第3話 テオ様の召喚獣

「緊張してるの?」


「それはもうドキドキですよ。シャーロット様は落ち着いていらっしゃるのですね」


「シャルでいいわ。うーん、敬語はすぐには難しそうだから、名前ぐらいは愛称で呼んでもらわないとね」


「マ、マジですか」


「マジよ」


「わ、わかりました。シ、シャル……」


 僕が勇気を振り絞って愛称で呼ぶと、シャーロット様はとても満足気に、前方の魔方陣を見つめた。


「それにしても、ここの広さで上級召喚獣を呼んでしまったら、さすがに少し狭すぎないかしら」


「上級召喚獣ですか……」


 召喚獣には下級、中級、上級に大きく分類される。更には、それぞれレベルによってランク分けされているという話だ。


「うちは水の家系だから精霊様をお迎えしたいのだけど、もしも間違ってブルードラゴンを召喚してしまったら、ここではきっと狭すぎるもの」


「ド、ドラゴン」


 そんな話し声が聞こえたのだろう。学園の先生が不安に思うシャーロット様に説明をしてくれた。


「シャーロット様、ご安心ください。上級召喚獣はほとんどの場合、逆に呼び出されることになります。そして、大抵の場合において召喚主の資質が試されることになるという話です」


「資質が試される……ですか?」


「その者が上級召喚獣を持つに相応しい人間かをでございます」


 どうやら一般人には説明不要と思われる内容のため省いていたようだ。とはいえ事前に聞いていても、上級召喚獣によって試されるもの、話し合われることは様々なようなので、成功するも失敗するもかなり運が作用するらしい。


「なるほど、そういうことでしたのね。ならば、この場所が狭くても安心ですねルーク」


「いや、僕はここの広さは十分すぎると思っているんですけど」


「ルークの魔力は美しいと言ったじゃない。きっと高位の召喚獣を呼べると思うわ」


 ルークもと言うあたり、自分が高位の召喚獣を呼ぶことには微塵の疑いも持っていないのだろう。さすがはレイクルイーズ公爵家のご令嬢だ。


 それにしても魔力に美しいとかあるのかな? っていうか、見えないんだけど魔力。シャーロット様は不思議な眼でも持っているのだろうか。


「ふんっ! 商人の息子に高位の召喚獣など呼べる訳ないだろ。貴様には下級召喚獣の一角ウサギがお似合いだ」


 テオ様、まだいたのか。まあ、同じ魔方陣を使用するグループみたいなので近くにいるのはわかるのだけど、そんな言い方をすると余計にシャーロット様から嫌われるというのがわからないようだ。


「テオ、いい加減にして。これ以上ルークの悪口を言うのなら、私にも考えがあるわ」


「な、なんだよ。俺は一般的な話をしてるだけじゃねぇか。別にそいつのことを言った訳じゃねぇよ」


 シャーロット様の考えとやらを聞くのも怖い気がするけど、テオ様の言い訳も随分と子供じみている。高位の貴族といっても、僕たちとそこまで変わらないのかもしれない。


「ふ、ふははっ」


「き、貴様、何が可笑しい! お前はシャルの恐ろしさを知らないから笑っていられるのだ」


「テオ?」


「な、なんでもない……」


 シャーロット様が無表情で首を傾げているのは、何故だかとっても迫力があって、僕もテオ様も何も言えなくなってしまった。すると助け船なのか、学園の先生がテオ様を呼んでいた。


「テオ・グランデール様、魔方陣の前へ」


「お、おう。みてろよ商人。高位貴族の実力というのをみせてやろう」


 グランデール侯爵家は火属性に明るい家系だ。シャーロット様のように小さい頃から英才教育を受けているテオ様は周囲からの期待も大きい。


「……テオ様よ」


「こ、これは注目ですね……。中級召喚獣はかたいでしょう」


 周りの話し声が聞こえたのだろう。中級と聞いたテオ様は途端に不機嫌モード全開になっている。戻ってきたら面倒くさそうだ。頑張って上級召喚獣でも呼んで機嫌を直してもらいたい。


「魔方陣の光より呼ばれし者、封印されし場所より目覚めたまえ。わが魔力に反応せし召喚獣よ、今ここに姿を現し契約を結びたまえ」


 召喚魔法を唱え、魔力を注ぎ込むと魔力に反応した魔方陣がくるくると回りだし光とともに召喚獣が現れる。


 手に炎をまとった召喚獣。そして三メートルを超える巨体。形どる姿は熊。


「おおー、あれは中級召喚獣のファイアベアーじゃないか?」


「あの大きさは高レベルが期待できそうですね」


「さ、さすがテオ様!」


 どうやら上級召喚獣の召喚には失敗したらしい。しかしながら、ほとんどの生徒が下級召喚獣であることを思えばこれは快挙といえるだろう。隣の魔方陣からも多くの生徒の視線を独り占めだ。


 テオ様も最初こそ微妙な表情をしていたが、周りの雰囲気に気を良くしたのか持ち直したように思える。


「よ、よし、ファイアベアー契約だ」


「グウォー」


 呼応するように叫んだ熊さんは光に包まれると赤い指輪となりテオ様の指にはまってしまった。どうやらこれで契約が無事完了したらしい。


「さすがでございます、テオ・グランデール様」


「ふ、ふんっ、俺は上級召喚獣を呼びたかったんだ。もっと力を蓄えていつかこいつを上級に進化させてみせる!」


「そうでございますね。楽しみにお待ちしております。次はシャーロット・レイクルイーズ様


「はい」


 次はシャーロット様の番だ。周りが息を飲むのがわかるぐらい静まりかえった。今年度一番と言ってもいい高位貴族。水の名門レイクルイーズ公爵家のご令嬢。注目されない訳がない。


 この時ばかりは他の人も召喚を中断し、見学をする者がほとんどだ。やっぱりシャーロット様は別格らしい。

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