第34話 チャップルン魔法具店

「あっ、いらっしゃいませー、って、う、うぇー! シャ、シャーロット様!?」


「ごきげんよう、リリィ。チャップルンさんはいらっしゃるかしら?」


「お、おります! 全然おります! 少々お待ちくださいませー!」


 やはり、公爵家の人間が直接お店にやって来ることはないのだろう。お手伝いさんっぽいリリィと呼ばれた女の子は、慌てながらで店の奥へと走り去っていった。


 店の奥では物がひっくり返るような音と、リリィちゃんの謝罪の声が聞こえてくるので、相当に驚かせてしまったようだ。


「あっらー、シャーロットちゃんたらー、お店に来るなんて珍しいわねぇ」


 そして、店の奥から出てきたのは、筋肉隆々のオネエだった。ファッションセンスも奇抜で、基本的にピンク系のフリルを大胆に活用している超攻撃的なスタンスだ。


「お久し振りです、チャップルンさん。ご紹介しますわ。こちら私の友達でルークよ」


「ふーん、シャーロットちゃんの友達ね。ルークちゃん、よろしくー。うちのお店は基本的に一見さんお断りの紹介制なの。今回はシャーロットちゃんの紹介だから大丈夫よ。今後はいつ来てもいいわ。ルークちゃんなら、いっぱいサービスしちゃうかも。ふふっ」


 キャー、ウソよー。恥ずかしいじゃなーい。と騒ぎながら僕の体を触りまくってくるチャップルンさん。完全にセクハラ案件なんだけど、性別が男なので、きっと僕が訴えても取り合ってもらえないのだろう。


「それで、そちらの不思議な格好したお兄さん達は?」


「こちらはサバチャイさんにポリスマン。チャップルンさんには、この収納バッグの登録者を公爵家からルークとサバチャイさんに変更してもらいたいの」


「シャーロットちゃん、正気なの? 一体そのバッグがどのくらい価値のあるものなのか知ってるわよね」


「ええ、フィオレロ見せてあげて」


「はい、シャーロット様。どうぞ、チャップルン様」


「ファック!? えーっと、これはどういうことなのかしら?」


 目の前には、公爵家の収納バッグがあるのだけど、全く同じ物が二つあるのだ。それはオネエでも驚く案件であろう。


 驚いたものの、すぐに収納バッグを調べ始めるチャップルンさん。何度もチェックを繰り返しては、額から汗を流している。それぐらいあってはならないことが、目の前で起きているのだ。


「チャップルンさん、この収納バッグは分裂した同じ物よ。一つはルークとサバチャイさんに登録変更をお願いしたいのだけどいいかしら?」


「ほ、方法は? この収納バッグが分裂した方法を教えてっ!」


 魔法具店で働く者からしたら、喉から手が出るくらいに欲しい情報だろう。もちろん、話すつもりはないし、サバチャイさんとポリスマンには分身も解除してもらっている。


「残念だけど、話すことは出来ないわ。それに、今後収納バッグが大量に流出するようなことはないから安心して」


「ご、ごめんなさいね。私としたことがシャーロット様を前にして取り乱しちゃったわ。取り乱す時は殿方と一緒の時と決めていたのに、もう、悔しいわ」


 そういって、僕に向かってウインクしてくるのはやめてほしい。


「それで、登録はすぐに終わりますか?」


「ええ大丈夫よ、ルークちゃん。リリィ、私の道具箱を持ってきなさい」


「は、はい、親方!」


「親方じゃないわ、ルンルンって呼びなさいって、何度言ったらわかるの!」


「……わ、わかりました、ルンルン」


 これが、職場内におけるパワハラというやつなのだろう。すぐに死んだ目をしたリリィちゃんが古びた道具箱を持ってきた。


「さてと、一応確認するけどこの収納バッグはどちらも全く同じものなのね?」


「えぇ、そうよ」


「わかったわ。では、登録者の変更をする前に、今までの登録者を削除するわね」


 収納バッグの内側に縫い込まれている魔方陣に干渉するように、チャップルンさんはかわいらしく自らの魔法の杖にキスをすると魔法を発動してみせた。おそらくだが、キスに意味はないものと思われる。


「よしっと、それじゃあ登録する二人はこの魔方陣に魔力を送り込んでちょーだい」


 魔力を注ぎこむと、魔方陣は一瞬光り輝くとすぐに元通りとなった。これで登録が完了したということなのか。


「サバチャイさんも魔力を」


「ルーク、サバチャイいきなり魔力を注いでとか言われても困るね。そもそもサバチャイに魔力あるの?」


 サバチャイさんの世界では魔法とか召喚獣が存在しないと言っていた。つまり、魔法に慣れ親しんで生きてきた訳ではないので、戸惑う気持ちはわからなくはない。


 しかし、僕にはサバチャイさんに魔力があるのかとか聞かれても判断が出来ないのだ。


「サバチャイさんは魔力がありますよ」


「ほ、本当ね。白い姉ちゃん!」


「ええ。ルークと同じように美しい魔力が見えるわ」


 そういえば、召喚の儀式の時にもシャルはそのようなことを言っていた気がする。


「シャルは魔力が見えるの?」


 少し考えるような素振りをしてから、ゆっくりと頷いてみせる。


「ええ。私は小さい頃から人の魔力をオーラのように感じたり見えることがあるの。ルークの魔力は私と同じ綺麗な虹色だし、フィオレロのは薄い緑色に見えるわ」


「同じ虹色、それって……」


「そうね。召喚の儀式でわかったのだけど、おそらく虹色のオーラは、上級召喚獣と契約している、もしくは出来る可能性がある色なのだと思うわ」


「とりあえず、白い姉ちゃんがスピリチュアルなのはわかったけど、サバチャイに早く登録させてもらいたいね」


 わかってはいたけど、やはり空気を読めないバングラデシュ人。でも、オーラによって高位の召喚師を判別出来るのなら優れた治癒術師を探すことも可能になるのではないだろうか。

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