第6話『誘い』


「なんかオシャレな店じゃん」


日野がせわしなく店内を見回している。


「やめろよみっともない。田舎者だと思われるぞ」


私が止めたが、日野は制止を振り切ってなお店内を観察している。


「はっはっは!日野は相変わらずだなぁ。神谷くんも大変だね」


中野はビールを飲みながら笑った。


「そうなんですよ。まぁ一応仕事はきちんとしてくれるので職場では世話焼かなくて済みますけど」


私もビールを口に含んだ。


「やるときゃーやる男なんだよ俺は!」


日野はビールと思いきや大量の枝豆を口に放り込んだ。


やっぱりこいつは少しズレている。まぁそのズレが面白いのだけれど…


「そんで話は変わるけどよ、なんで神谷くんは風俗にデビューしたわけ?奥さんに飽きちゃったとか?」


唐突に中野が尋ねてきた。


「うーん、特にこれといって理由はないんですけど。俺もいい歳だしそろそろって感じたんですよ」


俺はサラジャの話は伏せた。どうせ信じてもらえない。


するとそこへ


「そうなんすよ!こいつほんと真面目で」


日野が割って入ってきた。


「そうなんだ。それにしても今時珍しいね。風俗に行ったことがなかったなんて」


「ですよね。友達がハマってた時期とかもあったんですけどね。でも何か乗り気になれなくて。だから風俗だけじゃなく、競馬も今日初めてやりました」


私がそう言い終わるとしばらく沈黙が続いた。


(え?なんかダメなこと言った?)


私が自分の発言を気にしていたら中野が沈黙を破った。


「初対面でこんなこと言うのもなんだけど…よく今まで生きてこれたな」


「ププッ」


日野が吹き出した。


「いや!どういうこと!?生きてる価値がないって?やかましいわ!」


私は酒も入っていたので普段よりも陽気なツッコミを入れた。


「いやー、ごめんごめん。神谷くんみたいな感じの人久しぶりだったから」


中野も大笑いしていた。


「それしても可哀想だよな。初めてのソープで挿入無しで終わっちまうなんて。その激熱フェラをしてくれた女の子は何て名前の子?」


「たしか、まどかって子だったよな?」


日野に聞くと日野も頷いた。


「え?まどか?」


中野が聞き返してきた。


「はい。20代半ばぐらいの」


「それもしかして俺の紹介で入った子かも?いやね、今はキャッチしてるけど前はスカウトしてたんだよ。場所にもよるけど、そん時のスカウトは紹介手数料が良い店にわりと自由に女の子を紹介するって感じだったんだ。それでそん時はトライブさんが手数料高かったから紹介したんだよね」


すると中野はスマホを取り出した。


「あ、やっぱあったわ。まどかの番号。呼んでみる?」


「えっ!?ちょ、呼ぶんですか?そりゃあたしかに可愛いかったけど…ちょっと気まずいですよ」


「まぁ一応声掛けるだけ掛けてみるよ」


中野は発信ボタンをタップし、まどかに電話を掛けた。


「あ、もしもし?まどちゃん?中野だけど」


どうやらまどかは中野からの電話に出たようだ。


「ところで1つ聞きたいことがあんだけどさ、今日フェラだけで帰らせたお客さんいた?そうそう(笑)いやね、今そいつらと飯食ってんだけど来ない?」


まどかは何て言っているのだろう


馬鹿にされて笑われているのかな?

