第23話 冒険者ギルド
僕にとって、長くて濃い一日がようやく終わろうとしていた。あの後、なんだかんだ解散することになって僕は自分の家に戻っている。
夕食を誘われたんだけど、さすがに遠慮させてもらった。いくらなんでも初日からシャーロット様のご家族と一緒に食事とか僕には無理。丁重にお断りさせて頂いた。
その代わりに、明日は四人で冒険者ギルドに行くことになってしまったのだけど……。
明日は休息日なので、基本的には学園もお休みになる。とはいっても、生徒は学園の闘技場で訓練したり、冒険者ギルドで実戦経験を積んだりとその行動は様々だ。高位貴族や僕のような商人の息子はギルドではなく、安全に学園で練習することが多いはずなんだけど……。
「遅かれ早かれ、ギルド登録をしなければならないもの」
「そ、そうなの?」
「はい、ルーク様。魔法学園では前期に課外授業が組み込まれております。それまでにギルドで登録をしておく必要があるのです。ルーク様もよかったら一緒に登録しませんか?」
なるほど、確かに召喚獣を扱うようになるのだから僕も遅かれ早かれギルドでの登録は済ませておいた方がいいだろう。
「課外授業では、ギルドのクエストをいくつか消化しなければならないの。私とフィオレロは従者登録をしているから同じクラスになるし、今のうちにパーティを組んでおこうと思って。ルークも一緒にパーティメンバーになりませんか?」
なるほど、魔法学園には従者申請なんていうものがあるのか。確かにそうでなければ学園内でシャーロット様のお世話をすることは出来なくなってしまうのか。
「あれっ、僕がシャルと同じパーティに!? で、でも、僕は学園の生徒ではないですし」
「休息日の時に一緒にクエストをしませんか?」
そんな小首を傾げるような可愛らしいお誘いを商人の息子が断れるわけない。
「ちなみに、私はシャルと違って従者とか面倒だから家の中だけにしているわ」
「そうだったんですね。それにしても、シャルもジゼル様も同じパーティでいいのですか?」
「もちろん。私たちは友達ですもの」
「ジゼルでいいわよ。私は一応、仮登録という感じで。キースとパーティを組みたいから、とりあえずキース次第かなー」
キース・ザンブルグ。もう一人の要注意人物であり、ザンブルグ辺境伯家の長男。父親譲りのルックスで美男子としても名高い。また、父親から小さい頃より相当鍛えられており、武人としての評価も高いそうだ。
「は、はい。では、よろしくお願いします」
テオ様、キース様、そしてシャーロット様とジゼル様。この四名は高位貴族でありながら歳が同じということもあり、小さい頃から一緒に遊ぶ機会も多かったという。
流れ的に、キース様とも近くお知り合いになるのだろうとは、僕もすでにあきらめている。
※※※
自室のベッドの上で横になりながら、今日一日のことを振り返ってみる。奇跡的に上級召喚獣を呼び出してしまったこと。そして、その召喚獣のめちゃくちゃな異常さ。正直、ちゃんとやっていけるのか、とても不安にさせられる。
「このペンダントでサバチャイさんを呼べるのか……」
僕の首には紅い石のペンダントが掛かっている。吸い込まれるような深紅に染まった石は、どこか高貴に見えて、その小さなサイズのわりに妙な重厚さを感じさせた。
「何だろう、本当に濃い一日だったな」
父や兄に今日起きたことを話しても、きっと信じてもらえないだろうな。それでもシャーロット様やジゼル様と知り合ったことは、きっと喜んでくれるだろう。今後の商売に繋がるかどうかは僕次第なんだけども。いや、繋がらないな。求められる規模が違いすぎて、きっと話にならない。
あ、あと、グランデール家のテオ様と仲が悪くなってしまったことを知ったら、父は寝込んでしまうかもしれない。どちらにしろ、報告はもう少し待ってからでいいか……。まだ僕自身頭の中が混乱しているのだから。
※※※
そうして翌朝、冒険者ギルドへと向かった。貴族のご令嬢を待たせて商人の息子が遅刻するとかありえないからね。
ちなみに僕が知っているギルドと言えば商業ギルドになるので、もっと街の中央に位置しているし、どちらかというと身なりの綺麗な人達が出入りしているイメージがある。
しかしながら今、僕の目の前にあるギルドは古くて大きな二階建ての建物。重厚な扉はそれなりに歴史を感じさせる。場所は街の入口付近にあり、外郭部に一際大きな存在感をみせているのが冒険者ギルドだ。
「何だか、顔の怖い人が多いのは気のせいじゃないよね」
みんなを待たせてはいけないと、少し早めに到着したのはいいんだけど、厳つい顔の冒険者のおじさん達がジロジロと邪魔くさそうに見てくる。あからさまに絡んでくることはなさそうだけど、どうも良い印象を持たれていないらしい。
「ルーク、早かったのね。待たせちゃったかしら?」
よ、よかった。シャーロット様とフィオレロさんが来てくれた。このお嬢様然としたシャーロット様を見れば、いくら冒険者の人達といえども絡んでくることはないだろう。
自由な冒険者でも、貴族に逆らうことが何を意味するかを理解していない者はいないはずだ。
「ジゼルは?」
「一応、声を掛けてきたのだけど、あの子って朝に弱いのよね。先に登録を進めていていいわって」
冒険者も自由だけど、ジゼル様も負けずに自由らしい。性格的なものもあるんだろうけど、一般的な貴族とは少しイメージが違うように思える。従者をつけないあたりとか、どこか窮屈に感じているのかもしれない。
「それにしても、朝はやっぱり混むわね」
「新しいクエストが貼り出されるからですよね」
「命を懸けているのですから、少しでも安全で、且つ、お金のいいものを選びたいのでしょう。登録が終わったら、ジゼルを待って簡単なクエストを受注したいわ」
ピリピリしていたのは、新しいクエストが貼り出される前だったからなのかもしれない。駆け出しの商人の息子如きに、割りのいい簡単なクエストを取られたくないとでも思っていたのだろうか。
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