Act.3


「という訳でここがティアさんの部屋です」


 ログハウスの2階に上がり、空き部屋の一つにティアさんを案内する。一応、部屋全部手入れしているので、汚れてないはずだ。

 家具は一通り揃っているので、不自由はないと思う。


「嬉しいけど……本当に良いの?」


 申し訳なさそうに聞いてくるティアさん。このまま放りだしたらまた死にそうになりかねないから仕方がない。それに別に困るって訳でもないし。


「良いから良いから」


 エリシアちゃんは今、庭の手入れをしてくれているのでこの場にはいない。


「向かいにある部屋がわたしの部屋で、その右がエリシアちゃんの部屋ね」


 取り合えず誰の部屋が分かるように、名前の書いたプレートをドアに付けてるので、間違えることは無いだろうけど……。


「本当に感謝してもしきれないわね……どうやってこの恩を返そうかしら」

「まあ、そこは気楽にね? それでもう一つ、ティアさんに言う事があるんだけど」

「何かしら?」


 それは勿論、街への事である。転移で送るというのは決めたので、それをティアさんに言わないとね。


「これから言うことは他言無用で」

「え? ……分かったわ」


 頭に疑問符を浮かべていたが、ティアさんはわたしの言葉に頷く。


「わたしは転移魔法が使えます」

「えっ!?」


 何も隠さず、本当のことを告げる。すると、ティアさんの目が見開かれるが、すぐに真剣な表情になる。


「なるほど。つまり、転移魔法について秘密にして欲しいって事ね。その代わりアリスさんが転移で街に連れてってくれるという感じかしら」

「お、おう……その通りなんだけど」


 あれ、ティアさんってポンコツ混じってると思ったんだけどめっちゃ鋭い? いや、こういう人に限ってい意外な才能を持ってたりするものか。


「それならこちらからお願いしたいくらいよ。だから分かったわ」

「じゃあ決まりだね。あと、わたしのことはアリスって呼び捨てで良いよ?」

「そう? 分かったわ、少しの間よろしくね、アリス。それなら私のことも呼び捨てで良いわよ?」

「こちらこそ。いや、わたしはこっちが素だからこのままティアさんって呼ぶよ」

「そう?」

「うん」


 エリシアちゃんはちゃん付けで呼んでるけど、ティアさんは何となく”ちゃん”を付けにくい。それに呼び捨ては慣れないから、このままさん付けのままで行かせて貰おう。


「それじゃあ、明日からね。今日は適当にくつろいでてよ」

「本当に何から何まで悪いわね……」

「気にしない気にしない。あ、お風呂に入りたい時はわたしに言ってね。用意するから」

「ええ、分かったわ。その時は言うわね」


 実はお風呂に沸かし方が前と変わっている。というか今までがちょっと変だった訳で、創造魔法でお湯を作ってそれをバスタブに入れる……でもって湯せんに浸かっていたのだ。

 そもそもの話、創造魔法自体使える人が居るのかって話。エリシアちゃんに聞いてみたんだけど、過去今までそんな魔法は見た事がない、とのこと。

 あ、創造魔法についてもエリシアちゃんには言ってあるよ。一緒に暮らすんだから、いつ見られても大丈夫のように、ね。勿論、他言無用と伝えてある。


 で、話を戻すんだけどそれが今までのお風呂の沸かし方。いや、沸かすって言えるのかなこれ……?

 そして今は、バスタブに水を張って薪に火を付けて沸かすという、少し古式なお風呂に変化した。

 火を付けるのはエリシアちゃんがメインとなる。火魔法が使えるからね……わたしは使えないので、やるとしたらライターを作って使う感じかな?


 因みに、この世界のお風呂についてだけどまず一般的には普及されてない。貴族は別として、平民でお風呂があるのは平民は平民でも比較的裕福な家くらい。

 普通の人は良くある水浴びで済ましてるみたいだね。まあ、お湯が使えるならお湯浴びになるのかな?