会話が気になってしかたなかった。


「うんうん、おっけー!今はねー、駅前の天ぷら屋にいるよ。分かる?あー、そうそう!じゃあ待ってるね〰️」


「来るって!?」


俺よりも先に日野が問いかけた。


「うん、来るって。神谷くんに会いたがってたよ。つかお前は関係ねぇだろっ」


中野は日野の額にデコピンをした。


「いま店上がったとこだからすぐ来るって」


だんだん緊張してきて、中野の話が耳に入ってこない。


そして15分ぐらいしてから店員の

「お連れ様でぇす!いらっしゃいませーっ!」


と声が聞こえ、ハッとした。


声がする方を恐る恐る見ていたら、そこにまどかが現れた。


店で見た格好とは違ったが、ショートパンツにニーハイブーツと相変わらずセクシーだった。しかもかなりの美脚だ。


「こんばんわっ。中野さん久しぶりだね〰️」


「おー!まどちゃん久しぶり!」


そう言うと中野とまどかはハイタッチをした。


「旬くんも数時間ぶりだねっ」


「どーも」


「ちょー冷たいじゃん」


するとまどかは私の横に割って入った。日野は眼中にないという感じだった。


日野は中野に口パクで(ひどくない?)と言っていた。


その後もまどかは終始私にベタベタとボディータッチを繰り返し、最初は慣れないボディータッチを不快に感じていたが、店を出る頃には勃起していた。


まどかは時々さりげなく私の股関に触れたので勃起していたことに気付いていただろう。


「ねぇ、連絡先教えて?」


店を出てからまどかに言われた。


「別にいいけど」


そう言ってスマホを取り出すと画面に橋本杏菜からのメッセージの通知が広がっていた。


てっきり返信するのを忘れていたが、今はまどかと連絡先を交換することが優先なので、通知を消してQRコードで連絡先を交換した。


「じゃあまた連絡するねっ」


そう言い残すとまどかは御馳走してくれた中野にお礼を言って、帰っていった。


まどかを見送り、姿が見えなくなってから中野が


「どう?まどかと和解できた?」


と聞いてきた。


「和解というか…まぁ、そうですね。話してみると普通に良い子だと思いました」


中野が良かったと言わんばかりに微笑んだ。


この後どうする?と中野が持ち掛けたが、俺も日野も明日は仕事だと伝えその場で中野と別れた。


中野は子供のように手を大きく振って見送ってくれた。


日野と駅のホームへ行くと、ホームはガラガラで何となく時計を見ると既に23時を回っていた。


「あの天ぷら屋に結構長居してたなー」


私が日野に言うと


返事がなかった。


日野の方に目をやると、日野はベンチでウトウトしていた。


いつの間に座ってたんだ。私は呆れながらも日野の隣へ座り、電車を待った。


時刻表を確認すると次の電車の到着まで20分ほどあった。


日野も寝ているし今は一人の時間だ。私はスマホを取り出し橋本杏菜にメッセージの返信を送ることにした。


(映画いいですね!何か観たい映画あります?私は割と何でも映画好きだから杏菜さんにチョイスは任せるよ!それとせっかくだから映画の後食事でもどうですか?)


少し酔っていたせいもあって、普段なら送らないような内容を送った。


酔っていなければ絶対に『杏菜さん』ではなく、『橋本さん』と送っていた。


それと今日まどかに出会ったこともあり、気が舞い上がって横着になっていたのかもしれない。


たが送った後に後悔してもしかたない。私は橋本杏菜からの返信をただ待つことにした。


電車が来るまでまだ時間はある。日野はもはやウトウトではなく爆睡だ。


私はスマホを取り出しネットニュースに目を通した 。


今日も特に重大なニュースは起こっていないようだ。平和で良かった。


「ポポンッ♪」


メッセージアプリの通知音が鳴った。


てっきり橋本杏菜からだと俺は画面を見たら、そこにはまどかからのメッセージが来ていた。


(今日はありがとうね!さっそくだけど次はいつ会えそう?)


仕事柄なのか男慣れしている。積極的な女だと少し感心した。


まだ先の予定がよく分からなかったので


(こちらこそありがとう!予定が分かり次第連絡する)とにごして返信しておいた。


すると、ようやく電車が来たので日野を小突いて起こし、私達は帰路についた。


0時頃。


家に帰るとすでに明かりは消えていた。別に私が帰る前に寝た美加を責めるつもりはない。むしろホッとしたぐらいだ。


ギャンブル、風俗、酒。しかも結婚した後に出会った女性2人と連絡も取っている。


女性と連絡を取っているだけと思うかもしれないが、もちろん私は2人共と肉体関係を持つつもりだ。でなければ連絡を取る必要がない。


酔っている今は美加の顔を見るとボロが出るかもしれない。だから先に美加が寝てくれていてホッとした。


美加を起こさぬようゆっくりと鍵を開け、家に入った 。


忍者のように風呂場に向かうとシャワーを浴び、さっさと寝ようと寝室へと向かった。


すると「ポポンッ♪」とスマホが鳴ったので画面に目をやった。


橋本杏菜とまどかの2人からメッセージの通知が来ていた。


さすがに眠かった私は返信をする気力もなく、スマホを伏せて眠りについた。





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