第18話 世界格闘技選手権ツアー
シルコル島は、観光の島でも有名らしい。古い遺跡や洞窟などの遺構が数多くあり、観光スポットとして島に潤いをあたえているのだろう。また、さくらんぼの生産では世界一らしい。
スエルピの街はそんなに大きくなく、リリカランの半分に満たない大きさか。どちらかというと田舎で、ゆったりとした雰囲気だ。観光都市だけに、宿屋やホテルが軒を連ねている。
オレたち以外の乗客は、みな観光客みたいだ。もっとも、ガミカも半分は観光客みたいなもんだが。
きょうはこの街の宿で一泊し、あすの早朝からイフロア遺跡に向けて出発する。ここから北東にある古い神殿跡らしい。
夕食まで自由行動になった。いまはだいたいお昼くらいだ。ガミカはオレの見張りなどはそっちのけで、街の図書館に向かった。地域の動物などの生態学の本でも読むのだろう。
このミッションがガミカの都合だけで決められていると思うと、なんだか腹立たしく思ってきた。無論、ほかのメンバーたちにとっては、それが正規のミッションではあるのだが。
女剣士ジーベラはガミカに同行した。オレには荷物持ちゴジップが同行してくれることになった。荷物持ちといっても、彼はそれなりの武術を習得している。契約上でも傭兵であり護衛なのだ。
酒場に行って飲もうと思った。芸人スポンを誘ったが、宿屋にこもるという。彼とは契約していないだけに、その行動は自由だ。それにしてもスポンは、どこか得体の知れない不気味さがある。
昼間の酒場だけに、客はまばらだった。ビールを注文した。ゴジップは任務中だからと断わったが、無理言って酒の席につき合ってもらうことにした。
彼からいろんな話を聞いた。この世界には、“世界格闘技選手権ツアー”というものがあるらしい。
世界の
ツアーと呼ばれるように、世界中で試合を行なうらしい。1年に24の国と地域を転戦する。興行というやつだ。
つまり月に2回は、どこかの国で大会が開かれているということだ。チケットはもちろんソールドアウト。世界的にすさまじい人気らしい。
ここシルコル島では、北のビイービの街が開催場所らしい。オレたちにとって、ビイービはシルコル島行脚の最終地点だ。ゴジップやジーベラとの契約が切れる場所でもある。ちょうどオレたちがビイービに到着する日が、大会の開催日らしい。
毎年のこの時期は、近隣の地域から大勢のひとが押し寄せるという。宿屋も高級ホテルも埋まり、大会会場のまわりにはテント村もできるそうだ。
ザンゲツブルグやリリカランからも、大勢の見物客がやってくるらしい。
たぶんガミカは、“ビイービ大会”も予定に入れているのだとすぐにわかった。まあ、どうせ本人に問いただしても、大会後の大勢の観光客にまぎれて、秘密裏にザンゲツブルグに潜入しやすい……などと弁明するのだろうが。
じつはそのビイービ大会に、ゴジップは去年出場したことがあるらしい。予選敗退ではあったようだが。
そのときの話を、ゴジップは止めどなく語る。酒が入るとおしゃべりになるタイプだ。オレの知らない世界のことなので、興味津々だ。そんな大会があるのなら、観てみたいと思ったし、出てみたいとも思った。
去年のチャンピオンは、高速の動きをする者で、圧倒的に強かったらしい。彗星のごとく現れた新人だった。
大会に出場する半分くらいの選手は、ツアー大会に同行参加する。いわゆる“プロ選手”だ。そのなかの3分の1が決勝トーナメントに勝ち残るという。
なかでも4人の常連選手は四天王と呼ばれ、トーナメント常連であり群を抜いて強い。ここ数年、毎回のチャンピオンは四天王のだれかだったが、その新人が定石をやぶったのだ。
チャンピオンにもなれば賞金も桁違いだ。向こう6大会のシード権も得られる。にもかかわらず、その新人選手は二度と大会に姿を現さなかったらしい。
賞金も賞金だけに、出場選手は命がけだ。毎回死者が数人は出る。ゴジップもそれなりの
あっという間に時間は流れ、夕食の集合場所の食堂に向かった。うまくもまずくもない料理だった。
宿屋では5人一部屋のタコ部屋だ。さすがに高級ホテルとはいかない。リリカランの夜が恋しい。
「あいつは気ままなやつだな」
ガミカはそこにいないスポンのことを言った。
「どこかでこづかい稼ぎでもしているのだろう」とオレは言った。
あすはイフロア遺跡に向けて出発。途中一泊をはさみ、あさっての夕方に遺跡に到着。
遺跡は観光地化しており、宿屋もあるのでそこで一泊。それからドゥーモの村をめざす。
そうガミカはみなに説明したあと、消灯した。
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