変わった日常 2
その後、久遠と彬奈はどこかお互いに気まずい感じになりながら、少し距離を取りながら一日を終えた。
どちらもお互いに思うことがり、同時に申し訳なく思うこともあった。
アンドロイドであっても人と同じように扱いたいと思う久遠は、自身の言い方がいつになく否定的で攻撃だったと反省していたし、自身の感情もコントロールできずあたってしまったことを悔いてもいた。
同じように、彬奈も反省する。自身の知っていた情報だけでは、想定できなかった事態とはいえ、人に尽くすためのアンドロイドが、人の望まぬことをしてしまった。
それだけでなく、予想外の出来事に困惑して、主人に情けない姿を見せてしまった。
互いに自分のことを反省して、これからはこんなことにはならないようにと心に誓い、眠りにつく。
「おはようございます、旦那様」
「おはよう、彬奈」
そして翌朝、2人はぎこちない挨拶で朝を迎えた。
枕元でなっていた、久遠の目覚まし時計の音と、それで起きなかった久遠を心配した彬奈のやり取り。
久遠は寝起きがあまり良くないため、確実に起きるために目覚まし時計を何回も鳴らしているので、まだ一回目だったこの時間帯は、普段と比べるとだいぶ早い時間になってしまうのだが、そんなことを今の彬奈が知っているはずがない。
むしろ、知っているほうがおかしいことは、久遠もわかっている。だから、そのことに対して文句を言うようなことはない。
けれども、寝起きの悪い人の特徴として、多少機嫌が悪くはなってしまっていた。
「旦那様、お食事をご用意します。朝は何を食べたいなど、教えていただけませんか?」
彬奈は、久遠がこれ以降快適な朝を過ごせるように、わからないことはおとなしく聞くことにした。
本来、それを察することも慰安用アンドロイドには求められているのだが、彬奈は今、少しでも久遠に受け入れられようと、拒否されないことを求めている。
その最初の一歩で失敗してしまったことを踏まえての、行動方針の変更だった。
「なんでもいいけど、朝に限らず食物繊維が多いものがいいかな」
「わかりました。サラダをメインとした食事でよろしいですか?」
「いや、カロリーもとりたいから、米かパンをメインにしてもらえると嬉しい。野菜炒めとか、そういうもので頼みたい」
「野菜炒めですね。お時間が大丈夫でしたら、これから作ります。お家を出られるまでに時間があるようであれば、お弁当も用意できますが、いかがでしょう?」
久遠は彬奈に家を出る時間を告げて、ついでに余裕がありそうなのでお弁当の準備も頼む。
そうして久遠に訪れたのは、何もすることのない時間。本来ならまだ寝ていたはずの時間。
二度寝することも頭によぎったが、さすがに起こしてもらった直後に寝るのは彬奈に対して申し訳ないと思い、最近使う機会が多くなったゲーム機を取りだし、手慰みにプレーする。
「お待たせしました、野菜炒めです」
「ありがとう、いただきます」
十分ほどして出来上がって、彬奈が持ってきたものは、中華ベースの野菜炒め。解凍したご飯と一緒に食べると、少し味が薄かった。
ただ、味付けは好みの問題であって、決して美味しくないわけではない。むしろ、純粋に料理として考えるのであれば、久遠が今まで食べてきた野菜炒めの中でも上位に入るだろう。
野菜はちゃんと素材の触感が残っているし、風味も損なわれていない。全体としてのバランスも良く、冷蔵庫に残っているものだけで作ったとは思えない出来だ。
「お味はどうでしょうか?」
「美味しくできているよ。ありがとう」
久遠がそういうと、彬奈は少しだけうれしそうに微笑む。
それを見て久遠は、味の濃さが気になったことを言えなくなった。その笑みを損ないたくなくなった。
「お口に合ったのならよかったです。それでは、お弁当の用意もしてしまいますね」
彬奈はそう言ってキッチンの方に戻っていく。
何やらごそごそしているのは、弁当箱を探しているのだろうか。
彬奈の微笑みを思い出して、久遠の胸は不意にズキリと痛んだ。美味しかったはずなのに、もっとあの表情を見たいと思ったはずなのに、痛みは治まらない。
久遠には、もう、自分が何に対してどう思っているのかすら、正確には把握できなくなっていた。
「申し訳ありません旦那様、お弁当を入れる容器はこれで構いませんか?後、晩御飯以降の参考にしたいので、好きな食材やメニュー、それと、あればですがアレルギーや苦手なもの、なども教えていただけませんか?」
扉の向こうのキッチンから彬奈が戻ってきたので、久遠は自身の感じていた不調をいったん誤魔化す。
「アレルギーも嫌いなものも特にはないかな。少なくとも、メジャーな食材に限って言えばだけどね。好きなものも、これといったものはないかな」
あえて何かあげるとすれば、食べやすくて安上がりなものだが、これもわざわざ言わなければならないほどのものではない。
「わかりました。では、腕によりをかけて準備いたしますので、楽しみにしててくださいね」
「ありがとう。財布は、そこに入っているからあとは任せるよ」
具体的なものが思い浮かばないときは、“よきにはからえ”で丸投げするのが、久遠の食事に対する思い入れだ。
久遠が自覚している、以前の彬奈の気に入っていたところには、そんな適当な指示である程度以上の満足感を毎回生み出してくれたところもあった。
途中で彬奈がやってきたおかげで、痛みが治まった久遠は、まだ時間はあるものの少し気分が焦って、急いで野菜炒めを飲み込む。
その後身の回りの支度を先に済ませてしまって、いつでも家から出ることができるように準備して彬奈が戻ってくるのを待つ。
少しだけ時間が経って、彬奈がキッチンから出てきた時に持ってきたものは、以前見た、古き良きスタイルのそれではなく、保冷バックに入っているもの。
膨らみから察するに、中にはしっかり保冷剤を入れて悪くなりにくいように気を使ってくれたのだろう。最悪悪くなっても処分して別のものを買えばいいと思ってしまう久遠としては、その気遣いはとてもうれしいものだった。
久遠は受け取った弁当箱をカバンの中に入れ、まだ少し家を出る時間からは早いものの、昨日の時点よりも少しは表情が見やすくなった彬奈に、ほのかな笑みを浮かべながら、「道中、気を付けてくださいね」なんて言われてしまったら、まだ時間に余裕があるなんて言って家に留まることはできなかった。
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近いうちに一部だけ書き換えることになるかもです。わざわざ読み直さなくてもそこまで大筋に影響はないと思うので、一応参考までに。(奈央(子供)との飲み物関係についてです)
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