ハルナ、ルドヴィルに送り込まれる

 いつの間にか窓から月はとっくに見えなくなって、代わりに外が白み始めた。

 私はすっかり冷めきったお茶を一息に飲み込んで、朝食の準備を始める。

 団長は結局帰って来なかった。

 絶対帰ってご飯食べるって約束したのに。


(そういえば、団長と一晩離れてたのは初めてかも)


 いつもなら日中いない事はあっても、必ず夕飯までには帰って来てたのに。

 たった一晩離れただけで、こんなに不安とか。


(団長、婿入り断りきれないのかも知れない……)


 団長は優しい。

 優しいから家族が困っていればきっと助けようとする。

 ここに来たのだって、お母様の実家を助けたいと来たんだもの。

 どうして私が選ばれるとか思えるんだろ。

 本当の事を言う勇気もないくせに。


「あーーっ、やめやめ! 寝てないからこんな事考えちゃうのよ。コーヒー飲みたいっ!!!」


 自分に気合いを入れるように、精一杯の虚勢を張った。

 いつも徹夜明けにはシアトル系コーヒーチェーン店の濃いコーヒーで目を覚ますのが最高のご馳走でご褒美だったので、味を思い出して少し恋しくなる。

 こんなに“らしくない”私、絶対ダメ。好きな人どころか幸運の神さまだって助けて笑いかけてくれない。

 残念ながらこちらにはコーヒーはないので、私は眠気覚ましに魔力水をちょっとだけ飲んで、キッチンに向かい、しなしなポテトも固くなった塩豚もまとめて刻んで今朝のオムレツの具にした。


 ※ ※ ※


 ゴージャス★オムレツを食べたみんなは各々お仕事や見回りに行くはずなんだけど、今日は何故かみんな塔にいて、妙にピリピリしていた。

 ルドヴィルさんは朝食後、団長の執務室にこもりっぱなしで何やらお仕事中。

 私はルドヴィルさんがいいと言うまで、に塔から出るなと言われてるので、お洗濯をし、作り置きを増やし、資料室で書類整理をしていた。

 魔力水の量が足りなかったのか、書類整理が非常に眠い。

 半分うとうとしながら片付けていたら、シルヴァン君が呼びに来た。


「ハルナ、ルドヴィルがちょっと来てって!」


 ありゃ、何だろ?

 私は目をこすりながら椅子から立って、シルヴァン君の後をついて行ったら、ルドヴィルさんは団長のデスクの前にいた。


「ああ、ハルナさん。ちょっとここに立って下さい」


 ルドヴィルさんはデスクの前を指差して、私を立たせる。

 足元には魔法陣ぽい模様の入った風呂敷サイズの布地があった。

 これが転移陣とかいうやつかな。

 出店を出した時の荷物の移動に使ったやつと模様が似ている。


「ねぇ、ルドヴィルさん。これって……」

「ご推察の通り、これは王宮行きの転移陣です。お一人様限定の片道です。ああこちら、団長と一緒に読んで下さい」


 どうぞ、とルドヴィルさんは私に封筒を握らせ、しゃがみこんだ。


「えっ? ちょっ!! ルドヴィルさん!?」


 ルドヴィルさんは膝をつき、布の端っこを掴んで魔力を流すと、私の体がふわりと少し浮いて、真っ白な光に包まれた。


「じゃ、いってらっしゃい。団長の事、よろしくお願いしますね」


 光の中でルドヴィルさんの声しか聞こえないまま見えない手で、私はどこかに運ばれて行った。

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