小児誘拐計画 1
なるようになって、あるいは無難な形に落ち着いて、それから1ヶ月ほど時間が過ぎた。多少、彬奈からの久遠に対する押しが強くなったこと以外は表面的には、心做しか彬奈が久遠の私生活に対して探りを入れてくるようになった以外には何も変化がなく時間は過ぎていった。
とはいえ、彬奈からの久遠への押しが強くなったということは、決して些細な変化ではない。傍から見ればわずかな変化であったとしても、当事者である久遠からしてみれば、とてもでは無いが無視できるものでは無い。
「旦那様、よろしければ、お背中を流させていただいてもいいでしょうか?」
風呂場の前でそんなことを言い出す彬奈をなだめ。
「旦那様、今日は一緒の床に就いても良いでしょうか?」
寝る直前にそんなことを言い出す彬奈にしっかりNoと述べ。
「旦那様、あーん、です。彬奈の手から直接食べるのがお嫌であれば素直に諦めますが、よろしければ、食べていただけると嬉しいです」
さながら付き合いたてのカップルのように、あるいはそれ以上に甘ったるく必要以上にベタベタした様子を見せる彬奈。彬奈がただの人形に、作り物に過ぎないということを重視する人にとってみれば、それはこの上なく不自然で気持ち悪くて度し難いものなのかもしれないが、人との繋がりが薄まって久しい久遠からすれば、それはこの上なく暖かいやり取りであった。自信が経験したことが無いほど思いやりに満ち溢れていて、温かさとやわらかさに満ちた、優しいやり取りであった。
とはいえ、どれほど心地よく思ったとしても、それが異常な状況であるということは久遠も理解している。
慰安用アンドロイドの機能を考えれば、慰安用アンドロイドに課せられた制限を考えれば、その言動は出てくるはずがない。
性的な要素を避け、過剰に主人に干渉することがない慰安用アンドロイドの行動原則を把握している久遠は、当然その事に疑問を抱く。
慰安用アンドロイドが必要以上に主人との処を距離詰めることは原則ありえない。けれど、過去に数回だけではあるが、あまりにも非道な扱いをする主人に耐えかねたアンドロイドが、自ら規約違反になる行為を唆してその魔手から逃れたという事例が存在することも、あまり知られていないことながら久遠はしっかり把握していた。
となると、彬奈の距離が以上に近くなったことは、彬奈が自らから逃げようとしてのことなのだろうか、と久遠は思考し、それに自ら否と結論付ける。
事実、そのような事例は存在するものの、そこまでに至ったのはアンドロイドを改造した者や、ボディだけを非人間的なフォルムのものに変え続けた者、感覚制限を意図的に解除して電流を流すなど、普通の人間にやったら拷問として扱われるようなことを繰り返した者など、一般人の視点からしても明らかに以上だとわかるほどのことをしたものばかりだ。
久遠は自身がそれなりに酷いことをした自覚こそあれど、さすがにこれらの事例に並ぶほど人の心がないことをしたとは思えない。
よって、久遠から逃げるために彬奈が策略を巡らせているという説は否定できる。
そうなれば、考えうる可能性は二つ。
一つは、彬奈の何かしらの存在理由を満たすために好きでもない自分に対して媚びを売らなくてはならない状況になっていること。
もう一つは、純粋に彬奈が久遠に好意を持って、自身の制限を忘れるほど茹だった機械頭脳で愛情表現をしている可能性。
前者は、普通に有り得そうな話ではあるが、彬奈が自身に媚びを売らなくてはいけない状況など、彬奈自身の存在が左右される時くらいしか思い浮かばない。現状、彬奈に対しての扱いは多少向上しつつあるはずなので、彬奈が余程の勘違いをして迷走しているのでなければ、これはありえないだろう。
後者は、普通に考えればありえない。アンドロイドに搭載されている人工知能が優秀であることは今更言及する必要も無いことであるし、その優秀な人工知能が自身の制限を失念するなど、おおよそ起こりえないことなのだから。
量産型の人工知能が周囲の人間から見て明らかにわかるほどのミスをする割合は、初期不良を含めて1%を大きく下回っている。また、品質チェックを通じることで不良品の90%以上は工場内で処理されていることを考えれば、95%信頼区間や、それ以外の基準などを諸々重ね合わせて考えても、不良品とは遭遇しないと言っても過言では無いのだ。
世界中で1秒に2人人が死んでいるからと言って、1秒後に自分が死んでいると考える人が、翌日に自分が死んでいると考える人が、ほとんど居ないように、確率的に有り得たとしてもその割合があまりにも小さければ、多くの場合それは起こりえない事象なのである。
そんなこともあり、久遠は彬奈が後者の理由でこの行動に出ているという可能性を否定した。
実際には、限りなくそれに近い理由で行動していたにもかかわらず。
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なんとなくの構成はできているんだけどモチベーションがなかなか保てない……狂おしいほどの創作欲求が保てない……
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