第15話 近づかないで

恋音は動揺していたが恋音には覚悟があった。

合歓を助ける覚悟が。

ぐったりする合歓を自分の部屋まで運び、

ベッドに寝かせ、部屋を出る。

暫く放っておいてしまった強花と炎の元へ戻り、落ち着いた様子で二人を交互に見つめる。


「いきなり席を外して申し訳ありませんでした。惟呂羽ちゃん、砦ちゃん、早苗ちゃんの

遺体を私の部屋へ運びたいのですが

協力していただけますか?」


不思議そうな顔をしながらも、恋音の真剣さから何か察したのか、何も聞かずに頷いた。


「そういや、遺体が色んなとこにあったら

嫌になっからこの前ある程度移動しておいたんだが、良かったですか?」


「本当ですか?それは助かります。どこへ?」


「一階なんですけど...」


「バラバラの場所にある...よりは」


一階から恋音の部屋のある五階まで、

階段で、しかも遺体を運びながらとなると

かなりの労働力だが、強花が親切心でやってくれたことだと思うので感謝した。


「合計三人で私たちも三人なので、

一人が一人を背負えれば足りますね」


強花が炎の肩に手を回して


「案外、力強いこと言うんだな!お前!」


上機嫌になった強花と常時不安気な炎を連れて一階へ降りる。


「では、私が惟呂羽ちゃんを運ぶので、

強花ちゃんは早苗ちゃんを。炎ちゃんは一番軽そうな砦ちゃんを運んでいただけますか?」


「わかった」「了解です」


二人に二人を任せ、息を切らして階段を上がる。

五階の自分の部屋の扉を開き、

惟呂羽の遺体を合歓の隣に置く。


「合歓も誰かにやられたのか...」


「はい、でも合歓ちゃんに攻撃したのは

私たちの中の誰かではない。

はっきり見ました。あれは知らない子で

合歓ちゃんのことを義姉と呼んでいました」


「合歓さん妹いたんですね」


「妹ではなく、義妹です。」


冷静な恋音が不機嫌そうに言うのを聞いて

炎は自然と俯いた。


「ごめんなさい」


「謝ることはありません。」


「でも何で妹の字の違いにそんなキレたんです?なんか理由があったんですよね?」


「それは、この子たちを起こしてから話しますね」


「「起こすって」」


疑問に思ったのだろう。

恋音が能力を使う姿を二人は、ここにいる全ての人間が見たことがない。

妹の合歓ですら、見たことはないのだ。

回復の能力を持っているということでさえ

知っていたかどうかは疑わしい。

いきなり死人や重傷の人を起こすなどと

言い出したら最悪頭が狂ったのかと思われるだろう。

能力者同士なので流石に察してもらえるだろうが。


「私の能力で治します。四人の怪我を全て」


無言で遺体と怪我人を見つめる二人に詳しく説明することもなく、恋音は横たわっている四人の丁度真ん中辺りに立ち自分の体に手をあてて深呼吸する。


「『惜別』...」


聞こえるか聞こえないかの声の大きさで

呟くと光が四人を包み、砦が目を開く。


「こ..こは...」


「私がわかりますか?」


「恋音さん?」


「はい、ここは私の部屋です。

時期に他の皆さんも目覚めます」


続いて、合歓・惟呂羽・早苗の順に目を覚ました。


「これは恋音さんの能力ですの?

わたくしは確かに殺されたはずなのに」


「そういや、四人とも誰に殺されたか覚えてっか?」


「私は」「待って!」


惟呂羽が話そうとしたのを合歓が強引に止め、頭を下げる。


「私...なの。三人を殺したのは」


合歓の告白に恋音が目を瞑り、

炎は驚いた顔をして、

強花は平然と


「だろうな、薄々気づいてたわ。

多分炎もな。怪しかったから、お前」


「疑いたくはなかったのですが、消去法で」


「本当にごめんなさい。謝って済むなんて思ってない、すごく自分勝手で...最低で...

いっそあのまま死んでたほうが...」


パチン!


早苗が合歓をビンタした。


「何を後悔しますか!?こうして今全員が生きています!現に貴方も誰かに殺されかけたのでしょう?報いならばそれで充分ではないのですか?謝罪よりも今貴方がすべきことは

どうしてこの様な殺人をしたのかの経緯を皆に話し、何か原因があったらそれをわかる限りわたくしたちに教えること。

過ぎたことは後悔したって変わりません。

何度貴方がわたくしたちに謝ろうと、

殺された事実は変えられないの。

反省しているのならクヨクヨせず強く生きなさい。それが義務ですわ」


許されないと思っていた合歓の心にその言葉は大きく響いた。

実際、許されてはいないのだろう。

けれど、まだ仲間だと思ってくれているのは

合歓にとって嬉しくてたまらなかった。


「わかった。全て話す。

驚かないで聞いて、まず私のこのテンションにも驚かないで欲しいけど。」


「わたくしは前に見ましたし」


「合歓が二面性激しいのは予想ついてたよぉ」


「良かった、なら続けるね。

私と愛望恋音は姉妹なの。」


「「「「「...え...?」」」」」


一瞬場が凍りついたのかと思ったが、

かなり驚かれたらしい。


「似てるって思ってましたけど...」


炎が若干震えた声で二人に交互に目をやる。


「そんな見ないで、それで私が人殺しになった理由」









一部始終を話した。

砦は涙しながら聞いていた。

早苗や強花も難しい顔をし、

炎と惟呂羽も悲しそうな顔をしていた。


「『運営』は悪だったってことっすね」


「一応恩人だから悪っていうのは抵抗がまだあるけど、そういうこと」


「そこに十歳前後の少女もいるようです。

合歓のことを義姉としているようですが

はっきり言って私以外の人が合歓に近づくことに対して吐き気がします。

それは小さな少女でも同じこと。

まして姉妹なんて私だけなのに」


恋音が『嫉妬』の能力者であることに

一同がしっくりきた瞬間だった。


「ということなので、私は『運営』を倒したいと思っています。皆さんはどうです?」


「合歓を犯罪者にした罪を償ってもらわねぇとなぁ?行くだろ?お前ら。

三人に関しては殺された恨みをぶつけても

文句言われねぇよ」


「そうっすね、合歓ちゃんは仲間っすけど、

仲間でもない人に弄ばれるのは不快っすね」


「そうと決まれば!ぶっ倒しに行こっか!

私の...『偽りの家族』を!」


合歓は口調を胡散臭いものに戻して

今までの何倍もあやしく、怪しく微笑んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る