第57話 呪詛使いの闇
「いやああぁぁぁぁぁっ! やめてやめて! ああああぁぁあぁぁぁぁぁぁ!!!」
悲痛な悲鳴が訓練場に響き渡る。
召喚されて間もない頃、叶がクラス中から虐められていたときの出来事。
震える体を抱きしめるように押さえ、焦点の定まらない目で発狂する叶を一人の男子が笑って見下ろしていた。
右手で叶の首を掴み、爪が食い込んで血が流れるほどの力を込めて何か悍ましい魔力を流し込んでいる。左手は乱暴に髪を掴んで頭を前後に振っていた。
「あはははははっ! どれだけ泣いても叫んでも愛しのヒーロー聖ちゃんは助けに来ねぇよ。ほらほらもっと喚けよほらぁ!」
右手に込める力と流し込む魔力が強化される。
途端に叶が痙攣するように体を跳ねさせた。どれだけ恐ろしい事をされているのか、全身の震えが止まらずに必死になって暴れている。
体の制御もできず、全身から様々な液体を漏らしながら苦しんでいた。
「きゃははははは! いいねその顔! カメラがないのが本当に惜しい!」
「……あのさぁ千堂。いい加減うるさいんだけど」
「……僕の芸術を理解できないのは残念だよね梓。この間は聖に邪魔されたけど、今日はあいつ教会に行ってるから絶好の機会なんだよ。叶って見た目はいいんだから苦しむ悲鳴はご褒美になるっしょ」
平然とそんな狂気的なことを少年――
呪術師のジョブを有しており、こうして叶に強力な呪いを付与して精神的に追い詰めることをしていた。
叶を虐めていた梓からすると、聖がいないからとターゲットを奪われ、挙句自分の訓練をしようにも響き渡る絶叫のせいで集中できずに少し苛々していた。
梓の非難めいた視線を無視し、叶の顔を地面に勢いよく擦りつけさせる。
口を切り、血を漏らしながら激しく咳き込む。意識が朦朧とし始めたため、強めに両頬を叩いて今度は頭を掴むと、先ほどのように不穏な魔力を流し込む。
甲高い悲鳴と共に叶の意識は引き戻された。
「それにさ、僕だってちゃんと訓練してるよ。呪術の制御と付与は難しいから、実験台がほしいわけ。それも、魔人に対抗することを想定してるから人間が好ましいのよ」
「言い分は分かった。でもさぁ」
「じゃあ、梓が代わりになってくれるの? それともいつもの取り巻き連中がいい? 僕、女の子の悲鳴でしか興奮できないから」
「……叶のこと好きなだけいたぶればいいよ」
「へ~い。本当は壊してあげたいけど、完全に壊しちゃったら聖がうるさいだろうし我慢するか」
ため息を吐いた梓が去っていく。
その後ろ姿を見ることなく、叶に呪いを付与し続けながら大樹がボソリと呟く。
「心配しなくてもいつかお前も呪ってやるって」
◆◆◆◆◆
そして時は流れ、港町ムペルの裏路地にて。
失禁し、ガタガタと震える少女とそんな彼女に覆い被さるように抱きつく少女の姿があった。
どちらも大粒の涙をこぼしており、尋常ではない様子が窺える。
「もうやめてっ! これ以上お姉ちゃんにひどいことしないでっ!」
「あ……ぇ……お……ねがい……いもうと……には……てを……ださ……ないで……」
どうにか絞り出した声で懇願する姉。
二人の前に立っている大樹は、妹を邪魔だとばかりに蹴って離れさせると、姉の顔を強く掴んだ。
はるかに強力になっている呪いを流し込み、路地裏に響くような甲高い悲鳴を発せさせる。
「泥棒はよくないじゃんね。妹がやったことは姉に責任があるよね」
飄々とした様子で言うが、行動は異常だ。
しばらくもがいていた少女は、ひときわ目を大きく開くと動かなくなってしまう。否、動くには動くが時折体が痙攣するだけであった。
「あ、壊しちゃった。……いっか。とっても楽しめたし」
姉の精神を完全に破壊し、愉悦の表情を浮かべる。
大樹は次に泣いて姉に縋り付く妹の頭を掴むと、容赦なく強力な呪詛を直接脳内へと送り込んだ。
まだ幼い少女がその力に耐えられるはずもなく、すぐに発狂して精神を壊してしまう。
「うーわ出力ミスった~。っぱある程度耐性があるやつじゃないとダメか」
壊れて動かなくなった姉妹を放置し、路地裏から出ていく。
と、現れた大樹に杖を持った少女が恐る恐る話しかける。
「あ、あのさ大樹君。さっきの……」
「ん? あぁ、もう泥棒はしないってさっきの子たちと確認してきたから」
「そんなはず……ううん。そっか……」
大樹に畏怖の目を向ける少女は
困りながら何か口ごもるが、それ以上の追及はせずに宿へと戻っていく。
そんな彼女を大樹はつまらなさそうに見送る。
(別に羽入は弄んでも全然面白くないし。やっぱ叶が可愛い上に美しい発狂ぶりだったからなぁ……なんであんな最高級のおもちゃを勝手に壊しちゃうんだか)
小さく舌打ちし、その場にあった小石を蹴って海に落とす。
(他なぁ……弄んで心地いい悲鳴を聞かせてくれそうなの……聖か。もう少し練習すれば聖の防御も突破できるくらいには呪いも強くなるだろうし。あと、梓みたいな自分が一番だと調子に乗ってる雌豚も壊してやったら面白いんだよな~)
大樹は、いわゆる女子の苦痛でしか興奮できない異常性癖者だ。
そのため、それがたとえクラスメイトであろうとも悍ましい妄想を止めることはなかった。
「とりあえず、もう少し適当なガキ捕まえてぶっ壊す練習すっか。それで聖の不意ついて呪ってやると。美少女の命乞いと体液……たまらねぇぜ」
周囲に誰もいないからと隠していた本性全開で話す大樹。
だが、命乞いをすることになるのは聖ではないことを、今は大樹も羽入も知ることはなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます