勇者退治2

「とりあえず隠れろっ!」 

俺達3人は音がした草陰の反対側の茂みに身を潜める。

「やべーどうするアニキ!」

「俺に聞かれても……どうしますヴァニスさん?」

「ここからちょっと離れた場所に大岩がたくさんある岩場がありましたよね、そこだと勇者に不利なはず」

なるほど、岩があると剣を振るえないからな。

「なら早速行こうぜヴァニスさん。アニキは勇者をおびき寄せてくれ!」

「は?え?」

「わかりました、任せますよオオタさん!」

「ちょ」

二人は俺の話を聞く事なく駆け出してしまう。

お、おびき寄せるって、相手は勇者だぞ!

脅せばいいのか?でも脅すってどうやって……。ダメだ上司の罵倒しか思いつかねぇ!

「えっと、ここら辺かぁ?」

そうこうしている内に草陰からさっきのギルドカードに写っていた奴と同じ顔のチャラチャラした男が出てくる。

「あ〜、豚の丸焼きした跡があるから、ここのはずだけどなぁ。」

勇者はだるそうに辺りを見渡す。しかしその時、近くで豚の骨をしゃぶってるベロちゃんと鉢合わせしてしまった。

「な、な、な、何だこのバケモン!」

「グフッ?」

「や、やる気かっ!相手になんぞっ!」

勇者が腰の鞘から中二臭い大剣を抜き取り、ベロちゃんと対峙する。

やべぇ、このままだとベロちゃんがやられちまう!俺がなんとかしないと……。

「エターナル·シャイニングフォース!」

勇者が謎の呪文を唱えて剣が突然光りだす。おそらく力を貯めてるのだろう。

だがベロちゃんはアクビしながらそれを眺めてるだけだ。

……くそっ、やるしかねぇか!

俺は意を決し、茂みから歩き出した。

「なっ!」

勇者は俺を見て明らかに動揺して、後退る。

…お?意外と掴みはOKか?

「ククク…」

俺は無理矢理不敵な笑みを浮かべて勇者を睨み、更に威圧する。

「っ!?な、何だお前っ、どっから出てきたっ!」

勇者は狼狽してこちらに剣を向けた。

まずい、剣で襲われたらこちとら一溜りもねぇ!相手の戦意を喪失させる言葉を言わないと……。

「男食いてえなぁ〜」

俺は笑みを崩さずそのまま相手を見つめ、ゴブリンっぽい言葉を吐く。

「ひっ!」

「俺はなぁ、お前みたいな筋肉質の男を食うのが好きなんだぜぇ」

「っ!?」

クク……。効いてる効いてる。ゴブリンは人間を食うって言うし、間違わった事は言ってないよな。

「う、う……」

勇者は半泣きで膝をガクガクさせながら、今にも逃げ出しそうにしてる。……これは、大成功か? 

「ほ、ほ…」

「ん?」

「掘られるぅ〜っ!!!」

勇者はそう叫びながらもの凄い勢いで逃げ出した。

……俺はしばし呆然としながら、今勇者が叫んだ言葉の意味を考える。…掘られるって……。


「勘違いすんなぁ!性的な意味じゃねぇ!」

俺は誤解を解くために急いで勇者を追いかける。

いくら化け物みたいな見た目をしてるからって、嫌がる相手を無理矢理襲ったりしねーてのっ!

「待てゴラァ!」

「ひぇあうあ゛ーっ!」

勇者は意味不明な叫び声を上げながら逃げ惑う。


…あれ、絵面は最悪だけど、誘い込みには成功してるな…。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る