第17話 もう一度...
炎は一人で八階へ戻る。
「合歓はどこへ?」
早速尋ねる恋音に炎は言いづらそうに告げた
合歓が再び『運営』に戻ったと。
けれど、裏切りではないと。
そして、『運営』に自分の妹がいたということを。
「まさか、炎ちゃんの妹さんも...
では、あの時会った少女は」
「恐らく、妹の暦です」
「そう考えると、それぞれの大切な人がいるって考えられないっすか?
合歓ちゃんは恋音さんの大切な人だから、
選ばれた。きっと、合歓ちゃんが不幸だったことが理由なんじゃなくて、恋音さんの姉妹だったから能力を与えられた。
そう考えれば、暦ちゃんのことも理解可能っすよね...自分達の大切な人も『運営』にいるかも...」
砦の推理は的を射ていた。
そう考えれば、『運営』が合歓を選んだことも、暦を選んだことも納得できる。
寧ろ、そうでなければ、無能力なしかも子供を二人も仲間にしたいと思わないだろう。
子供で単純だからという理由だけでは安直すぎる。
「部屋も人数も多いって言ってたしなぁ。
人数が私らより多いなら、『運営』のトップとやらと、加えて私ら分の六人がいてもおかしくねぇ。その説が濃厚か。
よく気づいたな、砦」
「えへへ〜」
「嬉しそうにしている場合ではありませんわよ、大切な人が多いということはそれだけ、
殺しにくくなっているということですわ。
ということは『運営』はわたくしたちが反撃することまで読んでいたと言うことになる。
随分と不利になってますのよ?」
「そうだねぇ、元々殺し屋とかなわけでもないし、慣れてる訳じゃないからぁ。
そこに姉妹や親友が来たらアウトだよぉ」
そうなのだ。真相がわかったところで打開策を生み出した訳ではない。
プルルル!
恋音のスマートフォンが鳴った。
「すみません、出て来ますね。」
電話の声の主は合歓だった。
いやに暗い声で恋音を『お姉ちゃん』と
可愛らしく呼んだ。『姉さん』ではなく。
「話したいことが...あるの
言いづらくて言えなかったこと。
お姉ちゃんの命に関すること。」
「命...が短いということでしょう?」
「そう、お姉ちゃんの能力は寿命を削る。
お姉ちゃんが夜呑気に寝てる時に一瞬体を乗っ取った時にわかったの。もうかなり衰えている。だから、次に能力を使えば...
お姉ちゃんは死ぬ」
「そんな気はしていました。
だから、あの時涙が止まらなかった。
無意識に感じていたのですね。
合歓、必ず生きてもう一度、全員で食卓を囲んで...馬鹿みたいに笑いましょう」
「やめて...泣いてる私が馬鹿みたいじゃん。
お姉ちゃんが死ぬまでに...またもう一度」
「「約束」です」
二人の約束という言葉が重なって小さな笑い声が生まれる。
「じゃあ、私は戻るよ。『運営』として、
『運営』を裏切らなきゃ。」
格好をつけた合歓は電話を切ってしゃがみ込む。
「死にたく...ないなぁ」
死ぬ気でここに来た。
『運営』の何人かを殺して、巻き込まれるまろうと覚悟していた。
けれど、生きる希望が。生きたい理由が。
明確になってしまったから、死にたくなくなった。『怠惰』でも、生きたいと思ってしまった。
涙を拭っていつもの張り付けた笑顔に戻す。
「義姉様?どうかしました〜?」
「大丈夫、行こう」
合歓の『大丈夫』は『大丈夫、裏切れる』という意味だ。
合歓は
「みなさん...お話ししておくことがあります。
私はきっとこの戦いが終わったら死ぬでしょう。寿命を迎えてしまう。
けれど、約束をしてしまいました。
無謀な約束。それを叶えたいと思ってしまいました。全員で...
もう一度...食卓を。楽しい時間を」
「「「「「勿論ですよ、もう一度」」」」」
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