第20話 フィオレロと一角ウサギ
「あっ、僕がルークです。タオルを持ってきてくれたのですね。ありがとうございます」
「はい。存じ上げております。そちらが上級召喚獣のサバチャイ様ですね」
確か、学園でシャーロット様の側でよく見かけた人だ。学園の制服からメイド服に変わっただけで印象はガラリと変わる。
おそらく、側仕えとして公爵家でも学園でも常に近くにいて、シャーロット様を支えているのだろう。
「初めまして、私はシャーロット様の侍従でフィオレロと申します」
そう言ってタオルを渡してくれたフィオレロさんは、茶色の髪の毛を両脇に結んでおろしている落ち着いた雰囲気の女の子だ。
「茶色の姉ちゃん、よろしくね」
「はい、サバチャイ様。よろしくお願いいたします」
「フィオレロさんは、学園の生徒さんですよね?」
「ご存知でございましたか。実はルーク様の召喚の後に、こっそりと一角ウサギと契約をしました。今日の訓練もお仕事が終わったら、ご一緒させていただくつもりでございました」
おー、麗しの一角ウサギ。愛らしさナンバーワンの呼び声高い人気の下級召喚獣だ。
「そうだったんですね。それは是非、一角ウサギを見てみたいです!」
「ただの下級召喚獣ですよ?」
「とっても愛くるしい召喚獣じゃないですか。僕は一角ウサギを召喚したかったんですよ」
「下級召喚獣を召喚したかったなんて、ルーク様は変わった方なのですね」
「ちょっと待つね! サバチャイという最高峰の召喚獣を差し置いて、ウサギを召喚したかったと言ったかルーク」
「い、いや、もちろんサバチャイさんが、嫌という訳ではなくてですね、一角ウサギってモフッとしてて可愛らしいんですよ」
「おいっ、茶色の姉ちゃん! サバチャイと勝負ね。早くその愛玩ウサギを出すといいよ! パクチーで叩きまくってやるね!」
フィオレロさんが困った表情を浮かべているが、元々訓練をするつもりだったこともあり、一応、一角ウサギを召喚してくれた。
「うーん、そうですね。あんまり、いじめないでくださいよ。一角ウサギ召喚!」
眩い光とともに現れたのは、茶色い毛をした一角ウサギ。角だけは鋭く、刺されたらとても痛そう。あとは、つぶらな瞳にふわっふわっの毛並みと可愛らしい口もと。
ふとサバチャイさんを見つけると、ピョンピョンと近寄っていく。見た目に反して好戦的なようだ。遠くでは新たに現れた召喚獣にタマがシャーシャーと威嚇をしている。うん、しばらくは戻ってこなそうだね。
「自ら殺されにくるとは殊勝な心掛けね。くたばるねっ!」
振り回したパクチーを一角ウサギに叩きつけるサバチャイさん。そして、パクチーを迎え撃つ構えの一角ウサギ。その二つが交差した時、パクチーを一房だけ咥えた一角ウサギが端っこの方へ走っていった。
「は、早い。さすが一角ウサギですね」
「その分、スタミナはあまり多くはないのですけどね」
「ふんっ、サバチャイに恐れをなしてあっさり逃げ出したか」
一角ウサギは壁際の安全な場所を確保すると、おもむろに口に咥えていたパクチーを食べはじめた。
どうやら、狙いは最初からパクチーだったようだ。
「……さすが草食動物。あの強烈な臭いの香草を食べるのか」
「い、いや、ダメだったようです。呑み込めずに吐き出していますね」
一角ウサギは、物凄く気だるげな表情で気持ち悪そうにしていた。愛らしい表情から一転、不快なおっさんの表情をみせる。
「一角ウサギ、……あんな顔もするんですね」
「そ、そうですね。よほど口に合わなかったのでしょう」
「おいっ、愛玩ウサギ! サバチャイのパクチーを勝手に盗み食いしておきながら、その表情は一体何ね?」
「一角ウサギ、スピードアップよ」
フィオレロさんが、風属性の一般的な魔法であるスピード強化の補助魔法を唱えた。これで、一角ウサギのスピードが上がる。
これでステータスの上がったサバチャイさんでも、捉えるのは難しくなってしまった。
「ちょこまかと動きだけは一人前ね! その動きなら、サバチャイの店で店員として雇ってあげなくもないよ」
確かに素早いが、目で追えないほどではない。一角ウサギで気をつけなければならないのは角のみ。つまり、角と向かい合わなければ攻撃を受けることはない。
「うーん、やっぱり、ここから攻めあぐねてしまいますね。私が攻撃魔法を覚えれば、もう少しマシになるのかもしれませんが」
ここで、サバチャイさんが動いた。おそらく、黙って見ていれば一角ウサギのスタミナ切れで自ずと勝利は転がりこんでくるわけなのだけど。何か考えがあるのだろう。ここは、様子見だ。
「目には目を。愛玩動物には愛玩動物ね!」
いつの間にかタマに近づいていたサバチャイさんは、その首を掴むとおもむろに振りかぶって、一角ウサギに投げつけたのだった。
フシャァァァァー!!!!
自分の召喚獣だというのに。サバチャイさん、タマに対して容赦ない。
「こ、これは酷い」
「ちょっと予想外すぎますね」
しかし、本当に予想外だったのはその後の出来事だった。
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