Act.5
翌日。
昨日はティアさんの道具や武器、服などを揃えていたらいつの間にか日が暮れてしまっていた。
家に帰ると、エリシアちゃんがエプロン姿で晩御飯などの家事をしてくれてた。エリシアちゃん良い子過ぎる……。
勿論、わたしも作る時は作るよ? というか、エリシアちゃんとは交代で家事とかはやってるから問題ない。
「じゃあ行ってくるわね」
「行ってらっしゃい、ティアさん、アリスさん」
朝ご飯を済ました後、今日は約束通りティアさんをポステルに転移させる日である。昨日で結構揃ったので十分、依頼は受けられると思う。
「<転移>」
ティアさんにはわたしの手を掴んでもらい、転移を発動させる。空間が歪み、一瞬にして景色が切り替わる。
街の中に直接入るのはしない。そんな事をすれば転移魔法を使った所を大勢の人に見せてしまうことになるし。
ポステルからちょっとだけ離れた位置の木陰に転移した所で、ティアさんとは一旦お別れとなる。
ティアさんを見送った後、再び転移魔法で家へと戻る。
「あ、アリスさん」
「ん? エリシアちゃんどうしたの?」
今日はこれからどうするかを考えていると、エリシアちゃんに声をかけられる。相変わらず、見た目にそぐわない首輪が付いている。
「今日、一緒にでかけたいです!」
これはちょっと予想外だった。
でもまあ、一応一段落は付いてるし、時間は大丈夫そうかな。時計を見ると午前10時を指している。
「良いよ、何処に行きたい?」
「えっと……ミストルに行ってみたいです」
お、おう。ミストルか……エリシアちゃんがクルトさんと一緒に行く予定だったあの街だ。ただわたしは一回も行ったこと無いので、転移は使えない。
ミストルについては、エリシアちゃんも行ったこと無いので以前のように記憶を覗いて転移!って事はできない。
「んーミストルはわたし行ったこと無いから、転移が使えないんだよね」
「そうなんですね……」
「うん。一度行った場所じゃないと使えないんだ。エリシアちゃんも行ったこと無いよね?」
「はい……行く予定ではあったんですけどね」
少し悲しい顔になるエリシアちゃん。クルトさんの事を思い出しているのだろう。何とかしたい気はするんだけどね。
「良し。今日は無理だけど、近い内に行けるようにするよ」
「本当ですか!?」
「どうどう。うん、だから今日は違うとこにしようか」
「はい!」
エリシアちゃんの笑顔が眩しすぎる。
しかし、そうは言ったものの、何処に行こうかな……転移で行ける候補としてはアルタ村か、港街ポステルくらいなんだよね。
「うーん。エリシアちゃんはどこ行きたい? と言っても候補はアルタ村かポステルしか無いんだけどね」
ミストルについては、後で一人で行くようにして、転移を使えるようにするつもりだ。最寄りはあの襲撃場所だから、あそこからどれくらいかかるか、だな。
「それなら私、ポステルに行きたいです! ゆっくり回ったこと無いので」
そう言えばそうだなと思い返す。
ポステルにはエリシアちゃんも何度か、わたしと行ってたけどゆっくりと色んな場所を回る事とかはしてないな。
「分かった、行きますか!」
「わーい! ありがとうございます、アリスさん!!」
うお眩し?!
