第38話 レッドドラゴン襲来1

 ルンルンのセクハラっぽい鎧の微調整に、たっぷり三十分程時間を掛けられながら、ピッタリサイズに調整してもらった。アイスアーマーはそこまで重さを感じさせず、かなり動きやすい鎧だった。これなら、戦闘時にも影響はなさそうだ。


「実は付与魔法で、鎧を軽くしているのよ。つまり、この『アイスアーマー』は火属性耐性と二種類の属性付与を組み込んでいるの」


「そんなことできるんですか?」


「もちろん、この鎧がはじめてよ。だからまだ内緒にしておいてね、ルークちゃん」


「は、はい。かしこまりました」


 一つの武具に複数の属性付与を組み込むとか、やはり上級召喚師、そして最高の付与術師だ。


「それにしても、ちょっと外が騒がしいわね。何かあったのかしら?」


 そういえば、さっきから外から叫び声やら、ドタバタと走り回るような足音が聞こえてきている。


「お店の前で喧嘩とかやめてほしいのだけど……」


 ルンルンと一緒にお店の前に行ってみると、いつの間にか外に出ていたみんなが、顔を上に向けて空を見ていた。


 空に何かいるのだろうか? 上空を見ると、何やら優雅に街の上を飛び回る赤い物体がいた。大きな翼をゆっくりと羽ばたかせながら、時折鋭い眼光で睨みを効かせている。


「レッドドラゴン!?」

「ルーク、レッドドラゴンが現れたの!」


 どうやら、本物のレッドドラゴンさんが街の上空に現れてしまったらしい。


「ちょっとー、サバチャイさん屋根から降りてもらえなーい?」


 魔法具店の屋根の上にサバチャイさんが登っていて、細い目をさらに細くしてドラゴンを眺めている。


「あ、あの、サバチャイさん、そんなとこ登ってたら目立って、レッドドラゴンの攻撃目標にされちゃいますよ!」


「サバチャイ知ってる。ドラゴンにお願いすると願いを叶えてくれるね」


 そんな話は聞いたことがない。とにかく、街は大騒ぎで人々が逃げ惑うようにしているし、隣にいるシャーロット様は何かを決心したような表情でレッドドラゴンを見つめている。


「サバチャイさん、それは球を七個集めるやつだよな? あの飛んでるやつは赤いドラゴンだから違うんじゃねぇか」


 よくわからないが、ポリスマンも願いを叶えるドラゴンの噂を知っているようだ。


 しかしながら、僕の知ってるレッドドラゴンはドラゴン種の中でも、もっとも凶暴であり一度目の前に現れたら、その食欲が満たされるまでは暴れ続けるヤバいやつだ。


 レッドドラゴンは、日々の暮しで食事をとることがないと言われている。食料より魔力の摂取の方が大事とか。その為、必要な魔力を取り込める神聖な山などに巣を作り、基本的にはその場所から動かない。


「レッドドラゴンが街に来たということは、お腹を空かせているということよね……」


 シャルの言う通り、数十年振りに自身のお腹が満足するまで、食べ尽くすつもりなのだろう。どうやら運悪く、レッドドラゴンの標的にされてしまったのがこの街らしい。


 こうなると、僕たちに残された道はレッドドラゴンが満足するまで逃げ回るか、隠れるかの二択しか残されていない。


「シャル、この辺りで頑丈な建物は魔法学園か公爵様のお屋敷かな」


「そうですね。迎え撃つなら、広い公爵家が最適でしょう」


 ち、違う! 逃げる場所を聞いていたはずなのに、いつの間にか戦う流れになっている。いや、シャルにしてみれば、レッドドラゴン討伐は悲願なのだろうけども……。


「本当に討伐するつもりですか? 相手はレッドドラゴンなんですよ」


「さすがに私も討伐を出来るとは思っていません。私が求めるのはレッドドラゴンの牙。ほんの少しだけでも削りとれればいいの」


 シャルの目が手伝ってくれる? 的な目をしているが、直接お願いはしてこない。死ぬかもしれないことに巻き込むかもしれないのだから当たり前だろう。


 運良くなのか、運悪くなのか、僕には『アイスアーマー』が装備されている。ただの人よりも、少しは死ににくいかもしれない。ルンルンの鎧を信じてみようか……。


「わかった。僕もシャルを手伝うよ。サバチャイさんとポリスマンもいいかな?」


「願いを叶えるのはサバチャイよ!」

「まぁ、こっちで死んでも死なないんだもんな。とりあえず拳銃で手伝ってやるよ」


「みなさん、ありがとうございます。フィオレロはチャップルンンさん達を連れて魔法学園へ。私たちは公爵家でレッドドラゴンを迎え撃ちます」


「じゃあ、行動開始だね!」

「みなさま、お気をつけて」

「ルークちゃん、一回はファイアブレス受けるのよ!」


 試作品をいきなりレッドドラゴンで試すのは、頭悪いとしか思えないんだけど、そうも言ってられる状況ではなさそうだ。


 レッドドラゴンは悠々と街の上空を飛びながら、どこから襲おうかと狙いを定めているように思える。降下してくる前に急いだ方がいい。


「公爵家に着いたら、水魔法で攻撃して呼び寄せます」


「その後は、僕とポリスマンで拳銃攻撃ですね」


「牙のある口元に狙いを定めて攻撃お願いしますわ。あと、念のためにタマちゃんの召喚もお願いします」


「わかりました。シャルは僕とタマの後ろにいてください」


「……そうね。そうさせてもらうわ」


 それにしても、あの巨体がどうやって宙に浮くのか不思議でならない。体長三十メートルを超えると思われるずっしりとした体格。鱗はキラキラと光り、まるで宝石のように輝いている。


「サバチャイ、何のお願いするかまだ決めかねてるよ。どうしよう、ルーク」


 知らんがな……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る