるが、深く考えないことにした。
食材を確認しながら、対戦相手の権蔵さんの動きを窺う。
権蔵さんは両手をプルプル動かし、ザラメ砂糖の袋を手にして微動だにしない。
(固まった? 大丈夫か? ま、何を作るつもりか知らないけど、あの様子じゃまともなお菓子は作れないだろうな。とはいえ、こちらも手を抜く気はないけど)
そう、心で呟きつつ、食材コーナーから牛乳・生クリーム・グラニュー糖・ゼラチン・ラズベリーを選び出す。
「大したものはできないけど、こんなもんだろ」
これらの材料を使い、サクッとお菓子を完成させて、審査員席に持っていった。
「どうぞ、パンナコッタのラズベリーソース掛けです、と」
お菓子を出された三人の子ども……じゃなかった。二人の子どもと魔王は感嘆の声を漏らした。
「わぁ、おいしそう」
「なんだこれ、しろいプリン?」
「おお、白のパンナコッタに赤色のラズベリーが映えておるのぅ。それでは実食といこうかの」
魔王は左手にスプーンを持ち、パンナコッタを口に運ぶ。
二人の子どももそれに倣い、スプーンを手に取った。
「う~ん、おいしい。じょうひんなおかし」
「もぐもぐ、なんかくちのなかがムニュニュってするな」
「パンナコッタは美味いが、ラズベリーの酸味がちょっと苦手じゃ」
三人が味わい終えたところで部下が点数を尋ねる。
「それでは、皆さん! 評価をどうぞ!」
――ナナちゃん・6点
――ノワ君・9点
――魔王様・7点
「合計は22点! ここから先程のマイナスポイントの10点が引かれるから、12点だね」
「え、10点満点で10ポイント引かれてたの? それとナナちゃんとノワ君の反応に対する点数おかしくない?」
「勇者、審査員の審査にケチ付けちゃダメだぞ~。さらに10ポイント引かれるぞ~」
「横暴すぎるだろっ。ったく、なんてコンテストだ」
言いたいことは山程あるが、これ以上点数を引かれたら一桁になってしまう。
俺は口を噤み、相手のお菓子に注目することにした。
権蔵さんは両手にザラメ砂糖を持ったまま、全然動いていない。
(まさか、砂糖をそのまま出す気じゃないだろうな。ふふ、こりゃ、12点でも勝てそうだ)
と、思っていたのだが、突然権蔵さんが激しく動き出す。
「てやんでぇ、行くぜ!」
権蔵さんは指をパチンと鳴らす。
すると、金ダライのような桶が運び込まれた。中央は山のように盛り上がり、てっぺんには穴が空いている。
そのたらいの横にあるスイッチを権蔵さんが押すとウォンウォンと動き始めた。
次に穴の空いた場所にザラメを入れる。
そして、棒切れを出し、たらいの中でグルグルと回す。
その動作を見て、俺は呟く。
「まさか、綿菓子?」
「その通りだぜ、べらんめぇ! ほーら、子どもたち。ふわふわの綿菓子だよ~」
「「「おお~っ」」」
棒にふわふわと重なっていく綿菓子の姿に、子どもたちが歓声を上げた。って、魔王? どうなんだ、その反応は?
権蔵さんはさらに、綿菓子製造機へ何かを投じた。
「こいつは子どもに与えても大丈夫な、天然着色料だっ。こいつで出来上がるのはレインボー綿菓子!」
「「「おお~っ!!」」」
さらに大きな歓声が上がる。魔王は完全に子どもの反応をしている……。
「よし、こいつで完成でぇ。ほら、嬢ちゃんら」
「わ~い、わたがし! ふわふわできれい」
「あめぇ、うめぇ。ほら、ベロで押さえるとジュウってとけてくぜ」
「七色の綿菓子など初めてじゃ。綺麗じゃのぅ。わくわくするのぅ」
三人の子ども、もとい二人の子どもと魔王に大うけ。
その様子を見た部下が、勝利宣言に近い声を上げた。
「わお、権蔵さん。審査員の心をわしづかみ。これは点数に期待が持てるね! では、点数をどうぞ!」
10点・10点・10点!
「なんと、満点の30点だぁ! 権蔵さんの圧倒的勝利~。残念でしたね、勇者」
「残念もクソもあるか。なんだこれ?」
「敗因はあれかな? 審査員の嗜好を見誤ったところだね? それに加えて、最初のマイナス10ポイントが響いたのかも?」
「それがなくても負けてるよ。もういいから、さっさと靄で包んでくれ!」
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