第31話「12月31日、コンビニで」

 ――あっという間に時は過ぎ、12月31日、大晦日。


「なんだか色々用意しすぎちゃいましたね」


「まあ、いいんじゃないか?」


「それもそうですね」


 机の上に並ぶ数多くの料理を眺めながら俺とアリナは話していた。

 大晦日だし年越しそばを準備しようと思って買い物に行ったのだが、他の料理にも目が行ってしまい、結局買いすぎてしまって今に至るわけだ。


 年越しそばの他に鍋料理と寿司まで用意してしまっている。

 今からフードファイターでも来るんか?


 さすがに多い気がするけど、まあ何とかなるだろう。根拠はない。


 まあヤバくなったら全部カズの口の中に突っ込んどきます。


「だいぶ豪勢になったな」


「夏海さんと和也さん、ビックリするかもしれないですね」


「たしかに。それでも、きっと喜んでくれるよ」


「そうだと嬉しいです」


 こうして色んな料理が並ぶ食卓の前で話しながら、2人を待った。




 *****




「来たぞ~」


「私も来たよ~」


 カズと夏海の2人はすぐに来た。


「「量すっご!?」」


 食卓に並ぶ料理を見て、予想以上の多さに圧倒されてひっくり返りそうになってた。夏海なんて「どっひゃー」とか言いながらオーバーなリアクションしてた。


「おいおい、この量を2人で準備したのか?」


「まあな。張り切り過ぎた」


「まさか俺たち以外にも来る予定が?」


「ないぞ?」


 あまりの量にカズは他にも誰か来るんじゃないかと疑っていた。が、もちろんこの4人で食べきる予定だよ?


「まだ早いけどもう食べない?」


 夏海は目を輝かせながら料理を眺めていた。


「お前が食いたいだけだろ食いしん坊」


「あー! 女の子に食いしん坊とか言うなー! いくら幼馴染でも許さないぞ!」


「あははっ、ごめんごめん。それじゃ、早速食べるか」


「やった!」


 少し早い気もするけど、俺たちは食べ始めることにした。

 テレビも付けて、と。

 完璧である。


 テレビではどのチャンネルでも大晦日ならではの番組が放送されていた。

 こういうのがいいんだよ。


「んっま!」


「この夫婦で店出せるよ、マジで!」


 カズと夏海は料理を口に運ぶたびに歓喜の声を上げていた。

 俺とアリナで店を出せるとまで言っている。

 なんか夫婦扱いしてるけど。


 チラッと隣のアリナを見ると、顔を赤らめながら「夫婦じゃないです……」と呟いていて、俺の顔まで赤くなってしまった。


 とりあえず2人が喜んでくれて良かった。

 さあ、美味しいのなら全部食うんだ。


「なぁ、翔」


「なんだ」


「飲み物ある?」


「「あっ……!」」


 この瞬間、俺とアリナは同時に飲み物を何も買っていないことに気が付き、顔を見合わせた。

 一応、水道水を出すことは出来るけど、せっかく来てくれた友達に水道水だすのも申し訳ないよな。


 よし、面倒だけど買いに行くか。


「すまん。完全に忘れてた。今から全力ダッシュで買ってくるわ」


「別に水道水でもいいぞ」


「いや、そういうわけにはいかない。というか、俺がジュース飲みてぇ」


「一緒に行こうか?」


「いや、すぐ近くのコンビニ行くだけだから1人で良いよ」


「そっか。ありがとな」


「おう。それじゃ、行ってくる」


「いってらー」


 カズは少し申し訳なさそうにしていた。

 俺が準備し忘れていただけだから、悪いのは俺なんだけどな。


 そして、アリナは寂しそうな表情をしていたけど、本当に飲み物だけ買って戻るつもりなので俺は1人で向かった。

 アリナには友達との時間も大切にしてほしいからね。


 あ、夏海は食べることに夢中で俺が外に行くことにすら気が付いてませんでした。

 やっぱりあいつ食いしん坊だよ。




 *****




 軽く走りながら近くのコンビニへと向かっていた。

 すぐ近くだからと、何も羽織らずに外に出たことを後悔した。

 マジで寒すぎる。


 雪こそ降っていないけど、肌を針で刺されるような寒さが襲いかかってくる。

 厚着するべきだったな。


 俺が凍えて倒れてしまう前にさっさとコンビニでジュースを買って帰るんだ!


 ――走り始めてから2、3分ほどでコンビニに辿り着いた。


「ふぅ、着いた。ジュース♪ ジュース♪」


 コンビニに辿り着いた安堵により鼻歌交じりで店内に入り、大き目のジュースを3本ほど買った。もちろん全部違うジュースだ。

 ジュースを買い終えた俺は再び地獄の外へ出た。


(マジで凍るって)


 コンビニの袋を片手に走り出そうとしたのだが、横から視線を感じた。

 視線を感じた方を向くと、そこには紺色のコートを羽織った、腰まで伸びた綺麗なレッドブラウンの髪の女性が俺のことを見ていた。


「君、寒そうな恰好してるね」


 その女性はそう声を掛けてきた。

 女性にしては低めで落ち着いた声だ。なんともカッコいい女性だ。


「今、友達と集まってたんですけど、飲み物を買い忘れちゃってて。近くなんで良いかなと思ってこの恰好で来たんですけど、完全に後悔してます、あはは……」


 初めて話すはずなのに何の違和感もなくその女性と会話を始めてしまった。

 なんか話しやすい気がする。

 俺の周りには明るい人が多いからこういうタイプの人は珍しいはずなんだけど。


「友達と集まってるんだ」


「大晦日だから一緒に年越しを迎えようってことになって」


「いいなぁ」


 その女性は羨ましそうに俺を見つめた。


「あの、あなたは誰かと集まったりしてないんですか?」


「うん。誰にも呼ばれなかったし、両親も今日は急用で出かけてて1人ぼっちの大晦日なの」


 とても寂しそうな目でチラチラと俺のことを見てくる。

 絶対誘われ待ちでしょ。

 はぁ、今日初めて喋った相手を誘っていいのか?


 そんなことで頭を悩ませたが、多分寒さのせいで俺もおかしくなっていたんだと思う。


「俺たちのとこ、来ます?」


 普段の俺なら絶対しない行動だった。

 今初めて話した女性を家に誘うなんて。

 まあ、今日はアリナだけじゃなくてカズと夏海もいるし、大丈夫か。


「いいの?」


「俺の友だちがいても良ければですけど」


「全然良いよ。ありがとう。それじゃ、お言葉に甘えさせてもらおうかな」


 こうして俺は何故か見ず知らずの女性と一緒に家へと向かい始めた。


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