って何回同じ事してるんだわたしは……でも眩しいのは事実だし仕方がないよね。
そうと決まれば……わたしたちはポステルへ行く支度をするのだった。わたしはこのままで大丈夫だけどね。
□□□□□□□□□□
「わあ……」
時刻は11時半を回る頃、わたしとエリシアちゃんはポステルの街を見回っていた。
大きな船をキラキラした目で見てるエリシアちゃんは年相応で可愛らしい。普段は丁寧な口調だし、何処か大人っぽかった。
そんなエリシアちゃんを自分のまた微笑ましく見ている……と思う。いや、自分の表情って分からないし。
「そこのお嬢ちゃん。串焼きはどうだ?」
エリシアちゃんに串焼きを勧めるおじさんが一人。この街の人たちも優しい人が多い。奴隷であるエリシアちゃんを見ても普通に接するし。
まあ、奴隷は当たり前に存在する世界なので当たり前なのかも知れない。良く出る奴隷って結構酷い扱いを受けてるイメージが強過ぎてね。
「おじさん、串焼き4本ください」
「そっちのお嬢ちゃんのお連れさんかい?」
「はい一応そうですね」
「そうかそうか。ほれ、2本おまけだよ」
「良いんですか?」
「可愛いお嬢ちゃんにはサービスするってもんよ!」
4本買うつもりが、2本のおまけが加わり6本となる。因みに串焼きのお値段は15エルだった。
「「ありがとうございます」」
「良いって事よ!」
わたしとエリシアちゃんでお礼を言い、6本の串焼きを受け取る。
「美味しいです!」
「そうだね~」
シンプルだけど美味しい。これで15エルっていうのはお得だな。この付いている タレもタレで中々この肉とマッチしてる。
わたしには食レポなんて大それたことは出来ないので、美味しいか普通か、不味いの3つしか無い。
その後もエリシアちゃんとのんびりとポステルを回る。
やっぱ港街って賑やかだなあって思う。あっちこっちで声が聞こえるし、人通りも多い、活気が良いのは素晴らしい物だ思う。
「あ、見て下さい! これ可愛いですね」
フラフラ歩いていると、エリシアちゃんが露店にある売り物を発見する。それはシンプルだけど、綺麗に作られた星型の髪飾りだ。
洒落たことに、青と白のペアセットみたいだ。値段もそこまで高くない。
「お兄さん、これください」
「へい、毎度!」
記念品に良いかも知れない、という事でその髪飾りを購入する。そして白い方をエリシアちゃんにあげる。
「え、良いんですか?」
「ふふ、今日の記念って事で」
「ありがとうございます……一生大切にしますね」
「大げさだなあ」
受け取ったエリシアちゃんは、その髪飾りを大事そうに両手で持って笑ってみせる。まあ、本人の好きにするのが良いよね。喜んでくれて良かった。
ふと、出港していく船を見ながら考える。
このフロリア王国の海上隣国である、アスタル海王国は主に船や艦船の技術に力を入れている国で有名だ。
海軍の戦力はこの大陸随一で、右に出る国はないと言われる程だ。交易も積極的に行っており、フロリア王国との仲は良好だ。
この世界の艦船ってどんなのだろう? まさか地球にあるようなイージス艦とか護衛艦ではないよね。もしあったらそれこそ驚きだ。
本で見た感じ、鉄の船っぽかったかな。船を動かす動力は魔力モーターで、大砲を積んでいた。
ポステルに停泊している船を見る。鉄……な船はなく、ほとんどが木製っぽい。でも動力は魔力なので、帆船みたいなものは無い。
「…さん! …リスさん! アリスさん!」
「うえ!? あ、エリシアちゃんごめんね」
「どうしたんですか、ぼうっとして」
「船を見ててさ。海上隣国のアスタル海王国って船の技術が高いって話でしょ? どんなのかなって考えてた」
隣国のステリア王国に、海上隣国のアスタル海王国。どっちの国も気になるな……でも、最初の移動は歩きとかしか無いしなあ。
一度行ければ転移でひょいひょいなんだけど。違う国まで行ったらどれくらいかかるんだろう?
まあ、転移で毎晩ログハウスに帰ってくるから別にどれだけかかっても問題ないか。
「クルトさんの話ではやっぱり鉄の船が行き交ってるらしいですよ」
「へえ……」
クルトさんは行ったことがあるって事か。まあ、行商人だし色んな国に行くのは理解できるな。
「はい。いつか行ってみたいです」
「いつか、わたしが連れていけるようにするよ」
「アリスさん……」
エリシアちゃんも色んな所を見たいのだろう。それは恐らく、クルトさんと旅した影響でもある。
わたしもわたしで気になるし、本当にいつか行けるようにしたいな。一度行ってしまえばもうこちらのものだし。
最終的には東の国にも行きたいね。そんな事を考えながらも、ゆっくりと、時間は過ぎ去っていく。
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