 とまあ、そんな感じの世界なのだ。余談だけど、宿とかでは普通にお風呂はある。大体の宿では大浴場っていうのがあって、共用だったかな。

 高級宿になってくると、個室に小さなバスタブがあるらしいよ? この世界の宿に泊まった事無いから実際見た訳じゃないけど。


 そういう訳で、うちのお風呂はこうなった。ただ近くに水場がないので、結局水についてはわたしの創造魔法になるんだけどねぇ……。




□□□□□□□□□□




「いつもご利用ありがとうございます。アリスさん」

「サラさんも毎回ごめんね」

「いえいえ。こういう場所なので、人は少ないですし問題は無いですよ」


 ティアさんを部屋に案内した後、わたしはアルタ村にある冒険者組合に顔を出していた。

 その理由は、換金するためである。


 この半年間、わたしは定期的にアルタ村の冒険者組合と、ポステルの冒険者組合に寄っては魔物の素材を売って換金していた。

 現状、ポステルとアルタ村の二か所を交互に使って換金してる。特にこれといった理由は無く、ただそうしてるだけなんだが。

 お金の優先度は確かにそこまで高くは無いけど、稼いでおいて損はしないので片手間でやってる感じだ。


 そして今……不審に思われないようにこっちの世界に合わせて行っている段階でもある。これから徐々に変えていくので、いずれはお金も必要になってくるだろう。

 まだ創造魔法に大半頼ってるから何とも言えないけど、あくまで将来的に見て使わないで過ごせるって事なので、今は使える物は使うのだ。


 さて、そんなわたしだけど実は最近になってFランクからEランクに冒険者ランクが上がっている。

 Fランクと比べて稼ぎも良くなって、討伐も出来るようになった。まあ、Fランクからも討伐はできてたけど、EではあるけどになればFより強い魔物の依頼も出てくるので、稼ぎの効率は上がってると思う。


 とはいえ、わたしのスタイルは当初の時から変わらずに、依頼は基本的には受けない。換金をする手段として冒険者登録をした訳だしね。


 そんな感じで毎日を過ごしていたら、結構所持金も余裕が出来るくらいにはなった。ざっと30万エル……金貨30枚だ。

 Eランクとしてはかなりのお金持ちの方だと思う。前に一度、新緑の森の中をもう少し詳しく、散策したんだけど結果は上々。

 レッドウルフやスライム以外にも脅威度が比較的高めな魔物も居て、それらも換金に加えたら、そこそこの額になってウハウハだった。


 新緑の森の中の魔物だけでも、稼げるんじゃないかな。でも、やり過ぎてしまうと魔物も少なくなって、討伐も出来なくなるから節度は守ってるよ。


「またよろしくおねがいしますね」


 サラさんの言葉に軽く頷いて、会釈をしてからアルタ村の冒険者組合を後にした。サラさんとも、結構長い付き合いになってるなと思う。半年だけど。


 今思えばこのアルタ村に来てからも約半年といった感じか。何ていうか、変わらないなと思う。良い意味でね。


 そんなこんなで、村の外に出たわたしは丁度良さそうな木陰に隠れて転移の魔法を使いログハウスへ帰宅する。


「あ、アリスさんおかえりなさい!」

「ただいま、エリシアちゃん」

「おかえりなさい」

「ティアさんもただいまー」


 ログハウスに戻ると、一階のリビングエリアでエリシアちゃんとティアさんに迎えられる。ティアさんは一時的ではあるけど、賑やかになったなと思う。


「そう言えば、ティアさん。荷物全部取られたってことはもしかして、服もないんじゃ……」


 ふと思い出す。

 ティアさんは荷物を全部取られてしまったということは、つまりお金以外の物も無くなってしまったのではないかと。

 そうなると、着替えができないだろうし、最悪服は良いとしても下着は嫌だよね。ただ、わたしとエリシアちゃんの服のサイズでは多分小さいから使えない。


「そうね……着替えとかも無いからこれだけよ、まあ、どうしようもないからこのままで良いかなって」


 それは衛生的にどうなのだろうか。

 いやまあ、わたしかエリシアちゃんの<浄化>で綺麗にする事は出来るけど、それでもやっぱり女性だしそこは気にするよね。

 わたしは前世が男だったっていうのもあって、あまり気にしてないけど、一応数着の服と下着は用意してある。


「よし、ティアさんの服を買いに行こう!」


 少し考えた末、買いに行く事を決定する。エリシアちゃんも「そうですね、私たちの物を貸しても良いんですがサイズが合いませんし」と言っていた。

 ティアさんはそんなことを言うわたしたちを見てこれまた、面白い表情を見せるのだった。

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る