四章 獅子騙し/怒れた吸血鬼 その9
「あっ、キャッ! …うう、お尻打っちゃいました。」
幸灯は起き上がってお尻をさすった。暗闇が彼女を包み込む。
「ここは…どこかしら?」
「ガルルルル!」
「えっ。」
幸灯のことを黄色い瞳が睨んだ。
(百獣の王! ら、ライオン⁉︎ どどど、どうしましょう⁉︎ た、食べられちゃいます⁉︎)
幸灯は泥棒修行してた時の括正との会話を思い出す。
「括正は吸血鬼になったら、どんな獣にもイチコロなんですかね?」
「すぐには無理だよ〜。獣は子供の頃から生き残るため食べるために親に養わながら鍛えられてるからね。戦い慣れている僕でもきついかな〜。」
(って言ってましたから、貧弱な私じゃ絶対無理です〜。あの男それをわかってこの牢にぶち込んだんです。ひどい!)
「ガーッ!」
ライオンは幸灯に向かって飛び掛かった。
「キャー!」
ビュッ。
ドーン!
獅子は壁にぶつかる。
(……何が起きたの? ライオンが狙いを外した。いいえ、私がかわしたんですね。体が獣に飛びかかれる感覚を覚えていて、無意識に動いたんですね。)
「ライガーさん、あなたのこと正直苦手ですけど、ありがとうございます。」
「ヘックション!」
海を超えて、国を何度か越えた場所でライガーがくしゃみをした。
「夏の火山地帯にいるのに、何故だかお鼻がカイカイからの停止不可の空気砲! んん〜謎が過ぎるぜ、フォーミー! そんなことより溶岩斬りたい、この頃よ。」
東武国の幸灯に戻る。
(意識的に予測してかわせるようになりました。ライオンさんもだいぶ動きに鈍りが視えて来ましたね〜。さて、どうしましょう〜。…私ったらいけない! 元々私動物と仲がよかったのですが、吸血鬼になって動物の言語が喋れるんでした! 確か人間だった頃に才あったことや繋がりがあったものを飛躍させるんでしたね。よぉーし…やってみます。)
「ガオガオ〜。ガオ〜♪(初めまして〜。仲良くしましょう〜♪)」
「ガオ⁉︎ ガオーン? (何⁉︎ お主、我が言葉を使えるのか?)」
ライオンは突然の幸灯からの挨拶に動揺した。ここから彼らの会話は人に通じる言葉のみの表記にする。
「(ええ、わかりますよー。私のこと食べたいですか〜?)」
「(……我の言葉を扱う者を食う気にはならん。)」
ライオンはそう言うと腰を下ろした。幸灯は少しずつ近づいた。
「(あなたは…いつからここにいるんですか? 寂しくなーい?)」
「(我はかつてサバンナを治める王だった。不覚にも美空なる吸血鬼に捕らえられてこの有り様。不覚。)」
「(ええ! 王様だったんですか⁉︎)」
「(左様。草食も肉食も均衡的に命を育んでいた良き国だった。)」
「(すごーい〜!)」
幸灯は目をキラキラさせた。
「(じゃあ私の大先輩ですね。)」
「(先輩?)」
「(私これでもいつか国を治めて女王になりたいんですよ〜。だから大先輩です。)」
「(ふふ、我はこうして敗北して牢の中。餌と罪人を喰って生き延びてる始末。誇れる先輩ではない。)」
「(そんなことないですよ。恥を明かせるのは結構かっこいいですよ。それにあなたに出逢えて最初は怖かったですけど、感謝してます)」
ライオンは少し嬉しそうに微笑んだ。
「(お主、名前は?)」
「(幸灯です。ライオンさんには名前があるの?)」
「(我の名はランスロット。…未来の女王よ、かつて王だったこの憐れな獅子と同盟を組まぬか?)」
「(…目的は?)」
「(我はこの地獄を抜け出したい。だが美空なる吸血鬼がこの町をどう治めてるかを見世物として歩かされている時に理解できた。気に食わなければ殺し、重税を払わせ、まるで壁のない監獄。)」
「(そうですね。私も何度か新・裁きの村を訪れたんですけど、私より小さな子たちがひもじい思いをしていて見ててとても辛かったです。金やお米を何回ばら撒いても生活が改善される見込みがなくて悲しいんですよ〜。)」
「(ばら撒く? 未来の女王―幸灯よ。お主は何者ぞ。)」
「(大先輩のランスロットさんに何を隠しましょうか!)」
幸灯は片手で横ピースをしてから、荷物にあった猫のお面を被った。
「(金持ちから盗み、貧しきを助けるスーパースター! です。)」
「(そうかお主が…会えて光栄だ。我らならこの町を抜け出すなど簡単だ。だが美空を倒せば皆の地獄が終わる。どうだ?)」
幸灯は少し考え事をしてから、答える。
「(美空に勝てる見込みが…ありません。)」
「(お主は奴と同じ吸血鬼。勝ち目はある。共に我がお主に合った戦い方を模索しよう。お主は何ができる?)」
「(…かけっこ、裁縫、盗み、料理とかですかね?)」
「(裁縫? …それなら…)」
ランスロットは起き上がり、あるものを持ってきた。
「(布や服の切れがいっぱい?)」
「(この牢を掃除してくれる者はおらん。だが我は引き裂いて喰った者どもの服を一まとめにしていた。……すまないがこの服のかつての持ち主らの命を奪って喰ったことは後悔はしておらん。我も生きるために喰わねばならなかったからな。)」
「(ええ、まあライオンですから仕方ないですね。これ以上は触れないでおきます。)
「……役に立つか?)」
幸灯は少し考え込んだ。
「(なんとか武器に使えるかもです。)」
幸灯はそう言いながら、糸と針を荷物から取り出した。
「(私のこと、短期間で鍛えてくれませんか?)」
「(もちろんだ。)」
「(私の体には吸血鬼という祝福が宿っています…この力で私魔装服と魔装武器を作ってみます、その間に私をどう強くするか考えてください。)」
「(了解した。)」
ランスロットは返事をすると瞑想を始めた。対する幸灯は針と糸でピッ、シュ、ピッ、シュという音を立てながら、作業を始めた。彼女が魔力を出す度に道具と布からキラキラ〜っと光沢がこぼれては消えた。
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