第33話「カワイイあだ名」
『今年も残すところ5分ほどとなってまいりました~!』
リビングで付けたテレビから女性アナウンサーの声が聞こえてきた。
食事に夢中になっているうちに、いつの間にか今年も残りわずかとなっていたらしい。
楽しい時間というのは過ぎるのが早いものだ。
「あれ、いつの間にこんな時間に」
ずっと手を止めずに食べ続けていた夏海が驚いた表情をしている。
いや、お前の胃袋のほうが驚きだと思うけど。一体どんだけ食べたんだ。
大量にあったはずの料理はもうあと少しだけしか残っていなかった。
その大部分を食べたのは夏海だ。
「夏海は本当によく食ったなぁ」
「まあねっ!」
夏海がピースサインをして見せた。
「やっぱり食いしんぼ……うっ……!」
「何か言った?」
「いや、何も」
危ない危ない。
また夏海を食いしん坊キャラ扱いしようとしたら、思いきり口を手で塞がれた。
次また食いしん坊キャラ扱いしたら、どうなるんだろう。
変な好奇心が湧いてくる。
まあ、今回はもう止めとくけど。
「翔くん」
突然アリナが俺の肩を軽くツンツンとつついた。
「どうした?」
「あと1分だよ」
テレビに表示されている時間を確認すると『23時59分』と表示されていた。
俺が夏海に息の根を止められそうになっている間に今年が終わりそうになってるじゃん! マジで危ない。
アリナに教えてもらっていなかったら何事もなかったかのように年を越していたかもしれない。
「みんなあと1分だ!」
俺がみんなに伝えると、みんな一斉に立ち上がる。
なになに、なんかの儀式でも始まる?
「みんなもちろん、やるよね?」
汐里さんはそう言った。
そこで俺は察した。
だから、みんな立ち上がったのか。
まあ、年越しのタイミングでやらないわけにはいかないよね。
そんな謎の使命感を感じた俺も立ち上がった。
そんなことを考えているうちにも時間は進んでいて、テレビからは年越しのカウントダウンが聞こえてくる。
『5……4……3……2……1……!』
テレビ画面に表示される数字が『0』になる瞬間に俺たちは全員ジャンプした。
やっぱり、これをしないと年越しは出来ないよね。
「「「「「明けましておめでとう!!!」」」」」
全員が飛びながらそう叫んでいた。
大人から見たら奇行かもしれない。
まあ、俺の両親は毎年やってるけど。
「やっぱり年越しの瞬間にジャンプはするよね」
「これをやらないと年越しは出来ないですよ汐里先輩!」
俺たちの中でも特に高くジャンプをしていた汐里さんと夏海の2人がはしゃいでいる。さすがはダンス部といった感じのジャンプだった。
「よし、それじゃ残り食べるね」
「おいまだ食うのかよ!」
夏海の胃袋は多分無限なんだ。
あんなに食べたのにまた食べ始めてる。
まさか、夏海の胃袋は年を越すとリセットされるのか!?
そんな馬鹿な思考をしながら夏海の食事を眺めた。
*****
年を越した後も俺たちはしばらく談笑し、時間が1時を過ぎたあたりで汐里さんが帰ることになったので俺とアリナで家まで送ることになった。
さすがに暗い夜道の中、女の子を1人で帰らせるわけにもいかないしね。かと言って俺と汐里さんの2人だけで行くとまた変な誤解が生まれそうだし。
ということで、俺とアリナで送ることになった。
「今日は本当にありがとう。楽しかったよ」
汐里さんは満面の笑みでそう言った。
「俺たちも楽しかったです」
「はい、私も楽しかったです! 最初は夏海さんのせいで少し2人を疑ってしまいそうになっちゃいましたけど、今はもう誤解してないのでまたいつでも来てくださいね!」
あー、アリナはやっぱり夏海のせいで誤解していたんだな。
あの食いしん坊は叱っておかなくては。
「ふふっ、本当に可愛い彼女を持ったね、翔くん」
「ああー! 翔くんのことを私と同じ呼び方してる!」
汐里さんが俺のことを『翔くん』と呼んだことに、アリナが異常に反応している。
この呼び方は私だけのもの! とでも言いたげだ。うん、かわいい。
「たしかに彼女さんと同じ呼び方はダメか」
「ダメじゃないですけど、心がムズムズします」
「それじゃあ、変えようかな。そうだなぁ……」
汐里さんは俺の呼び方を考えているようで「うーん」と唸りながら頭を悩ませている。そこまで考えるようなことじゃないんだけど。
「よし、決めた」
どうやら俺の呼び方を決めたらしい。
さて、何になるかな。
『雪村くん』になるのか、『翔』と呼び捨てになるのか。
さあ、どっちだ。
「しーちゃんで!」
「なんで!?」
どういうわけか俺のことは『しーちゃん』と呼ぶことにしたらしい。
いや、なんで。
めっちゃ女の子っぽくない? そのあだ名。
「なんか可愛いし、良くない?」
「俺、男ですよ?」
「いいじゃんいいじゃん♪」
なんか納得いかないけど、汐里さんは満足そうだ。
さすがにアリナは何か異議を唱えてくれるだろうと、アリナのほうを向くと、なぜか目を輝かせながら汐里さんを見ている。
「え、アリナ……?」
「そのあだ名、凄く良いです!」
異議を唱えるどころかめっちゃ嬉しそうにしてるんだけど。
アリナがこんな様子じゃ俺が何を言っても無駄か。
俺は諦めて『しーちゃん』というあだ名を受け入れることにした。
「まあ、アリナがいいならそのあだ名を受け入れるよ」
「やった。それじゃ、よろしくね、しーちゃん」
「はいはい、それじゃさっさと帰りますよ」
このままだとずっと、からかわれる未来しか見えなかったので、すぐに汐里さんを家まで送った。
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