第10話 魅了という罪
ディランは昼食を終えて、エミリーに改めて問いかける。
「僕に解決を依頼する。そういうことで良いんだよね?」
「はい! お願いします」
エミリーが純粋な瞳で真っ直ぐ見つめ返してくるので、ディランは申しわけなくなりながら話を進める。
「えっと……僕は君が嘘をついているとは思っていないんだ。でも、一度だけ確認させてもらうね」
「はい……」
「君の取り巻きは、状況から判断して君に魅了されていると考えるのが妥当だ。僕が関わるとなれば、最終的には国一番の魔道士も出てきて解決するまで徹底的にエミリーのことを調べることになる。君が何か隠していても誤魔化すことは不可能だと思った方が良い」
エミリーが不思議そうにディランを見ている。ディランが何を言いたいのか図りかねているのだろう。
「もし、君が魅了の効果を持つ薬または魔道具を使用している場合、今日中に止めるなら調査せずに子供の悪戯として処理する事ができる。でも、明日以降の調査で発覚した場合は正式な手続きを踏むことになる……その意味は分かるよね?」
エミリーはゴクリと唾を飲み込んだ。他人を魅了した場合、良くても終身刑だ。ディランを標的にしているのだとしたら王族に対する不敬罪もそこに加わる。エミリーだけでなく、カランセ伯爵家にも影響は及ぶだろう。
「これは君以外の人間が君を利用して悪戯でやっていた場合も同じだ。その可能性も含めて放課後までに考えてきてくれるかな?」
ディランはなるべく優しく声をかけたが、エミリーは小刻みに震えていた。エミリーは周囲が自分に魅了されていることは間接的にだが認めている。その事の本当の意味を初めて理解したのだろう。
「私……どうなっちゃうんでしょうか? この状況を止めたくても、何が原因で起こってるのか分からないんです」
「うん、君がそう言うなら、僕は信じるよ。誰かに何かを渡されたってこともないのかな?」
「はい、ありません。この学院に知り合いもいないので……」
エミリーは消え入りそうな声でそう答えた。
「じゃあ、放課後まで待たずに調査を始めるってことでいいのかな? 原因がはっきりしないまま罪に問うようなことはしないから、そこは安心してね」
「はい。よろしくお願いします」
ゴーンゴーン
授業開始5分前の予鈴が鳴り響く。
「そろそろ午後の授業が始まるね。受けられそう? 休むなら寮まで送っていくよ」
エミリーの震えは治まってきているが、顔色があまり良くない。ディランにも、泣いていたエミリーに酷な話をした自覚はある。
「大丈夫です。授業はサボりたくないのでちゃんと受けます。ご心配おかけしてすみません」
エミリーは青い顔でニッコリと微笑んで立ち上がる。凛とした姿も美しい。エミリーは、やはりディランを魅了しているかのように、ディランの心を引き付けて離さない。
「教室まで送っていくよ。また、騒ぎになったら困るでしょ?」
「ご迷惑おかけしてすみません。よろしくお願いします」
ディランはエミリーの姿をきっちり魔法で隠して並んで歩く。エミリーを探す男子生徒たちの姿を見て、なんとも言えない優越感に浸ってしまった。
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