第10話「ハグとキス」
家に帰り着いた俺とアリナは夕飯を済ませ、入浴も終え、歯を磨いた。
寝る準備は完璧だ。
だが、俺とアリナにはまだ、やり残していることがある。
「アリナ、それじゃあ着ようか」
「うん」
俺とアリナは今日、ショッピングモールで購入してきたもこもこした触り心地の良いパジャマを袋から取り出し、それぞれ着替える。
アリナが薄いピンク色で、俺が水色の色違いのペアルックのパジャマである。
「じゃーーん!」
アリナが着替えを終え、勢いよく腕を広げる。
ちょっとまって。
これ、買ったときは気づかなかったけど、女性用の方は結構露出度高くない?
アリナの白い肌の太ももや胸の谷間も少し見えている。
でも、似合っていて可愛いのは間違いない。
「似合ってるね」
「ありがとう! 翔くんも似合ってるよ、かっこいい」
「アリナも可愛いよ」
どうしよう……。
俺たちの間に『思ったことは必ず口に出して伝える』というルールが設けられてしまったせいで必然的に互いを褒め合う形になってしまう。
これがこれから先、毎日続くことになるのだ。
どんどんエスカレートしていって、最終的に歯止めが利かなくなってしまいそうだ。俺は、アリナの事を溺愛しているからな。
「じゃあ、もう寝る?」
「そうですね。もう時間も遅いですし、寝ますか」
俺は消灯し、アリナと一緒に布団に潜り込んだ。
始めは同じベッドでも多少、距離が離れて眠りについていたのだが、今は互いに密着しながら眠りにつくようになっている。
「あの……翔くん……」
隣から囁くような声でアリナが俺を呼ぶ。
「どうした?」
「今、考えていることを伝えてもいいですか?」
「それが俺たちのルールだからな。それでアリナは今、何を考えているんだ?」
「えっと……」
消灯しているので正確にはわからないが、アリナがなにやらもじもじしているようだ。
少しの沈黙の後、アリナは俺の耳元で囁く。
「ハグ、してもいいですか?」
「え……?」
アリナの一言に俺の脳は一瞬、思考停止した。
俺が返事を返さないので、アリナは不安そうな震えた声で聞いてくる。
「ダメ……ですか?」
あーーーーー! きっと、今、アリナは上目づかいで俺の顔を覗き込んでいるんだろうなぁ!
「いやっ、ダメじゃ……ないよ」
「ほんと?」
「う、うん」
「やった! じゃあ、こっちを向いてください」
俺は体をアリナの方へと向ける。
すると、アリナは俺の体を抱き寄せ、ぎゅっと抱きついてくる。
「翔くん、温かいです」
「アリナも、ね」
着ているパジャマの効果も相まって、ただ抱き合うよりもぬくもりを感じる。
このまま、眠りにつきたいくらいだ。
「アリナ?」
「ん?」
「いつまでこの状態でいるの?」
「え? このまま寝るんだよ?」
マジですか……。
いや、アリナなら当たり前か。そんな俺も内心、嬉しく感じている。アリナと抱き合いながら眠りにつけるんだ。どんな抱き枕よりも幸せな気分になることができるのは間違いないだろう。
「今日はよく眠れそうだよ」
「ふふ、私もです」
やばいな。
日に日にアリナの事が愛おしくてたまらなくなってきている自分がいる。
俺、アリナ離れできないな。
いや、する気ないけどね!
そして、今までなんとか冷静さを保っていたが、ここから俺は冷静さを保てなくなり、おかしくなっていく。
「アリナ、好きだよ」
「……!? どうしたんですか、翔くん」
俺はぎゅーっとアリナのことを抱きしめる。
「アリナが決めたんじゃないか。思ったことは口に出して言うようにって」
「そ、それはそうですけど……いつもはもっと落ち着いているというか……」
「それは我慢してたからだよ。本当に好きだよ、アリナ」
いつもと様子が全然違う俺を見て、アリナも自分の想いを思い切り表面に出してくる。
この時、知った。
相思相愛の者同士が一緒に暮らしてしまうと、こうなるのか。
誰が何と言おうと、俺は絶対にアリナを離さないからな。
あー、好き。
俺は悪くないよ? アリナが可愛過ぎるからいけないんだ。
「私も大好きですよ、翔くん。誰よりも翔くんを愛しています」
「ありがとう。俺も誰よりもアリナを愛しているよ」
俺は段々と自分の中にあったアリナへの愛情が溢れ出してきて、ハグだけでは我慢できなくなってしまい、アリナに自分の考えていることをストレートに伝える。
「アリナ、キスしてもいい?」
「ふぇ?!」
俺の唐突な一言に、アリナは思わず声が裏返ってしまった。
「……ダメかな?」
「いえ、ダメじゃない……よ」
アリナの返答を聞いた俺はゆっくりとアリナにキスをした。
すると、今度はアリナが俺の首に腕を回し、アリナの方から唇を重ねてくる。
「好きだよ、アリナ」
「私もっ……好きっ」
その後も俺とアリナは幾度となく唇を重ね合った。
俺はキスをし終えた後、自分たちが抱き合いながら寝てる姿を誰にも見られないか不安になった。
どういうことかと言うと、時々、カズは俺の家に来てインターホンも押さずに入ってくることがある。
不安になりはしたものの、すぐに今の俺にはこの状況が幸せ過ぎてどうでもいいやという結論に至った。
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