第3話 黒いカクテル

 けれどその日、いつもなら解散になるところを、二軒目の誘いがあった。


「真亜子ちゃん、今日この後まだ時間ある?」

「え? あ、はい」

「もう一軒行かない? この近くでいい感じのバー見つけたんだ」


 いつも居酒屋で飲むだけだったのに、バーなんて洒落た場所に誘われたら、断る理由などない。


「ほんとですか!? 行きたいです」

「じゃ、行こっか」


 今まで飲んでいた居酒屋から歩いて5分ほどの場所に、お洒落な看板を掲げたバーがあった。


「こんなバーあったんですね」

「ね。俺も知らなかったんだけど」


 薄暗い階段を地下に降りていくと、黒い鉄扉が姿を現した。

 透悟が開けてくれた鉄扉をくぐると、ワイングラスがたくさんぶら下がったバーカウンターが目に入る。


「カウンターでいい?」

「はい」


 透悟は真亜子に確認を取ってから、マスターに目で合図を送った。


「こちらどうぞ」


 感じのよさそうなマスターがカウンターを案内してくれた。


「こういう所、初めてだから緊張します……」

「俺も慣れてるわけじゃないけど」

 そう言って照れ臭そうに笑う透悟が、斜め下からの光でいつも以上にかっこよく見えた。


「僕はこの間のヤツ。真亜子ちゃんは、何か希望ある?」

「私、カクテルってわからなくて……」

「じゃあ、黒いカクテルってあります?」


 ──黒いカクテル……? カクテルのオーダーってそんなラフな感じでいいの?


「かしこまりました」


 マスターが低い声で言う。


「コーヒーは飲めますか?」

「はい、大丈夫です」

「では、少々お待ちくださいませ」

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