第7話 誤解 弁解

早苗は剣を持ち、それを砦に向けた。


「最後まで聞いてくれない気なんすね」


「えぇ、はっきりしていましたもの。

貴方が惟呂羽を殺したことが。」


早苗は砦を睨みつけて襲いかかる。

砦はそれをギリギリで避ける。

少し掠ったが指先なので大丈夫だ。

武器を持ってきたものの、

攻撃しては自分がやったことを認めるようなものだ。できる限りの避けたい。


『止まれ!』


早苗が大声で叫ぶ。

そう、これが早苗の能力『我儘わがまま』だ。

誰が相手でも、

どんな命令であろうと聞いてもらえる。

それが彼女の能力だ。

ただ一人を除いては。


その一人である砦には通じないのだ。

砦の能力は『爆食』

自分に向けられる能力を無効化できる能力。

なので、誰かに攻撃されなければ役に立たない能力なのだ。

だが今は役に立つ。


「能力は通じないようですわね厄介ですわ」


相変わらず聞く気もない様子で砦の動きを見逃すまいとじっと見つめている。

砦も隙をつかれてはまずいと早苗の挙動を見逃さない。


「はっ!」


どれだけ動きを隠そうとしても

そこそこ大きな剣で攻撃しているのだ、

声が出てしまう。


こうなっては仕方がない。

どれだけ頑張っても聞いてもらえないのだからと砦もナイフを取り出した。


「そんなものでわたくしに危害を加えられるとでも?流石無能、考えることが常人と

一味違いますわね」


「なんとでも言うっす。

私はもう貴方に望みを持ってないんで」


言い終わるか否かのタイミングでナイフを投げつける。

早苗は軽々と飛んで避け、

その反動で砦の近くへ寄り剣を振りかざす。


「う...っ...」


剣は砦の腹部を切り裂き、激しく出血する。

出血する腹を抑えて、ナイフを振り回すが

早苗が近くにいないので当たる筈もない。


「やはり、無能ですわね

ナイフごときで勝てるわけがないでしょう」


早苗の挑発が頭にくるが腹部の激痛で、

それどころでは無かった。

出血は激しくすぐには止まらない。

手で抑えているがその間からポタポタと

赤黒い血液が零れ落ちている。


「ごふっ...」


何事かと思った。

後ろだ、後ろから早苗に剣で貫かれたのだ。

数秒後、勢いよく剣を抜かれた。


「がはぁっ...」


砦は膝から崩れ落ちる。


「違うの...自分じゃない...の

それだけ...しん..じて...」


消えていく意識の中でそれだけ呟いた。






砦は貧乏な家に生まれた。

自分の持つ罪のせいで常に何かを食べていなければ生きられない。

五人兄弟の長女でありながら、

迷惑をかけ続けていた。

義務教育終了後の学校には通えず、

体質のせいで仕事もままならず

生き続けられる気がしなかった。

生まれつき味覚がないことと

何故か毒が効かないのが唯一の救いで

食べ物がない日はその辺の草や木の実を食べて飢えを凌いでいた。

塔に行くことが決まって、

やっと家族に迷惑をかけないようになれるかもと期待していたが...

それは叶わなかったようだ。

疑いも晴らせないまま無惨に刺し殺された。

もう、声も出ない。

体も動かない。

せめて、もう少しまともな死に方をしたかったとぼんやり思った。




砦が動かなくなった後、

早苗はふと自分の手と砦を交互に見つめた。


「え、砦...?どうしてこんなに血が」


早苗が呟く声がフロアに響いた。

早苗は自分の手を見て恐怖した。

どうしてか早苗には惟呂羽が死んだ後の記憶がなかったのだ...。


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