Act.3


 理想のキャラ”アリス”になって異世界に飛ばされてから大体、一週間とちょっとが経過した頃。

 その間に内装とかももう少しきちんとしたり、食料とかを保管する為の保管庫とかを作ったり、魔法を色々と試したりなど、していた。


 勿論、ベッドは作ったし、夜は寝るようにしてるよ。

 後ログハウスの周りを鉄柵で囲んでいるけど、そこまで高くないので飛び越えて来るとちょっと困るかも知れない。といっても、今の自分の身長くらいの高さはあるけど。


 そうそう鏡を作ったんだよ。そこで漸く今の自分の姿をはっきりと認識できた。一言で言ったらやばいです、まじで理想の子でした。

 ナルシストじゃないよ?


 で、やっぱりだがわたしはアリスとなっていた。

 水色のワンピースに白いエプロンドレス、縞々模様のニーハイにシンプルな茶色の革靴、頭には黒のリボンカチューシャ、アクセサリとして首からはチェーンで繋がれた懐中時計。

 鏡のお陰で完全に理解できた。

 肌の色はやはり病的に白く、あの時は見れなかったが目の色は綺麗な青色。そして銀色の長髪に、整った顔。非常に可愛らしい物だったよ!!

 正にあの白い空間で作った銀髪碧眼の不思議の国のアリス風な女の子だった。黒い鎌を持ってみるとミスマッチ感がたまらなかった。

 何というか……大きな黒い鎌を持ったアリスは、不思議の国というより死神の国のアリスみたいな感じだった。


 他にもログハウスの周辺を探索していたが、こっちにバリバリ敵意むき出しな生命体が襲ってきた事もある。鎌で一振りするだけで絶命したので、あまり強くなかったのかな?

 その敵……ファンタジーとかで言われる魔物? と仮称しようか……その時に遭遇したのは見た目が狼の大きな獣だった。ただし、毛の色が赤かったかな。5体くらい居たのだが、鎌だけで対応できちゃった。


 恐怖とかそんな物は一切感じなかった。体がそういう風になっているのか、単に自分の肝が座ってるだけなのか、分からない。

 獣とは言え、生き物を殺したにも関わらず、わたし自身は非常に冷静だったし。あるよりはマシだから、良いんだが。


 その後も割と驚きが多い。

 狼の肉って食べれるのかな、と思い持ち帰った所で解体作業をしたのだが、普通にできてしまった。

 当然ながらわたしに解体の経験など無い。それなら何故難なく、出来てしまったのか。それは分からないけど、何となく能力記入の所で解体とか、それに近い何かを書いたのかも知れないと思ってる。

 前にも言った通り、あの白い空間でわたしが書いた能力を全ては覚えてないのだ。書きたい放題してたのは確かだと思う。


 それで狼の肉なんだけど、解体した肉を焼いて食べて感じでは美味だった。味付けすれば更に美味しいと思う。

 火属性魔法は使えないので、創造魔法でカセットコンロとカセットガスを作って、その上にフライパンを置いて肉を焼いてみたが、問題無さそうだった。

 一応このカセットコンロは台所に二つ置いてある。カセットガスもいくつか作って保管もしてる。取り扱いはちょっと注意せねば。


 そんな訳で今に至る。


「ふう……」


 屋根裏部屋に設置したイスに座り、コーヒーを飲んで一息つく。

 コーヒーは砂糖なしのブラックなのだが”アリス”でも普通に飲めるっぽい。大体、女性って甘い物が好きな気がするけど……偏見かな。

 地球でもブラックコーヒーは割と飲んでいたし、それの影響もあるのかもしれない。でもこういうのって体の方に味覚が引っ張られて飲めなくなるとか、良くあるのだが。

 ……いやこれも、ノベルとかの偏見かもしれん。


 生活の基盤は整ったと思う。

 ただ、まだ一つだけ作れてない物があって、それがお風呂なのだが……。


 え? 今まで一回も入ってないのかって? 無いから入ってないに決まってるじゃないか。汚くないって? 光属性の魔法に浄化っていうのがあって、それを使えば体のよごれは落とせるのだ。

 ただ、この魔法っていうのは本当は悪霊とかの敵に対して使う魔法なのだが、人間とかに使う場合はけがれを浄化してくれる。


 浄化の魔法については完全に最初はイメージだったんだよね。この世界についてはまだ理解してないし……光ならそういうのも有るんじゃないかって思ったのがきっかけで分かった魔法。

 やはり光属性というのはそういった、浄化とか回復とか、そういうのが多いみたい。イメージ通りである。


 で。

 そんな浄化の魔法のお陰で風呂に入らなくても清潔さは一応保てているのだが、やはり風呂に入りたいっていう気持ちは強い。

 何で作ってないのか。水魔法が使えなくとも、創造魔法でお湯を生み出せるし、更にそれでお風呂を作ることも出来る。

 そこは問題ないのだが、要は心の問題なのだ。今の自分はアリスとなっている。元は男だった訳で、風呂に入るなら裸になるのは必然。


 童貞であるわたしが、理想の少女の裸を見る……いや自分なんだけどね? やっぱりこう、心の準備が、ね。


「ぐぬぬ」


 でもやっぱり入りたいよね。

 そんな事をかれこれ一週間以上、頭の中で煩悶はんもんしていたのだ。髪の毛も長いので上手く洗えるかも心配なのだ。

 まあ、髪の毛だけ浄化するっていうのもまた手の一つである。折角の理想のキャラなのでこの長髪は切りたくはない。


「はあ」


 観念しようかな。

 風呂に入りたいっていう気持ちは強いので、もう観念した方が楽な気もする。少女となってしまったとは言え、これは自分の体だし、早い内に慣れる必要もあるだろうし。

 出来る限り避けたいけど、避けられず一緒に風呂に入らされてしまうという事が起きなくもないだろう。人里には行くつもりであるし。


「作るか」


 一階に小さな風呂なら作れるくらいのスペースが有るので、そこに作ることにするか。今飲んでるコーヒーを全部飲み干した後、一階へと移動した。




 イメージするのはマンションとか、ホテルとかの個室にある小さいバスタブだ。あれくらいのサイズならこのスペースに収まるはず。

 一応、気持ち洗面所的な場所を作っていたので、そこと兼用しようかと。洗面台とは言え、鏡と水溜場くらいしか無いけど。


創造クリエイション――<バスタブ>」


 魔力が抜ける感覚と同時に、白くそして淡く光を放ち、イメージ通りのバスタブが誕生する。一人なら結構余裕がありそうな大きさ。

 洗面台と風呂場を区切るドアも設置して、後は適当に風呂場っぽい小物を作って完成である。


 水というかお湯は創造魔法で作れるので、大丈夫かな。


「……よし」


 風呂場は完成した。後はお湯を張って入るだけなのだが、やはり少し緊張してくる。でもいつまでもそうしたって何も始まらないので意を決して、風呂に入ることにするのだった。



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