29
アゲハ号は帝国新領の領空内をサンゴ礁や岩礁の陰に隠れつつ海面ギリギリで低速飛行し、その日の正午には領空を無事に抜けることに成功、中層貿易風に乗るため高度3000メートルまで上昇した。
しかし、ここでもアゲハは乗員全員に警戒を続けるように指示、各砲座や銃座にも乗員を張り付けた。
「仕掛けて、来よるかのぉ?」
三発のエンジンに繋がる計器類を睨みながらバシリス。
「ま、侠門とか幣門とか言うヤクザ連中はそう言う人種だからね」
同じように気嚢やボンベの圧を確認しつつエウジミール。
「私だったら、せっかくの儲けを目の前で掠め取った奴は許さない。そして、意地汚い三下空賊を雇って仕掛けるなら、面倒を避けるため領空を出たあたりでやるわ」
と、昏く微笑みつつあっけらかんと青い空をながめアゲハが答える。
電探の画面を見つめていたチャタリが長い耳が直立にそばだたせた。
「電探に感アリ!方位フターヒトーマル、距離1万!高度2600から180ノットで本船に急速接近する船影アリ、数は6!形状、大きさ、エコーの状況から小銭船です!」
アゲハは。
「やっぱりお出でなすったわね」
とつぶやいた後、伝声管に向かって各銃座を呼び出し。
「電探が急速接近する複数の船影を確認した!各員、対空見張りを厳とセヨ!」
その間にも電探が捕らえた影は猛烈な速度で迫って来る。
「船影、変わらず急速接近、現在の距離8500!」
ユロイスは硬い声で背後のアゲハに。
「速度、数、船種。空賊の可能性大ですね」
「どこのド腐れ空賊を抱き込んだのかしら?」
後部銃座に陣取るリシバの緊張した声が伝声管から流れる。
「こちら後部銃座!方位フターヒトーマル、距離8000!高度3000に6隻の小銭船!急速に突っ込んでくる!」
続いてレイが。
「おそらく後方の船から無線で呼びかけです。下品なだみ声ですけど、船長と話したいって。どうします?」
「スピーカーに繋いで」
そして無線機に接続されたスピーカーから、レイが言うような品性に駆ける聞くに堪えない中年男の野太い声が流れて来た。
『俺様は『サソリ空賊団』団長のボール・ギャグだ。アゲハ空賊団に次ぐ!海の藻屑に成りたく無きゃ直ちに停船し、俺たちの指示に従え、雇い主からは皆殺しにしろって言われてるが、アゲハ団長以下、女共は俺たちの肉穴奴隷としてなら生かしてやらねぇこともねぇ、たった1隻で6隻相手に敵うと思うなよ。今すぐ止まれぇ!』
ギャク団長の言葉に本当に気分が悪くなったのか、チャタリは耳をぺたりと降ろし真っ青な顔で吐き気を抑えるために両手で口を押える。
「サソリ空賊団か、『殺す犯す沈める』の畜生働きを平気でやってのける凶賊ですね。まともな奴を雇えなかったんでしょうか?」
あきれ果てたとばかりのユロイスの疑問に。
「頭数だけは多い奴らだし、金の為なら何でもやるド三流だから声をかけやすかったんでしょ?」
と、そう答えつつアゲハはレイに無線のマイクを要求すると、手に取るなり淡々とした口調で。
「こちらアゲハ空賊団団長アマツ・アゲハ。サソリかゴキブリかゲジゲジかしらないけど、何が『生かしてやらねぇこともねぇ』ですって?舐めくさった事ほざいてんじゃないわよこの無脊椎の脳無し野郎。ヤクザごときに雇われる様なド腐れ三下空賊風情が、アタシらアゲハ空賊団に束になったら勝てると思っていること自体が脳髄が無い証拠だわ。海の藻屑に成ってお魚さん達の餌に成るのはアンタ達の方よ。無脊椎動物には素晴らしく相応しい死にざまだわ。以上!交信オワリ!」
そしてマイクをレイに突き返すと。
「合戦準備!方位フターヒトーマル、距離8000、高度3500から本船を追撃するサソリ空賊団の6隻に対し、迎撃を開始する」
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