第4話 カステラーヌの姦計

「ふん、別に改良コンニャクでなくとも、米でも粟でも小麦でも大豆でもトマトでも、代わりに別のものを生産すればよいだけの話よ」


 しかしユベリアス王太子はメルビルの話を、まったく取り合おうともしなかった。


「他国が作れるものを作ってもいたずらに競争にさらされるだけですわ。他国が作れないものを作るからこそ、そこに大きな価値が生み出されるのです」


「ええい、お前のめんどうな議論に付き合うつもりはない! 婚約は破棄! 改良コンニャクも破棄だ! これはもはや決定事項である! 衛兵! この罪人を即刻パーティ会場からつまみ出せ! 今すぐにだ!」


「殿下、どうか! 私はどうなっても構いません! ですがどうか改良コンニャクを破棄することだけはお考え直し下さいませ!」


 メルビルは最後に声を大にして強く訴えたものの、


「ふん!」


 ユベリアス王太子殿下は顔を背けると、そのままメルビルとは目を合わせようともしなかったのだった。


 すぐに2人の衛兵が飛んできて、メルビルはパーティ会場からつまみ出されてしまった。


 その連れ出される途中で、メルビルはあることに気が付いた。

 妹のカステラーヌが、ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべながらメルビルを見ていたことに。


 しかもカステラーヌはユベリアス王太子に寄り添うように身体を寄せ、ユベリアス王太子もまんざらではなさそうにその肩を抱き寄せていたことに――。


「そう、そういうことだったのね……」


 この瞬間、聡明なメルビルは全てを理解した。


 今回の一件は、カステラーヌがメルビルを追い落とすための虚偽の告発だったのだ。

 全てはユベリアス王太子殿下を自分のものにするために――。


「そう言えばカステラーヌは昔からずっと、ユベリアス王太子殿下と婚約が決まったことを羨ましい羨ましいって言っていたっけ」


 メルビルにとってユベリアス王太子は、次期国王としてはやや性格に難がある我がままな王太子という認識だったが、カステラーヌは王太子の顔がカッコよくてヤバイ、イケメン過ぎてヤバイ、ヤバイマジヤバイと言ってその外見を誉めそやしていた。


 ユベリアス王太子が婚約者であるメルビルに会いに来たときなどは、メルビルを差し置いて自分がいかに可愛い女であるかをアピールをするほどだった。


 でもだからといって、まさか実の姉であるメルビルを虚偽の告発で追い落とし、代わりに自らが婚約者として後釜に座ろうなどという、そんなバカげたことを考えていたとは思いもよらなかったメルビルだった。


 まかり間違っても、由緒が正しく歴史も深き侯爵家令嬢のやっていいことではなかった。


「しかも改良コンニャクの生産を禁止するだなんて……これじゃあフライブルク王国の経済は壊滅的ダメージを受けてしまうわ……」


 メルビルは失意と絶望の中、オーバーハウゼン侯爵邸へ帰宅したのだった。


 両親である侯爵夫妻はメルビルの話を聞いて頭を抱えていたが、ユベリアス王太子が並みいる紳士淑女たちの前で宣言した以上、今となってはもう誰もどうすることもできなかった。


 こうしてメルビルの婚約は破棄され、メルビルの開発した改良コンニャクも全て破棄されてしまったのだった。

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