Act.5
「んんーん」
翌日。
すっきりした感じで目を覚まし、大きく背伸びをする。外は既に明るく、時間は分からないけど多分まだ午前中のはず。
「冷たっ」
蛇口から水が出る……訳ではなく、創造魔法で作ったそこそこ冷ための水で顔を洗う。今回はちょっといつもより冷たかったかも。
軽く身だしなみを整え、部屋に戻り、着ていた服を脱いだ後、アリスの服に着替える。勿論、頭につけるリボンカチューシャも忘れない。
首からペンダントのように懐中時計をかけ、準備完了。後は部屋に置いてある黒い鎌を持てば、いつでも戦闘できる状態となる。
一週間で我ながらだいぶ慣れてきたものだな、と思う。
「いい加減のこの鎌に名前をつけるべきかな?」
ずっと黒い鎌とか言ってたけど、これじゃ他にも黒い鎌があった時とかに呼び分けがでずに困る。
「ワンダーデスサイズにしようかな」
不思議な死神の鎌……うん、直訳すると変なの。
コイツの性能はまだ完全に把握してないけど、多分かなり強いんだと思う。魔物も一振りで葬れるし。この辺の魔物が弱いだけかも知れないが。
ワンダーデスサイズ……長いんだけど、なんかしっくり来ない事も無い。上手い略称がないので、そのまま呼ぶしか無いかな。強いて略するならワンデスサイズ? あまり略されてない気がする。それなら頭文字を取ってWDSとか?
「ふむ。略称はWDSで良いかも知れない」
ま、そのうち良い感じのが思いつくだろう。
朝は御飯と味噌汁の定番メニュー。パンでも良いけど、お米の方がわたしは良い。あくまでわたしは、だが。
創造魔法で作った調味料とかを使って味噌汁は作ってある。お湯も勿論創造魔法。便利過ぎるけど、これに慣れないようにもしないとね。
因みにどうやって御飯を炊いてるのかと言えば、炊飯器は見ての通り無いので飯盒炊爨で作ってる。火とかはカセットコンロとかが有るので問題なし。
さて、今日は昨日も言ったように街とかがないかを探す予定だ。人里に行ければ時計も作れるだろうし、一歩進展できるはず。
基本的には極力人とは関わらず、のんびりスローライフを送りたい物だが、それをするにはまだ準備が足りない。
面倒な事も仕方がない場合を除いて基本、スルーしたいけど多分出来ないかも。これは性格的な問題何だけど、人が怪我してたらやはり放っておけないと思うんだよね。
食料とかをそこそこ用意して、異空間に収納出来る空間魔法……仮称としてストレージと呼ぶことにしよう……その中に収納して持ち歩こうか。
時間の魔法とは関係があるかは分からないけど、このストレージの中はどうやら時間が止まってるみたいで、鮮度が落ちないっぽい。これは最強である。
朝ご飯で作った御飯の余りを使って、簡単におにぎりを作る。中身の具については創造魔法に頼って作ってる。
出来上がったおにぎりをストレージに格納し、飲み物としては水とかジュースとかを作って入れてる。何か異世界感を壊してる気がするけど、創造魔法が強すぎるから仕方がない。
現状本当に創造魔法に頼り切りなので、どうしようもない。
最後にワンダーデスサイズを持ち、出発準備完了だ。
玄関や窓の戸締まりをした後、ログハウスを後にする。
「まずは実験かな」
そのままいざ人里探しへ……という訳ではなく試したいことが有るのでそっちを先にしたい。ログハウスからそこそこ離れた位置で立ち止まる。
「<転移>」
ログハウスを思い浮かべて、空間魔法の中にある転移の魔法を試してみる。瞬時に景色が切り替わり、わたしはログハウスの中に転移成功していた。
「よし、これなら問題なく帰れるかな」
転移魔法は確認の際に一度やってるので、問題はないはずだが念の為ということでちゃんと帰れるかを確認したかったのだ。
結果は問題なく発動できたので、これで家には簡単に帰れるはず。これで本当の準備は終わりなので、今度こそわたしは人里を探しに探索し始めるのだった。
□□□□□□□□□□
森の中を歩いて体感三十分ほど。
ようやく森を抜けられたみたいで、広い草原にでられる。若干整備されてるような道を見つけ、それと視線で辿ってみるとそこには目的の物が見えた。
「街……というより村かなあれ」
良くある城壁で囲われた街を想像したのだが、今見えているのは簡易な木の柵で囲われた、小さな村っぽい場所だった。
ただこの位置から見てもそこそこ建物がありそうな感じだ。もしかすると村というよりは小さな街なのかもしれない。村じぇねえ、街だよ! とか怒られそう。
更にそこに近づいてみれば、やはり小さいながらもそこそこ面積を持ってるみたいだ。
「ん? 嬢ちゃん、この村に何か用か?」
入り口近くまで来ると一応、門番? が居るみたいで、その人に声を掛けられる。見た感じでは、鉄の鎧ではなく、なんというか思ったより軽装な兵だなと思った。
「こんにちは。わたしは旅をしてるアリスって言います」
「旅……嬢ちゃん一人でか?」
「はいそうです」
そう答えると驚いた顔をする門番? さん。というか、今更だけどこの見た目ってどうしても旅をしてるようには見えないか。まあ、この服は特殊な装備だって事で……。
「腕には自信があるので、自衛くらいは余裕ですよ」
そう言うのと同時にワンダーデスサイズを見せつけるように持ち上げて見せる。
「お、おう……いや、そんな大きな鎌をいとも容易く持ってるから、疑ってはなかったが……」
「そうですか」
「おっとすまん。俺の名前はギル。一応この村の警備隊をしてる者だ」
「ギルさん、ですか。よろしくお願いします。村の中って入れますか?」
「おう、問題ないぜ。ようこそ、アルタ村へ、歓迎するぜ、旅人さんよ」
どううやら良くある身分証が必要ということは無さそうだ。それは村だからなのか、この世界はそういうものなのかは分からないけど……。
「お、そうだ。一応だが、この村の奥に冒険者組合の建物があるから、もし良かったら寄ってくれ」
最後にそれだけ言い残し、ギルさんはまた門番の仕事に戻っていった。
良いことを聞いた。やはり冒険者なるものがあるみたいだけど、こっちでは冒険者組合って言われてるのか。
お約束なら村とかには無いイメージだけど、ここにはあるみたい。まあ、規模的にはそこそこな村だからなのだろうか。
とりあえず、組合とやらに行って換金できるか確認してこようかな。あとはそこで冒険者登録でもすれば良いかな。
奥ってことは、この比較的大きな道を歩いてけば良いのかな。比較的静かではあるが、それでも人は結構いる。親と一緒に歩いている子供や、子供だけで遊んでる子たちなどなど。
一言でいえば和やかな村、だろうか。空気は悪くなく、自然に囲まれてるから澄んでるよう気さえする。
そうこう歩いていると、ちょっと大きめな建物が目に入る。一階建てだけど、形は他の家とは異なり、某ゲームでいうなら豆腐ハウス? ちょっと失礼かもしれない。
でもまあ、四角いのは間違いなく、そんな建物があった。剣が交差してるようなエンブレムがついてるので、何かの組織? なのかな。
「ここが冒険者組合かな?」
思い当たるのはさっきギルさんに言われた冒険者組合。それならここで換金できるかな?
「まあ、入れば分かるかな」
それで違う所だったらそのまま静かに立ち去ろうか。そう決めてわたしは建物の中へと足を踏み入れたのだった。
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